魔術都市ユルズ・ガヴェイン
三十一話
そういえばなんでお金が必要なのか。クリスタル状のパスポートがあるなら必要ないよな?
「なんでテレポートなのにお金が必要なの?」
ルルはポケっとした顔をしている。ごめんね無知で。
「魔術都市は入国にお金が必要なのです。多種族は、ですけど」
ということはあれですか? 貯めてたのって俺のお金ですか?
「え、ごめん」
「あ、いえ。私が行こうって言い出したことですし」
「でも多種族はお金が必要って、何で?」
「単純に、あれば越したことはないからです」
「そんなみみっちい話なのか」
「というのは建前です。口には出さないものの、魔術を使えない種族を下に見ているんですよ、魔術師は。他の種族は魔法が使えないので、外から来て欲しくないんですよ」
「俺は行って良いの?」
「あ、大丈夫です。今もそんな事を思っているのは一握りですから。大半の魔術師は優しいですよ」
行った瞬間に、その少数派に殺されたりしないだろうか。
そんな話をしながら歩いて行く。オルトゥの一つ目の門を潜ったところで立ち止まる。
「さて、じゃあこちらに来てください」
地面に直径4m程の円が描かれている。その中心に立つ。そしてルルが手を握ってくる。
「じゃあ行きますよ。別に痛くはないので力は抜いてくださいね」
深呼吸する。肩の力を抜く。
ルルがクリスタルを取り出す。それを胸の前に持って来て、力を込める。中の緑色の光が強く輝き出す。
体が持ち上がる。足下が強く光り出す。目を閉じる。
音が賑やかだ。そしてもう眩しくない。ゆっくりと目を開ける。
全体的に黒い街並み。家も洋風で道も石造り。見渡すと遠くに高い教会のような建物が見える。
街を歩いている人々は、魔術師ばかりだ。他の種族が見当たらない。
街を見ている間にルルがお金を払ってくれたらしい。頭が上がらない。
「本当に魔術師ばかりだね」
「お金をかけてまで見るべき物なんて、この街にないですからね」
毒舌ですね? オコ? オコなの?
「さて、それでは行きましょうか。私の家に」
「御挨拶?」
冗談交じりに言ってみる。
「そんな雰囲気になれば良いのですが」
どんなに空気重いのさ。そういうの嫌いだよ?
街並みを見ながら歩く。魔道師の服をみんなが着ている。ルルが着ていたやつだ。楽なんだね。
ちなみに今日のルルの服は魔道着だ。
長いこと歩いたが、他の種族を見かけなかった。本当に何もないんだなここ。
「さて、着きました」
一軒の家の前で立ち止まる。別段豪華ではないが、普通に綺麗な家だ。
ルルは息を大きく吸い込み、吐き出す。そしてドアノブに手をかける。
ゆっくりと開けながら家の中に向かって声を上げる。
「ただいま帰りました」
すぐに声が帰ってくる。低くて渋い声だ。
「魔術は使えるようになったんだろうな」
「はい」
俯いて答える。
「そうか。入れ」
ここでようやく家の中に入る。
怖いですね。凄く。帰りたい。宿で寝ていたい。
部屋の中に入り、後ろ姿の男性に声を掛ける。
「ただ今帰りました。お父さん」
男性が振り返る。
渋い顔だ。50代の男性だ。日本人顔で整っている。雰囲気は少し厳しいお父さん、という感じだ。
「魔術が使えるようになったのか。どれほどだ」
「覚えている魔法全部です」
ほう、と声を出し顎を触る。
「であるなら第一級魔道師になれるだろうな。流石は私の娘よ」
もう少しで、小物感半端ないですね。と言うところだった。
「ありがとうございます。この後魔術学校で試験を受けてこようかと」
「そうか。そしてそこのヒューマンは何だ?」
おぉ、そういやそうだった。
「ええと俺は」
「お前には聞いていない」
ヒュー。なんだそれ。小物感盛りつけすぎじゃないですか? 特盛りですか?
「彼は私の旅を助けてくれた方です」
「そうか」
それだけ言うと、ルルのお父さんはまた後ろを向いた。
「では行ってきます」
ルルに連れられて家を出る。そして扉を閉める。その瞬間大きなため息を吐く。
「大丈夫?」
「あ、はい。すみません」
トラウマの塊だしな。仕方ないよ。
「さあ、じゃあ行きましょう」
そう言って連れてこられたのは、さきほど見えた大きな教会だ。
大きくて古い扉を開ける。
「お久しぶりです。先生」
そう言って話しかけたのは、魔道着を着たおじいさん。髭が長い。
「おぉ! ルルか。久しいな」
ルルの姿を見て破顔する。優しそうなおじいさんだ。
「この方は、この魔術学校で校長をされている魔道師様です」
へぇ、偉いんだ。くらいの感想しか浮かばない。
「聞いてください! 私魔法が使えるようになりました!」
「本当か! それは良かった。本当に良かった」
自分の事かのように喜んでいる。ルルと魔道師はそれから数回言葉を交わす。
「なので魔術試験を受けようかと」
「ふむ。ドラゴンも倒すその魔法。本当に一級魔道師になれるやもしれんな」
「はい! ありがとうございます! 行ってきます!」
あ、すぐ受けられるものなんだ。
「先生! その人に魔法について教えてあげてください! もしかしたら最強の魔道師になれるかもしれません!」
ルルが走り去る直前、そう言った。
「ほう?」
「どうもその人です」
挨拶は不要だろう。ルルにあそこまで好かれている。それは敵だと教えているようなものだ。
「ほっほ。おぬしもルルも分かりやすいの」
何がだろう。何が分かったのだろう。殺意? やっぱ分かります?
「さて、では魔法について少し話そうかの。付いてきなさい」
教室のような部屋に案内された。
「まぁまぁその椅子に座って」
椅子に座る。すると満足そうな顔をする。なんだろう。
「さて、何から話そうかの」
顎髭を撫でながら目の前の魔道師は目を瞑った。




