スライム相手に死んでしまうとは情けない
四話目
「成長って職業なんですか? 他のとかにはなれない系?」
自分のステータスの低さを嘆きつつ、職員に聞いてみる。
「赤子のステータスではよくあることです。もっとも、王族や剣聖の子孫となると、生まれた時から職業が決まっていることが多いですが」
なるほど、よくあることのか。俺は赤子じゃないけどね。
「成長ってのはどういうことを指すんです?」
「一般的には食べて、寝て、歳を取ることを指します」
「俺が年を取ってないように見えます?」
「カードは嘘をつきません」
その絶対の信頼感はどこから来てるんだ。あぁ、経験上か。俺にないやつね、はいはい。なんで自分で勝手に切れてるんだろ俺。
元の世界では数え切れないくらいの食事と睡眠をとってきたが、この世界ではカウントされていない。つまり、この世界で繰り返せば成長出来るはずだ。食っちゃ寝の生活か。自慢じゃないが他の人達よりも濃い食っちゃ寝生活をしてきてたと自負している。しなくていいな。
「他にもあるぞ、成長が」
ガウルが妙に自信満々に言ってくる。聞いてやるか、無視は可哀想だし。
「他にもって?」
「無論! 戦闘よ!」
まぁ、そうだわな。戦闘。バトル。敵と戦い、倒すことを指す。
しかし、この世界はゲームとは違う。死んだら終わりのはずだ。一度死んだ身だし怖くはない、怖くはないのだが一応聞いてみるか。一応ね? 怖くないけどいやマジで。
「ちなみに死んだらどうなるの? 天国とか?」
「教会が蘇生をしてくれる」
蘇生。死んだ人間を生き返らせ、死ぬ機会を提供するという拷問の一種。いや蘇生はそんなものじゃないけどな。
しかし、蘇生か。生き返るのが当然の世界なのか。そうなると俺の仮説は間違っていたな。俺が元の世界で死に、この世界で生きることになった原因。生き返らせてくれた張本人がいると踏んでいた。もしも、そいつを見つけられれば元の世界に帰れると思っていたが、意外と難しいかもしれないな。
まぁ、生き返れないなら生き返れないでこの世界を楽しもうじゃないか。赤子のステータスではあるが。
☆☆☆☆☆☆
ガウルと世間話をしながら酒場で料理を食べた。木製の食器に大盛りで出てくる。魚っぽいものや、肉っぽいもの。味付けは濃いめだがとても美味しい料理ばかりだった。
☆☆☆☆☆☆
ガウルと何を討伐するか話し合った結果、一番安くて安全なスライム退治をすることにした。
先の門番二人に見送られて荒野を歩いていると、ガウルが話し始める。
「スライムってのは、こう、プニプニしててな。愛らしいんだが、触ると人の肌を溶かしてくるんだ。だから、こういった剣でズバーっと斬り、体の真ん中にある核を砕くのさ!」
新品ではないであろう剣を振り回しながら熱く語る。こちらも気分が高揚してきた。
それにしても皮膚は溶かしても、剣は溶かさないのか。アルカリ性か? ということは、スライムは膵臓なのだろうか? 誰のだとしても食べたいとは思わないが。
話しながら歩く内に街と森との中間にやってきた。そこでガウルは足を止めると、先程まで楽しそうに振っていた剣をこちらに投げてきた。所々刃こぼれして、輝きが失われている。しかし歴戦の証とも言うべき傷が独特な輝きを放っている……ように感じる。もしかしたら放ってないかもしれない。
重々しいそれを両手で持ち、構える。するとガウルが口を開いた。
「左手が下な。」
分かってましたからね? 大丈夫だよ?
右の方からポコポコと音が聞こえる。振り向くとそこには、いかにもなスライムが上下運動しながら、こちらに近寄ってくる。大きさは、小さめの犬くらいだろうか。想像していたよりも大きい。
ゆっくりとスライムに対して向きを変える。大丈夫、相手はスライム。雑魚中の雑魚。ゲーム内では最初の戦闘。流石に死なない。
スライムの体の中に赤く光る粒が見える。あれが核なのだろう。ピンポン玉くらいの大きさだ。あれを壊せられれば勝ちだ。
真っ直ぐにその一点だけを見つめ、振り下ろす。その剣がスライムに届く。しかし、むにゅんといった音とともに刃が数センチ埋まった程度だ。
切れたというより埋まった感じだ。
そして、うねうねと動きながら剣を飲み込んで行く。
「いかん! 離せ!」
ガウルが叫ぶ。
「何を!? スライムを!? 離れないんですが!?」
「剣だ! 剣!」
剣ね! と思いながら手を離す。
「腕まで飲まれてるんですが!?」
スライムの中で手を離したが、スライムが俺の腕まで飲み込んでいるので離れてくれない。どんどん侵食してくる。
「あっ……あー……」
ガウルが残念そうな声を出す。
「あって何!? ていうか熱いんですけど!? これが溶けてるってやつですかぁつっあつあつあついあつい!!!!」
腕にまとわりついたスライムから、燃えてるかのような熱さを感じる。アルカリで溶かされ、腕の皮膚がボロボロになっていることだろう。
「熱いんですが!! ガウッんぐっ!?」
ガウルの名を叫ぼうとした時、口の中にスライムが入って来た。熱さという痛みが襲ってくる。しかし、口をふさがれていて叫べない。呼吸が出来なくなり、痛みで意識が朦朧としてきた時、声を聞いた。低く、優しく、懐かしく、それでいてどこか咎めるような声。
「気づかないか」
とだけ。
☆☆☆☆☆☆
そして、目が覚める。眩しくて目の奥に痛みを感じる。
体を起こすと、柔らかな女性の声でこう言われた。
「おぉ、神よ。彼の者に再び立ち上がる勇気と立ち上がる力を!」
愛と勇気は友達としてくれてやるんで力を下さい。




