初魔法は絶命と共に
三十八話
地面に寝そべっていた。先ほどまで戦っていた所だ。
「さて、何かつかめたかな?」
正直何もだ。辛くて痛かっただけだ。帰りたい。
「何も」
悪魔は首を捻る。
「じゃあ、次はもうちょっと痛めにしてみよう」
嫌ですけども。
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繰り返すこと五回。
「深淵より出でし断罪の茨」
悪魔が呪文を唱えると、足下から草が生え、体に絡みついてくる。
「いってぇ……」
その草には棘が生えている。文字通り茨だ。
戦闘が始まって呼吸が苦しいのに、刺されている体中が痛い。
吐きそう。痛みと苦しさで吐き出しそうになる。意識が朦朧としてきて、手足の感覚が無くなってくるのにも関わらず、吐き出しそうな感覚だけははっきりと感じていた。
もういい。吐いてしまおう。
口の端から何かが零れる。でもそれはご飯では無い。飲み物でも無い。黒い何か煙のようなモノだ。
ここで意識は途切れた。
「さて彼の者よ。立ち上がれ。あと勇気となんだっけ」
悪魔に手を引っ張られて、起き上がる。
「最後に出したあれが魔力。どう? 分かった?」
どことなく嬉しそうに言ってくる。
「口から漏れ出たやつ?」
唇を親指でなぞりながら問いかける。
「そうそれ。黒めの煙みたいなやつ。今思い切り息を吐いても出てくると思うよ」
大きく息を吸い、吐き出す。真っ黒な煙が口から溢れ出る。
「それそれ」
悪魔は嬉しそうにこちらを指差す。
呼吸をする度黒い煙が出る。気分は機関車だ。
「それで体を覆う感じ。」
そう言われ、意識を集中させる。息を吐き出しながら、鎧のように。全身に隈無く張り巡らせる。
「さぁ、目を開けて」
ゆっくりと瞼を開ける。
目の前では悪魔が呪文を唱えていた。その詠唱終わると同時に虚空から現れた短剣を右手で握り、そのまままっすぐ突き刺そうとする。体は反射で避けようとするが間に合わない。
短剣が胸の真ん中を刺す。
瞬間、ガッという音が剣先から放たれる。反動を感じ、二歩下がる。
「痛……くない……?」
刺されたはずの場所を撫でる。そこには血も傷も何も無かった。
「おめでとう。それが身体強化。防御、だ。」
これが……魔法。俺が使える魔法。
胸をさすりながら、悪魔の方を見るが目の前が真っ暗で何も見えない。
呼吸が……意識が……飛ぶ……
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「おはよう間抜けな魔法使い」
体力にステータスが無い以上、戦闘開始で死ぬのは避けられない。完全に忘れていた。魔法を使えたことの嬉しさが勝っていたのだ。
「体力の考え方はものすごく難しい。なので死ぬということから考えてみるとしよう」
先ほどから先生の様なことを言っている。悪魔なのに。
「死ぬとはどういうことでしょうか」
考えを読み取ったのだろうか。眼鏡をクイッと上げる仕草をしながら問いかけてくる。眼鏡かけてないだろうに。
「心臓が止まるとか、呼吸が出来なくなるとか、脳が死ぬとか」
「おお、正解。君が居た前の世界ならね」
……あれ? 俺はこいつに前の世界の話をしただろうか?
「この世界での死は、魂と肉体の剥離の事を指すんだよ」
魂と肉体? そういえばそんな話をどこかで……
「教会は、その街のどこかにある個人の情報を増幅させ、体の情報とし、魂をそこに結びつける役割を担っている」
「つまり、体と魂が離れない限り死ぬことは無い、という事か」
指を鳴らして、その通り! と答える。単なる復唱だったんだが。
「ではもう一つ。魂と肉体を結びつけ続けるにはどうすれば良いでしょうか」
こちらをゆび指す。指すな指すな。小学校で習っただろう。
普通に考えれば肉体を失わないことだ。そうすれば魂は離れていかないはずだ。だが戦闘開始と共に苦しくなるあの現象は? いくら肉体を失わなくたってあんなのは無理だ。
「さぁ時間切れだ。正解は、肉体を失わないこと。だけれども君の問題はそこじゃない」
その通りだ。戦闘開始で頭が吹っ飛んで無くなるわけじゃない。呼吸困難で死んでしまう以上肉体は関係なさそうだ。
「君は、苦しくなってしまう事をどうにかしようとしているけれど、そうじゃない。それはどうしようもないことだ」
続けて悪魔は言った。嬉しそうに、にこやかに、明るい声で。
「だから禁忌を犯そう」
割と大きな事故に遭ったのですが左手の小指を折るだけで済みました。
異世界転生はいつ頃になるでしょうね。




