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俺は君を幸せにする為に

四十八話

「絶望を味わわせよ、ヒュドラ」


 その声と共にヒュドラが数歩前に出る。溶けた金属が滴り、地面に穴を開ける。


 さっきとは少し違う方法で倒してみるか。魔法を実際に扱ってみて思ったんだが、術者の手を離れた魔法はその効力を持たないっぽい。ヒュドラのような倒すのが難しそうな場合は、本人を倒した方がずっと楽そうだ。


 土の壁を生み出す。この魔法を悪魔に使っていたとき、フーリエは悪魔に気絶させられていたはずだ。


「そんなもので守れると思うなよ」


 生み出された土の壁にヒュドラの首が全て突っ込む。一瞬だけしか動きを止められなかったが、身を隠し、地中に潜るには十分だった。土煙が巻き上がり、地中に潜ったことにフーリエは気が付くのが遅れる。


「体当たりの次は逃げか。小賢しい」


 フーリエが杖を振るう。すると、ヒュドラは5本の首全てから穴に向かって火を吐く。


「あっちぃ!」


 穴を掘っていたら後ろから火が迫ってきていた。急いで地上に出るとヒュドラとフーリエの中間に出てしまう。


 まぁ、目標は達成できたから良いとしよう。


 そんなことを考えながら右手に氷の剣を生み出し、ヒュドラが頭を突っ込んでいる地面を軽く土で固定する。一瞬でも時間を稼げればそれで良い。左手に酸素と水素を生み出し、両足と右手に魔力を集中させる。そしてフーリエに向かって駆け出す。


「ヒュドラは特殊な個体でね。倒された首は2本になって再生されるんだよ。最初に出した首を君は倒した。つまり」


 全力疾走しながらなので、フーリエが何を言ってるのか聞こえない。腹から声出して!


「もう1本あるんだよ」


 目の前まで迫り、剣を振り上げる。それを振り下ろそうとした瞬間、右手ごとヒュドラに食われる。攻撃用に集めた魔力を防御用に展開するも、少し間に合わない。肉が溶け、一部は骨が見えている。


「うぐぁあああああ」


「さて、ここから何を見せてくれるのかな?」


 楽しそうな顔でこちらを見ている。後ろの方ではボコボコと音がする。ヒュドラの首が抜けたのだろう。あまり時間が無いし、魔力も少ない。左手の爆発物をフーリエの後ろに展開させる。一瞬で片を付けなければヒュドラか魔法かで殺されるだろう。


 水素と酸素の混合物を爆発させる。フーリエは驚き後ろを振り返る。その瞬間を見逃さず、右手に集めていた魔力を使って、フーリエの杖に軽く氷の膜を作る。


 魔力の保護が無くなった腕は、ヒュドラの熱によって一瞬で蒸発する。噛まれた腕が蒸発し、支えが無くなり落下する。落下しながらも、両足の魔力を使って小さな木の杖を作る。その時、背中に隠していた宝石を巻き込んで作り出す。先ほど地中に逃げたときに見つけた奴だ。どんなのが良いのかは分からなかったが、とりあえず綺麗な奴を大量に集めておいた。


 フーリエが背後に何も無いことを確認し、こちらに杖を向ける。


 右手を失ったので着地に失敗する。


 しかし、フーリエの杖は未だに凍っていて魔法が出ない。それに気づき、溶かすための炎魔法を生み出して氷膜を溶かすが、フーリエが魔法を撃つよりも一瞬早く、フーリエの顎に杖を向ける。


「なる、ほど……ただ逃げていたわけでは無かったようだな。それに右手を丸々一本犠牲にしたか。……魔族を倒したというのもあながち嘘では無かったのかもしれんな。だが、貴様の魔力はもう残っていまい」


 その通りだ。口から出る魔力もほとんど無い。だからこそ杖を作ったのだ。どれくらい増幅してくれるかは分からないから賭けだが。


 杖を握りしめ、イメージする。地面から生える大木。悪魔が魔法で使っていたような、綺麗で雄々しい木。


「いっけぇえええええ」


 叫びながら杖に最後の魔力を込める。頼む……頼む!


「残念だったな」


 フーリエが呟いた瞬間、杖の宝石が光り出し、フーリエの足下に雑草を生み出す。勢いよく成長していき、足を、胴を、腕を拘束しながら大きくなっていく。大木は天高くまで育ち、中程にフーリエの顔だけが見える。なんとか逃げだそうとしているっぽいし死ぬことは無いだろう。


「凄い……」


 ルルが後ろで呟く。


「勝ち、だな」


 右腕が繋がっていた肩を押さえる。焼けて血は流れていないが、意識が薄れるほどに痛む。


「ぐっ……まだだ……! ヒュドラ!」


 フーリエが言い放つ。


 ヒュドラはゆっくりと一歩一歩近づいてくる。魔法は基本的に、命令を一度行うと最後まで遂行しようと行動する。だが、流石は副隊長。身動きが取れないまま魔法の上書きをするとは。お手上げだ。


 思わず膝を折る。右肩の痛みも忘れ、ヒュドラを見る。表面から流れた金属が地面をも溶かす。一歩ずつ地面を踏みしめ、こちらに向かう。魔力は少しずつ回復してはいるが、このままでは間に合わないだろう。


「さぁ! 見せてくれ! ここからどうする! 大罪人!」


 フーリエの顔が歪む。それは勝ちを確信した笑み。


「ゴボァアアアアアアア!!!」


 ヒュドラがその笑みに答えるように吐き叫ぶ。


 一歩、一歩進んで来る。もう少しだ。そこだ。踏め!


 ヒュドラがある地点に踏み出した瞬間、地面が崩れる。大きな穴が空き、ヒュドラは落下する。


「なっ……!」


「地面潜って逃げたわけでも無い。宝石を集めただけでも無い。落とし穴も兼ねていたんだよ」


 ヒュドラの全身が隠れてしまう。


 あの巨体が見えないほど深い穴だ。出るのは難しいだろう。


「今度こそ、勝ちだな」


 フーリエの魔法を解く。


「負けだ。完敗だ。彼女のことは惜しいが、君に委ねよう。もっとも、それを彼女が望むならば、だが」


 後ろを振り返る。心配そうなルルと目が合う。


「その……私は……」


「ルル……俺は君を……」


「ルル! ルルっ!」


 誰かがルルを呼ぶ声がする。いや、誰かじゃ無い。この声は。


「お父さん!」


「ルル! 大丈夫か!」


 心配そうに駆け寄るルルの父親。


「どうしてこんな……フ、フーリエ様、これは……」


「いや何。一興でな」


 ボコボコにされてなに格好つけてんだこいつ。


「そ、それは……どういう……」


「この娘が見合いをしたくなさそうでな」


「なっ……! そんな事は!」


 父親はルルを見る。


「この娘の今後を賭けて、この男と一勝負をしただけだ」


 その言葉でルルの父親は俺を睨む。ごめんね。でも始めたの俺じゃないし。


「まぁ良い。私は負けた。その娘はその男のモノだ」


 フーリエの諦めた口調に、父親は俺に掴みかかる。


「前にも話しただろう! ルルは! ルルは……!」


「お父さん!」


「ッ……ルル」


 ルルが何か言いたそうに着物を握り、俯く。


「ルル。私はお前に何もしてやれなかった。お前が欲しい時に欲しい言葉を、欲しい物をあげられなかった。だから……お前に恨まれたとしてもさせたいことをさせてやりたかった。旅に出したのも、今回の見合いも」


 まぁ、学長から聞いた通りだ。


「私は……私は……!」


 互いに言葉に詰まる。無粋だろうが口を挟ませてもらおうか。


「ルルは。彼女は自分のやりたいことをやってきたのを俺は見ていました。彼女が進んできた道は、彼女が選んだ道です」


「それが……どうした……」


「彼女が魔法を覚えたのも、旅に出たのも、魔法が使えるようになったのも、見合いの席まで来たのも、彼女の意思です。彼女の心に刻まれた傷は消えない。それはあなたが一番分かっていることでしょう。でも、彼女はあなたの為にここまでやってきた。頑張ってきた。でもそれは全てあなたの為じゃない。彼女の意思もあるんです」


 父親はルルを見る。


「あなたが思うほど彼女は弱くない。そして、あなたが左右して良いほど、彼女の人生は薄っぺらい物でも無い!」


 父親は俺を睨むが、すぐに力なく視線を外す。


「私は……私に恨みが無いと言えば嘘になります。でも、それでもお父さんはお父さんです。お父さんの笑顔が見たくて色々頑張ったんです。でも、嫌じゃ無かった。楽しかった。魔法が使えたことも、お父さんの笑顔が見れることも。そして、仲間と一緒に旅をすることも」


 ルルの手が、声が震える。


「ルル……私はお前に……」


「もし、許してもらえるなら、私は旅をしたい。世界を、人を、全てを見たい。そう思っています」


 ルルは父親の前でしゃがむ。


「私がお前にしてやれることは……ほとんどない。不甲斐ない。本当に不甲斐ない親だ。お前の為にと思って……」


「感謝しています」


「お前が魔法が使えなかったのも、学校で陰口を言われていたのも、辛い思いをさせたのは私だ。私がお前の人生を狂わせてしまった……」


「狂ってなどいません」


「他の子たちが歩む人生を、幸せをあげられなかったんだ……」


「私は私の人生です。満足しています。楽しいんです。それもこれも旅に出たからですし、魔法が使えなかったからですし、お父さんのお陰です」


 父親は潤んだ目をルルに向ける。ルルも同じ目を父親に向ける。お互いに腕を伸ばし、抱き合う。言葉を交わすこと無く、お互いの思いを確かめ合うように、強く、強く抱きしめた。


 美しいかな親子愛。素晴らしいかな思い合い。


「すまないな、茶を一つくれないか。魔法の打ち合いは喉にクる」


 空気読め。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ルルの父親には話し合いの結果、一応納得してもらった。一応だが。


「大丈夫ですか? 腕大丈夫ですか? 腕」


「大丈夫大丈夫、そんなに腕を強調しなくて大丈夫」


 ルルが心配そうにこちらを見る。


HPが1だとは思えないほどの損傷。いや、というか流石にこれはおかしいよな。


 ルルは、良かったのだろうか。本当は後悔はしていないだろうか。本当は戻りたいとは思わないだろうか。


「どうしたんですか?」


「ルルはさ。良いの?」


「良いんです。あなたが私の為に道を開けてくれたんです。もう後悔なんてしないです。本当に進みたい道が見つかったので!」


「その道っていうのは?」


 ルルは一歩先に進み、振り返る。




「内緒です!」

やっとここまで来ました。物語としては折り返し地点です。


執筆ペース遅くて申し訳ないなという気持ちで夜も起きれません。


見て下さっているたくさんの方々に最大限の感謝を……!

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