謎の男
三十話
目を覚ます。今日は良い朝だ。いやなんとなくだが。ルルはまだ寝ていた。
朝食まで時間があるので散歩するか。
宿から外へ出る。壁の穴から日の光が漏れ出ている。朝に見える星空の様で綺麗だ。
宿からまっすぐ進むと、大通り。左へ行くとノイマーの家。右は図書館だ。
今日は一日図書館に行くつもりだが、まだこの時間では空いていないだろう。
大通りを進む。道沿いは大きな店ばかりだ。もう開店しているところもある。流石に客で賑わっているところはないが、談笑しているところがちらほらだ。
ゆっくりと歩いて行く。大通りの中盤ほどまで歩いてきた。少しずつ街が活気づいてきた。
この街の住人は亜巨人族ばかりだが、客には様々な種族がいる。エルフにドワーフ。ヒューマンにデミヒューマン。魔道師もちらほら見受けられる。
一時期は敵対した種族である魔道師。今では談笑するほどの仲になっている。
ガウルは見た目は年を取っているようには見えないが、昔と呼べるほど前の戦争に参加している。ルルは見た目と年齢が一致している。亜巨人族は長生きなのだろう。
この街に来ている魔術師は戦争に参加していたのだろうか。その手で亜巨人族達を殺したりもしたんだろうか。亜巨人族達は何も思っていないんだろうか。話したくないと、殺したいと思ってはいないのだろうか。
「いやぁ探した探した」
後ろから声を掛けられる。振り返ると一人の男性がいた。
背丈は俺とほとんど同じ。全身黒ずくめでフードを被っている。
「君は僕のこと知らないよね? やっと見つけたよ。良かった良かった」
「あの……誰ですか?」
「あはぁ、いや失敬。名乗るほどの者ではないんだけどね? 君を導く者って感じかな」
何言ってるんだろう。
「染まりそうなら良かったんだけどね。中々上手くはいかないよね」
フード越しに頭をかく。そしてこちらに右手を伸ばす。
「いやぁ、じゃあちょっと失礼ね」
「何がっ……っえ?」
左胸を、差し出した右手で一刺し。手を体の中でウネウネ動かす。痛みを超えて眠たくなってくる。
「ほーら力抜いて。楽になれるから」
影になっていて顔は見えないが、嬉しそうな声で言ってくる。
ダメだ。今死んではいけない。死んでしまえばこいつの素性が分からない。
「ぐっ……」
「頑張るねぇ。目の前であの女の子にもこうしたら良いのかな?」
「やめっ……」
「名前はなんていったっけな?」
「や……め……」
意識が薄れる。力が抜けていく。
「おぉ頑張ったねぇ。そいじゃちょっと混じらせてもらうね?」
どういう意味だ。誰だ。聞く前に意識が飛ぶ。
「おぉ、神よ。彼の者に再び立ち上がる勇気と立ち上がる力を!」
やられた。
教会から出る。そこにあいつはいなかった。結局誰だったんだ。
混じると言っていたが、あれはどういう意味だ?
分からない。分からない事が多すぎる。何も分からないが、俺はあいつが嫌いだ。それだけは分かる。
宿に帰る。ルルが無事なことを確認しに行く。大丈夫だとは思うが。
部屋のドアを開ける。起きたばかりなのか、腰から下は布団に入ったままだ。
「あ、おはようございます。今日は起きるの早かったですっ!?」
抱きしめる。無事で良かった。死んでも生き返られるから問題ないとは言え、やはり嫌なことには変わりない。
「あ、あの……どうしました?」
顔を見る。見つめる。
「あ、あの……」
顔が赤い。ルルがつばを飲み込む音が聞こえる。
顔が近づいて、目を閉じる。そして唇が重なる。
一瞬とも、ずっととも思える時間が経った後。ゆっくりと離す。
ルルが目を開ける。顔は赤く、息が荒い。
「本当にどうしたんですか?」
「ごめん。色々あって」
「そ、そうですか」
色々で察してくれたのだろうか、それともそんな酷い顔をしていたのだろうか。
「その、大丈夫ですか? ご飯もそろそろですよ?」
「うん。そうだね」
ゆっくりと体を離す。ルルは困った顔で笑っていた。
ルルが無事で良かった。それにしてもあいつは一体何だったのだろうか。謎の男。嫌な予感がビンビンする。
朝食をルルと一緒に食べた。味のしないご飯を。
「では行ってきますね!」
どこか嬉しそうな顔をして出掛けて行った。
さて、俺はどうしようか。怪しいやつについて、ノイマーに話でも聞いてみるか?
「いやぁ可愛いねあの子。キスされたことが嬉しかったんじゃない?」
「なっなんでおまっ」
後ろにあいつがいた。さっき俺を殺したあいつが。
「いや、別にどこか行くとは言って無くないかい?」
「いや、でも、ていうかなんで俺を!」
「あ、ごめんね?そうするしかなくてね。現王に言われたら仕方ないよねぇ」
なんだこの気ままなやつ。
「さて、君は聞きたいこと多いだろうけど、一個だけなら質問を許してあげよう」
一個だと?何について聞くべきか。お前は誰なのか、王とは何か。なぜ俺を殺したのか。色々聞きたいがどうしようか。
「うんうん君のそうやって一考する癖良いね」
馬鹿にされている。やっぱり嫌いだ。
「お前は誰だ」
「そうだねぇ、君達の言う悪魔だよ」
悪魔? 悪魔ってあの?
「なんて言うか。あんまり悪魔らしくないな」
「君以外と酷いね!」
「悪魔っぽくないっていうか」
「悪魔っぽい悪魔がうろついていて良いと思う?」
純粋な疑問だ、と言う声で聞いてくる。
「いや悪魔の時点でダメだろ」
「なんで? 悪魔はダメなの?」
「いや……なんでって……名前が」
「名前で判断するのかい? 悪魔でもキラキラでも良いじゃないか! 個性だよ!」
「う……いや……でも」
「まぁ僕は悪なんだけどね」
なんだよお前。ほんと嫌い。大っ嫌い。
「さて。やはり君は面白いね。またどこかで会うと思うよ。それまで息災でねー」
殺したやつが何を言う。
「いや待て! まだ聞いていないことがあるから!」
「質問は一個まで。ね?」
指を口と思しき所に当てて、シーのポーズをする。そのまま姿が蜃気楼のように揺れて、消えた。
なんだったんだ。
悪魔のことについてノイマーに聞きに行ったが、何も得られなかった。
次に図書館に向かう。本を何冊か選んだ。タイトルは悪魔に関する物ばかり。
だが、特に何か詳しく書いてあるわけではなかった。
この世界で悪魔と言うと、知性を持った魔界の生物という認識らしい。それ以上有益な情報は何もなかった。
やはり中央へ行くべきだろう。
その日、宿に帰ってご飯を食べた。風呂に入り、ルルと話をしながら寝た。
次の日もその次の日も。その間、あいつは姿を見せなかった。
そして四日後、ご飯を食べながらルルが話す。
「お金が貯まりました! 明日出発しましょう!」
お金はルルが全持ちだ。ありがとね。ごめんね。
さて、ようやく魔術都市だ。三つ目の街はどんな場所だろうか。




