また旅行へ
二十八話
宿に帰る前にガウルの工房に寄る。この街ともガウルとも、もうすぐお別れだ。
「ガウルー、ちょっといいかな」
「おう。どした」
高炉で鉄をカンカン打っていた。ハサミで赤くなった鉄を掴み、水に入れる。焼き入れという作業だ。これをすると強くなる……んだっけな?
汗を拭う。扉を開け、奥の部屋に通される。ルルはここに来るのは初めてなのだろう。キョロキョロしている。
「んで? どうしたよ。兄ちゃんも嬢ちゃんも覚悟決めた顔して」
「ガウル。俺とルルは魔術都市に行こうと思うんだ。金も全然返せてないし、恩はそれ以上に返せていないけど」
「ほう。いやそれはどうでも良いが、急だな」
どうでも良くはないだろ。お金は大事だよ。よく考えよう。
「このままグダグダしていたら、いつまで経っても変わらない気がして」
「ふむ。そうか。分かった」
腕を組んで目を瞑った。考えているようだ。
そして目をカッと開けると。
「じゃぁお別れだな。ワシはここに残ってやらねばならんことがたくさんある」
そう言うと思っていた。ガウルにとってここから離れる意味が無いからな。最果ての街にいたときは材料を買ってただけらしいし。
「そっか。今日明日にって訳じゃないけど寂しいよ。魔術都市で強くなる方法を探してくる。帰ってきたらめちゃくちゃ強くなってるはずだからな。お金や恩もそのときに必ず返すよ」
ガウルはニコッと笑って、気長に待たんといかんなと言った。
そんなに待たせないよう頑張ろうじゃないか。
ルルが一歩前へ出る。俺ほど長い期間ではないが、ルルもガウルには世話になった。
「あの、本当にありがとうございました! この前渡したお金だけじゃ全然足りないので、また必ず返しに来ます!」
ガウルがルルの頭を撫でる。ルルが照れくさそうにする。
「嬢ちゃんも兄ちゃんも。あんま金のことは気にすんな。ワシは今やってる仕事が終わり次第、中央に向かうつもりだ。どれくらい後になるかは分からんがな。嬢ちゃん達も中央には行くんだろ?」
ルルと顔を見合わせて、頷く。魔術だけでなくこの世界について知りたいことは多いし、向かうことになるだろう。
「返さないと気が済まんって言うんならその時に返してもらおうかの。どうだ?」
「俺もその方がありがたいな。魔術都市には長い時間いるつもりはないから、中央で金稼いでおくよ」
「私も同じです」
次に三人が揃うのは中央都市になりそうだ。
「こんちわー。やってるー?」
扉の先から声が聞こえた。客だろう。
「おーう。ちょっと待ってくれー」
ガウルが返事をして、こっちを見る。
「すまんな。また出発するときになったら声かけてくれや」
ニッコリ笑って俺とルルの頭を撫でる。
宿への帰り道、ルルから魔術都市について色々聞いてみた。
魔術都市。都市の正式名はユルズ・ガヴェイン。人口は2500人ほどで、魔術学校を中心として円状の都市。
魔術師は人工的に雨を降らしたり、雷雲を吹き飛ばしたり出来るので凄く重宝されている。主な産業物として魔道具というのがあるらしい。
魔道具。魔法を込めておくことで一般人にも魔法が使えるようになる道具。魔道具さえあれば、火打ち石を使わずに火を熾す事が出来る。そんな感じで使う。便利だな魔道具。最弱でも戦闘が出来る道具とか無いのだろうか。
聞いてみたらあるのだそうだ。敵にぶつけると爆発するのだとか。戦闘時じゃ物を投げることすら難しいから俺には無理だな。
だが魔法が使えるようになれば、俺に魔道具は必要ない。魔術都市しか今のところ望みはない。
もし魔法もダメだったら生産職になろう。世界にない技術を思い出せれば良いのだが。全く知らないぞ。どうする。
そんな考えが顔に出ていたのだろう。ルルがこちらを心配そうに見ている。
「大丈夫ですよ。もし魔法が使えなくても一人くらい養っていけます!」
頼っちゃいけないが、頼り甲斐がある言葉だ。やはりルルは魔性だ。
「ありがとう。でもまぁ大丈夫。生産職とか色々あるしね」
するとルルは不満げな顔をする。なんでだ?
「追加でもう一人くらい、養えますよ。子どもとか」
ルルがなにやらゴニョゴニョ言っている。聞こえないけれど顔が赤いのは分かる。
「さて、昼飯時だがどうする? 宿で食べるか? どこか食べに行くか? 金あんまり無いけどな」
ルルが勢いよくこちらを見る。凄く嬉しそうだ。そんなにお腹すいてた?
「行きたかったところがあるんです! 行きましょう!」
お腹すいてたのか。はしゃぐルルが可愛い。
「デートですねデート!」
あっそうね。デートね。あのリア充が毎日やってると風の噂で聞いたあれね。凄く憧れるよね。
「どうしました? 顔赤いですよ?」
全然赤くないし。ちょっと気温高くない? やっぱ夏は暑いよね。変な汗も出るってもんだ。
「もしかして……照れてます?」
「てって照れてねぇし? 暑かっただけだし? いやもうほんと熱があれだよね」
自分でも何言ってるか分からない。
でもそんな俺をみながらルルは嬉しそうに笑う。
「えへへ。デートしますよ!」
「そうだな」
落ち着こう。大丈夫。画面越しに何回もやってきた。それがZ軸を持っただけじゃないか。何を慌てることがある。
「手……繋ぎましょ?」
「手ね。……え? いやいやまだそういうのは早いんじゃないかなってお父さん思うんですけど」
「何言ってるか分からない……ですっ!」
手をギュッと握られた。小さくて、細い。今にも折れそうな手が、燃えているように熱く感じた。
「ルルも顔真っ赤じゃん!」
「そ、そんなことないですけど!?」
一方こちらはとある部屋。
「このままで大丈夫でしょうか」
「大丈夫だろう。彼女のそばにいる限り、彼はここに来る」
「ですが……」
「それに敵対心は持たれたくないしな」
「……そうですね」
「王たり得る器だからな。丁重に扱わねば」




