彼の名は
二話目
「「ようこそ旅人さん! 最果ての街へ!」」
「は? 最果て?」
歓迎されたは良いものの、街の名前が物騒すぎる。
人が二人、縦に並んでも通れるくらいの大きな門を開けてくれた。
酒と香水と料理、そして少しばかり生臭い匂いを放ちながら開かれた門からは、大きな声と賑やかな楽器の音色が聞こえてきた。
街の道は石造りになっている。木造の建築物や噴水等が見えるが、それよりも街人達の方が印象的だ。
大男に竜人族? かな。エルフにドワーフ、他にも多くの種族が街の中を歩き回っている。
夢にまで見た光景が眼前に。手の届く距離に広がっている。それが、それだけが素晴らしい。心が踊る。
情景に見惚れるのも程々にし、街人達に話を聞いてみることにした。
こういった時に声をかけるべきは、筋肉マッチョムッキムキの人だ。現実では上半身と下半身とを引きちぎりそうな人がいい。
何故かって? それが異世界転生のルールだからだ。
丁度いい人が目の前にいた。2.5mくらいの大男に声をかけてみる。
「あのー、すみません。ここら辺で」
「あぁん!? 誰だお前? 上半身と下半身とで二つにしてやろうか? おぉん!? ……なんてな! ガハハハハ」
「アッアハハハハサヨウナラ」
あの人は本物だ。現実でも関わっちゃいけない人だ。
「おい兄ちゃん、大丈夫か?」
この野太くて筋肉の次にプロテインが好きですみたいな声は。
「どうしたぁ? フラフラだけど大丈夫か?」
2mと少しばかりの背丈。筋肉は盛り上がり、腕はちょっとした木の幹ほど。あごひげを少し蓄え、いかにもいい人、というような笑顔を浮かべながら話しかけてくる人がいた。
「あ、初めまして。旅をしてここに着いたのですが、びた一文も持ってないんです……ここ二日何も食べていなくて……」
最初は腰を低くして。そして、出来れば少しばかりのお金を貰えればラッキー! くらいで。
「び、びた? まぁ分からんが飯屋くらいなら連れてってやるよ。兄ちゃん金がないんだろ?」
や、優しい……
「あ、ありがとうございます! 出来ればこの街のこともいくつか教えて欲しいのですが」
「おう! 任せとけ! んじゃ酒場だな! やっぱりあそこが一番!」
むくつけき大男だが異世界ではそんなものは関係ない。優しい人はどの世界にもいたもんだ。
☆☆☆☆☆☆
街を歩きながら大男は紹介してくれた。彼自身のことも、この街のことも。
大男の名前はガウル。巨人族なのだそうだ。巨人族というと、人が踏み潰されそうな大きさのイメージだと話すと、
「昔の戦争で訳の分からん呪術を受けてな。その影響でそこまで大きくなれない巨人族達がいたんだ。それがワシらのことだ」
と言う。正直親しみやすいのでその大きさで十分だ。
大きさの話も驚いたが何より名前が凄い。正式にというか本名というか、外で名前を名乗る時は、ガウル・G・ギルフォードだそうだ。G・G・Gだ。
Gばっかじゃん。その見た目で名前の頭文字全部Gです。と言われたらゴリ・ゴリ・ゴリラとしか思わない。思えない。語感的に入れ替わりアニメ映画の主題歌っぽさがある。どれだけ前世へ戻ってもゴリラだろう感があるが。
この街についても沢山教えて貰った。宿屋に武器屋、防具屋などの冒険する上で欠かせない場所に加え、裁縫屋、家具屋等の日常品店まで教えて貰った。
そして、異世界と言えば忘れてはいけない酒場。情報収集や、仲間集め等が出来る重要な施設だ。
外から見ても大きいが中に入るともっと大きい。教室四個分くらいはあるだろう。最近見ていないから教室の正確な大きさが分からないが。
この世界では獣を狩り、金に替えて生活をする人達を、冒険者とは呼ばずに探険者と呼ぶらしい。そしてその探険者になるには、身分証明書のようなカードを作る必要があるらしい。カードは酒場で簡単に作れるのだそうだ。冒険者になる気満々だったので早速作ってもらった。
簡単な質問に答え、酒場の係の人がカードに記入していく。そして、最後の質問。名前。
ガウルが人懐っこい笑みを浮かべつつ聞いてくる
「そういや兄ちゃんの名前聞いてなかったな。なんて名だ?」
名前、名前か。わざわざ現実で使っていた名前を言うこともあるまい。
「ええと、シロって言うんだ。よろしく」