君の幸せとは
四十七話
「久しぶり、ルル」
ゆっくりと手を伸ばす。
「っ……」
ルルは少しだけ、身を引く。
……まぁそうだよな。
「今更、何をしに来たんですか?」
今更、言われて当然だ。ルルを見捨てたんだ、他でもない俺が。
「助けに来たんだ、ルルを」
「助けに……?」
ルルの顔が歪む。
「前も同じようなこと言いましたよね。俺が渡させないって。必ず幸せにするって。なのに、なのに……」
「ちがっ……前は……前だけど……今回は本当に俺が君を!」
「聞きたくないです! もう……もう期待して絶望するのは嫌なんです……他でも無いあなただから……私は期待してしまうんです……だから……だから!」
また俺はルルを泣かしてしまったのか。また同じ過ちを。こうならない為に力を得たんじゃ無いのか。
「俺は……君に……」
二人の距離は、縮まらない。
「失礼します! フーリエ様がお見えに……?」
付添人だろうか。部屋に入るなり俺の姿を見て首をかしげる。
「怪我をされて来られないはずでは?」
ルルは冷静に答える。
「そのはずなのですが……お通ししますね」
付添人が退くと、そこにはフーリエがいた。昨日悪魔と戦っていた男だ。
フーリエはルルの方を見ずに、俺の方へと向かってくる。
「貴様か。魔族に魂を売り、その上で魔族を倒した酔狂人というのは」
誰が酔狂人だ。
「魂は売ったつもりは無いけどな」
「禁忌魔法をその身に受け、魔族と行動を共にしていたと話を聞いている。間違いでは無いのだろう?」
「まぁ、強制されたみたいな感じだったからな。悪魔倒したんだし俺は無罪だろう」
フンッと鼻で返事をした。今のは返事か……?
フーリエはルルの方を向き、話しかける。
「今回の見合いの相手か」
「ルルと言います。よろしくお願いします」
「無名の家の出だからどんな奴かと思えば……雑草の中にも美しい花を咲かせるモノもいるのだな」
うわぁ……うわぁだよ。
「あ、ありがとうございます」
「その事で俺から話があるんだが」
フーリエとルルの方を見て話す。
「なんだ? 貴様に口を開く権利があるとでも?」
「悪魔一人倒せなかった奴よりはあるだろう」
「喧嘩を売っているのか?」
「どちらかと言うと買ったんだがな」
にらみ合う。違う違う。そうじゃない。話が進まない。
「今回の見合いの話を無かったことにしてほしいんだが」
「はっ、何を言い出すかと思えば。理由を聞こうか」
「ルルが今回の見合いを望んでいるとは思えない。それだけだ」
「そうなのか? 望んではいないのか?」
フーリエがルルの方を見て聞く。
「私は、私は……」
それだけでフーリエは何か察したのだろう。
「ふっ、そうか。だが、私には顔というものがあるからな。そう易々と頷けはしない」
そりゃ顔はあるだろ。何言ってるんだ? あ、世間体的な話?
「そして私自身ここに来たのは他でもない。貴様に会いに来たのだ。私が倒せなかった魔族を倒した者がいる、と。その力が本物か確かめてみたかったのだ。尤も、私は悪魔と貴様が手を組んだのではないかと、踏んでいてね」
大正解。頭良いっすね。
「それに、欲しいモノは力尽くで奪いあう。それも一興だろう?」
頭良いし、格好いいし、強いし、地位あるし。こいつの伴侶は幸せになれそうだな。
でもそれは、ルルじゃない。
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旅館の庭に出る。
「さて、見せてもらおうか。その腕を」
フーリエが右手を挙げる。
「融かせ。ヒュドラ」
地面から鈍く光る、木の太さほどの金属の龍が現れる。その龍が口を開くと、中が赤く光りだす。目が赤く燃え、鱗の隙間から溶けた金属が溢れる。
あれは熱そう。触れたら溶けるというより蒸発するレベルで熱そう。さて、熱々に冷やされた金属を冷やすには? 大量の氷や水を使えば簡単だが、魔力がもったいない。
ゴポゴポと口から溶けた金属を流しながら、ヒュドラが浮遊し、地面の草を瞬時に灰にしながら迫ってくる。
冷やすなら表面じゃなく、内部を冷やす方が効率が良いな。なら、肉弾戦と行こうか。
魔力を全身に纏わせる。右半身は多めに。右手に多めの魔力球を集める。変換するのは氷だ。
「何をする気か分からんが、ヒュドラは骨まで融かすぞ?」
口が真ん前まで迫っている。中は燃えていて、溶けている。熱で皮膚が焼けそうだ。
大きく開けた口に、右肩から先を突っ込む。ヒュドラの牙が魔力の鎧で防がれるが、熱は貫通して服を燃やし始める。目が瞬時に乾燥し、鼻も口も開け続けるのが辛い。
「あっぢぃ! これでも……くらえ!!」
口に突っ込んだ右手の魔力球を氷の塊に変え、撃ち出す。口から体の中を通り、尾の近くから小さくなった氷が飛び出る。体に大きな穴が空き、体の内側から冷やされたヒュドラは動きを止める。ヒュドラの残骸が金属片になり、崩れ落ちる。
「魔法使いとは思えない戦闘方法だな。下品というかなんというか」
フーリエが、胸ポケットから20cmほどの小さな杖を取り出す。
「魔法使いは杖を使う。なぜなら、基本的に杖無しでは魔法の威力は半減するからだ。だが、ある程度以上の魔法使いは、杖無しでもそのままの威力で魔法が撃てる。ではそのような者達が杖を使う理由は何だと思う?」
「さぁね。魔力が増幅するとか?」
ボロボロになった服を魔力で作り直しながら聞き返す。
「近いな。杖に取り付けてある宝石の階級と数で魔法の威力は倍増される、というのが正解だ。そしてこの杖には最高級の宝石が5個付いている。つまり、私の今の魔法の威力は威力は5倍だ」
フーリエは、パレード隊のように杖をクルクル回し呪文を唱える。
「真の姿は此処に在り。顕現せよ、ヒュドラ」
地面から先ほどのヒュドラの首が5本生えてくる。その首の全てはトラックほどの大きさの体と繋がっている。それら全てが赤く輝き、溶けた金属が滴っている。
「絶望を味わわせよ、ヒュドラ」
ちょっと長めでも次でルル救出までやりたいなと思ってます。




