判断の行方
三十六話
ルルが心配そうにこちらを見ている。
「お見合いをした上で断れば、大丈夫ですよ」
今にも泣き出しそうな顔で言ってくる。あの父親の事だ。お見合いをしたと言うことは、その先も。そう考えているだろう。
お見合いをさせない。どうやって? 会場を壊す? 現実的じゃ無い。
お見合いをさせたくないと、そう父親に思わせる。それもどうやって? 相手の欠点でも探すか?
「……それでいこう」
ルルは驚いた顔をする。ルルの話に同意したみたいになっちゃったね、ごめんね。
「お見合い相手のダメダメな所を、俺が見つけてくる。そしてそれをルルのお父さんが知れば」
「はい」
ルルは苦笑しながら頷き下を向いてしまう。最後まで言わせてくれない。不可能だと思っているのだろう。正直、俺も無謀だと思う。でも今は他に思いつかない。
「ルルは衣装の試着とかあるんだっけ」
「そうですね」
下を向いたまま答える。
無力だ。好きな人一人守れないなんて。
「必ず。必ず俺がルルを幸せにする。どこの馬の骨とも知れない奴には、絶対渡さない!」
肩を掴み、力強く言う。
ルルは顔を上げ、赤くなった目をこちらに向け、ゆっくりと笑う。
「はい! 信じています!」
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王国直属騎士の魔法隊がなんとか、と言っていた。王国ってどこよ。
分からないことがあれば、魔道学校学長様の所に行くべし。古事記にも書いてあった。
「魔道師様」
学校のドアを開けると共に、挨拶の言葉を投げかける。
「そんなに堅苦しくならなくて良いぞ。」
全力でフランクに行こうかとも思ったが、今の俺は真剣だ。
「王国騎士の魔法隊の副隊長ってどれほど凄い人ですか?」
魔道師様は顎髭を撫でて答える。
「王国はこの世界と魔界との秩序を保つ存在である。そこの直属騎士ともなれば、その街で一位二位を争うほどの強者じゃろう。そして副隊長ともなると、この世界で二番目に優秀な魔法使いじゃな」
それがどうかしたのかの? とこちらを見ながら問いかけてくる。
「実は……」
ほとんど全てを魔道師様に話した。
「ふむ……確かに副隊長殿が見合いをする、そんな話は耳にしていたが……相手がルルだとは」
あまりに情報伝達が速くないか? お見合いの話が出たときもそう思ったのだ。ルルが合格する前から、お見合いをすることが決まっていたようなそんな感じの。父親はルルが合格すると確信していたのか?
「他者が口を挟むことでは無いがの? 王国直属騎士副隊長ともなれば、この国で何不自由なく生きてゆける。ルルの気持ちはそうは思っておらぬじゃろうが、ルルの人生を考えると幸せのあり方としては間違ってはおらぬじゃろう」
何も言い返せない。現状魔法も剣も扱えず、将来的に魔法が使えるようになるかもしれないし、ならないかもしれない。そんなのと一緒にいるよりかはましなのでは無いだろうか。
魔道師様はどこか困ったような目でこちらを見ている。
「君達が相思相愛な事は見ていれば分かる。が故に、ルルが幸せなのはどちらなのか。考えてみるといい」
そう言い残し、部屋を去って行く。
俺は……ルルの……
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部屋のふすまを開ける。
そこには着物姿のルルが居た。こちらに気付き、近づいてくるが俺の顔を見て、その足が止まる。
「どう……したんですか……?」
「考えたんだ。真剣にずっと」
ルルの顔が見られない。
「俺はルルが大好きだ。本当に。心の底から。だから」
ルルの方から息をのむ音が聞こえる。
「ルルには幸せになって欲しい。そのためには、隣にいるべきは俺じゃ無い」
無力さに、不甲斐なさに、滑稽さに、手が震える。それを誤魔化すようにズボンを握る。
顔を上げ、ルルの方を見る。
泣いていた。声を上げず、歯を食いしばり、目を大きく開き、口は何を言うか、何を言うまいかと、開閉している。
「わかり……ました……」
ルルの口から声が漏れる。余りにも小さく、震えている。
何も言えず、ゆっくりと部屋を出る。そして後ろから声がする。
「今まで……ありがとう……ございました」
この世界に来て、初めて真剣に力が欲しいと、心の底から願った。
どうなるんでしょうね。本当に。ノープランですけども。




