ルルの想い
二十一話
お風呂に入った。髪を整える。息を確認、大丈夫。
「今日もお風呂気持ちよかったです」
お風呂上がりのルル。可愛いというより、綺麗だと感じる。髪を下ろしているからだろうか。
「その……私のこと、知りたいですか?」
「隅々まで」
即答かつ、断言だ。ノーなんて選択肢はあり得ない。
「そ、そうですか」
これはあれですよね? OKのサインですよね? 良いんですよね?
「私、親からの愛を受けずに育ってきたんです」
じゃあ僕が君に最大級の愛をあげるよ、なんて言葉はルルの次の言葉で言えなくなった。
「魔物嫌いになった原因の、私が魔物に食い殺された話。あれ、親にやられたんです」
絶句だ。
「私が生まれた家は普通の家だったんですよ。でも親は私を誰よりも強い魔術師に育てたかったらしく、小さい頃から魔物に慣れるため、っていうことで魔物の住処に連れて行き、置いて行きました。魔法が使えない頃にですよ?」
力なく笑う。
「分かります? 夜に食べられるのが怖くて起きている気持ちが。毎日、生きるのが辛くて、でも食べられることを考えることの方が辛い気持ちが」
分かるわけがない。
「だんだん意識が朦朧としてくるんです。力が抜けてきて、何のためにこんなことをやっているのか、疑問にすら思わなくなるんです。すると、獣が近寄ってきて、私の体を食べ始めるんです。食いちぎられ、痛いのに、声を出す力も残ってない。そして教会で目覚めると、自分が住んでいた街でした。そんなことすら分からないくらい、心をやられていました。神官様の前で泣いたのを覚えています。神官様に心配されながら、家に帰りました」
ルルがこっちを見る。泣いていた。苦虫を噛んでいるかのように、辛そうな顔で。ルルのこんな顔は見たくなかった。
「そしたらどうなったと思います?」
「どう、なったの?」
声が震えている。我ながら情けない。
「また連れて行かれたんです。魔物の巣に。泣いて嫌がっても、叩かれて、声が出なくなるまで叩かれて、連れて行かれました」
口の端が小さく痙攣している。それだけ話したくない内容だというのは分かるが、ルルが話すと決めたのであれば、全部聞こう。
「何度も何度も、連れて行かれました。そのうち、魔物を見ると足が震え、必死に覚えた魔法も唱えられなくなりました。当然と言えば当然ですが、私の心が弱かったと言われれば、それまでです」
「そんな」
そんなことないよ。などと言う権利が俺にあるのだろうか。心の弱さを言い訳にして、全部から逃げてきた俺が。
ルルはこちらを見て、笑いながら、ありがとう、と言った。
「学校では落ちこぼれ扱い。筆記では点数が良くても、実践では何も出来ない木偶、と。家でも同じでした。顔に泥を塗ったと言われ続けました。自分には一切責任がないかのように言われました」
涙を拭い、話し始める。
「だから私は外に出ました。最果ての街へ。そこで荷物役をしながら小金を稼ぎました。でもその日生きていくので精一杯でした」
思い出したのか、遠い目をする。
「ある日、スライムを倒そうと決意しました。そして、ある人に出会うんです。スライム用の装備を身にまとって、大きな袋を持って、剣を二本も持っていたんです」
思い出したのかルルは笑顔になる。
「その人の戦闘は格好いいとは言えませんでした。でも勇気づけられました。その頑張る姿に心から励まされたんです」
こっちを見る。嬉しそうな顔で。
「そしてその人は悪戦苦闘の後、スライムを倒すのですが、ステータスが下がっちゃうんです。驚きですよね。でももっと驚いたことがあるんです。自分のことを放り出して、私の戦闘を支援してくれたんです」
「立ってただけだけどね」
「確かに。そうでしたね」
ルルは凄く楽しそうに笑い出す。やはりルルは笑顔が一番似合ってる。
「魔法を初めて見たのか、驚き、嬉しそうにしてくれました。初めての戦闘は、その人のおかげで全然怖くなく、楽しかったです。ですがその人とはそこで別れるんです。そして一晩経って、お礼をしようとその人を探すと、出発する直前でした。慌てた私は」
「連れていってください、って言ったんだよね」
驚き、こっちを見る。そして笑って、そうです。と胸を張る。
「偶然か必然か、次の街は私にとっても良い街でした。たくさんの人と出会い、話をし、今まで受けたことのない愛をたくさん感じました」
ルルが上を見上げる。天井は木目が綺麗に見える。
「短いけれど、とても濃厚な時間だったんです。私が魔術都市を出なかったら知らなかったであろう、見なかったであろうものばかりでした」
ルルがこちらを見る。俺も見返す。泣いていた。
「本当に楽しくて、充実した時間をくれたのが、あなたです」
泣きそう。
ルルの話は辛かった反面、しっかり考えて書きました。




