ガウルの過去
十七話
「ガウルに話さなきゃいけないことがある」
「ほう。まぁ座れぃ」
ガウルの工房は正面に高炉があり、左手に扉がある。その扉の先は部屋で。そして奥にもう一つ部屋があるらしい。
椅子に座らせてもらい、お茶のようなモノを淹れてもらった。それに口をつけ、ゆっくり語り始める。
「俺はガウルに何も話していなかった。だから話そうと思う。どこから来たのか。誰なのか、を」
ガウルは何も言わず俺の目を見ている。
ノイマーの屋敷で話したことをガウルに話した。
ガウルは何も言わず目を瞑っている。
そして大きく口を開く。
「なるほど分からん」
う~ん素直。
「お前が異世界から来て、なぜこの世界に来たのかが分からない、という事が分かった。頭ではな。だがどうしてそれをワシに言おうと思ったんだ?」
「それは……ガウルは素性の分からないやつにこんなに優しくしてくれているけど、俺には今何も返す物がないから。だからせめて俺の素性だけは伝えなきゃと思ったんだ」
ガウルは口をポケッと開けていたが、破顔し、
「ガハハハッ! そうかそうか! それはありがとうな!」
俺が感謝することはあっても、ガウルに感謝される謂れは無い。
「ワシは確かにお前の過去を知らなんだ。だが騙されてるなんぞ思ったことはないぞ? 兄ちゃんは常に真剣で前向きな人だからな! 嘘をつくとは思えんわ!」
いかん。涙が出そう。
ガウルが急にまじめな顔になり、話し始めた。
「ワシはな。この工房を親から受け継いだ。奥の部屋は両親の部屋だった。その親にな? 困っている人がいたら手をさしのべてあげなさい。って言われたんだ。この工房はな、良くも悪くも中途半端な人気があるんだよ。昔はそれが嫌で嫌で仕方なかったなぁ。大通りに出るんだ! って息巻いてたなぁ」
昔を思い出して、優しい目をしていた。
「それだけやる気満々だった頃に、困ってる人には手をさしのべろーだぞ? だから大通りに出られないんだって思ったなぁ。まぁ、今となってはこの場所を気に入っているがな」
「今は、もう大通りに店を構えたいとは思わないの?」
ふと思った疑問を口にする。こちらを見ることなく、ガウルが答える。空を見上げている。でも見ているのは空ではない気がする。
「贔屓にしてくれている客も多いし、みな優しい。父親の頃からの客も多い。大通りに出て、明日は我が身の生活をするくらいなら今のままで十分なのさ。店のためにも、客のためにも」
大通りに店を構えている工房は、大きな組織とつながっていることが多い。その中で、個人経営の工房が出ようものなら袋だたきにされる。ということなのだろう。
「ワシの名前全部言えるか?」
「ガウル・G・ギルフォード、だよね?」
「うむ。ではそのGは何か分かるか?」
「ゴリラ?」
即答してしまった。いやー失態失態。潜在意識にあると反射的にね。
「ご、ごり?分からん単語だな。では、正解はguilty。有罪、という意味だ。このGはワシら亜巨人族全員共通でな。とある戦争で、巨人族に刃向かったがために呪いをかけられたのだ」
とある戦争……? ノイマーの言っていたあの戦争のことか……? いやそれより、
「刃向かった? どういう意味だ?」
「昔な。全人類と魔族の戦争があった。その時巨人族は二つに分かれた。純血派と混血派だ。混血派はな、巨人族と他の種族との混血って意味だ。混血は総じて純血に奴隷扱いされていた。それに耐えかねて、我らは魔族側についた」
頭が追いついていない。巨人族だけではなく全人類に刃向かったということか?
「残念ながらワシらは負けてな、魔道師に呪術をかけられこの体の大きさになったんだ」
魔道師が? 亜巨人族を生み出した? ルル達の種族が?
「あぁいや勘違いするなよ? 別に恨みがあるわけじゃぁない。昔の話だからな。それにこの体は何かと便利だ」
「今はこんなに穏やかだがな? 呪術を受けた当時はもっと荒れていたものだ」
………え? 今なんて言った? まるで当時をしっているかのような……。
「ガウルは……ガウルはその戦争に出たのか?」
「あぁ。その通りだ」
「全人類にその刃を向けたのか?」
鈍く光る剣を思い出しながら問う。
「あぁ。そうだ」
「人も殺したのか?」
「あぁ。決めたことだからな」
前の世界では重罪だ。死刑だ。戦争中にそんなことは言ってられないが。
「なぜ……?」
「奴隷だったからな。抜け出すしかなかった」
「今は……? 今は奴隷じゃないのか?」
「仲直りだ。関税を高めることで手を打ってもらった」
何が悪いとかじゃない。誰が悪いとかでもない。戦争が始まるにはそれだけの理由があるのだ。どうしようもないくらいの理由が。
だが割り切れない。これだけ優しい人がなぜ。
「親も戦争に出ててな。亜巨人になってこの街に帰ってきてからは、不満だらけの亜巨人族の喧嘩の仲裁役だった。父親のおかげでなんとかこの街の均衡が保たれていた。だがそんな時、魔術師がこの街に来た。嫌みではない。ただ、装備を作りに来ただけだった」
苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
「もちろんみんな魔術師に対し嫌がらせをしてな。暴力も振るったりした。そんなみんなを父親が必死で止めてな。でも現実は絶望しか与えなかった。父親は魔術師に殺されたのさ」
泣きそうになるくらい辛そうに話す。そんなのって。
「魔術師が偽善だのなんだの叫びながらやったんだと。俺が来たときはもうすでに死にかけていた」
聞いているこちらが涙が出る。
「父親が、最後に一言。困っている人がいたら手をさしのべてあげなさい。ってな。自分がそれで死んだくせによ」
「ワシら混血派は話し合った。奴隷は許せなかったが、関係の無い人達を殺したのもワシら。それは事実だ。ワシらはそれを背負って生きていかねばならない。罪をな」
だから全員、名前にguiltyと入れ、忘れてしまわぬよう、風化してしまわぬよう刻んだ。
と呟いた。
こちらを見、
「これがワシらの罪。過去だ。失望したか?」
素直な感想を言おう。それが全てを話してくれたガウルに対しての礼儀だ。
「正直嫌な気持ちになったよ。人類に刃を向けたこともだけど、親を殺されたことも、その怒りを押し殺していることも。もっとあなたは素直な人だと思っていた」
「素直、か。いや、ワシは素直だぞ?」
「怒りがないなんて事は無いでしょう? 親が殺されたら、恨むのが正しい心というものでしょう!?」
何を俺はこんなに熱くなっているんだろう。何で俺はこんなに泣いているんだろう。
「いや、正直だ。ワシは自分の心に正直に生きている」
言い切っている。本心から言っている。
「ワシは戦争で39人もの人を殺した。そいつらの両親は? 子どもは? 兄弟は? ワシを恨んでいるだろう。その恨みが回り回って来たんだと、本気でそう思っている」
それでも、なんて言えなかった。ガウルが辛そうに笑うからだ。何も言えない。かける言葉が出てこない。
「だから誰も恨まず、恨むとしても自分を恨む。その結果、親の遺言だけを守ってきた」
それで十分だろう。そう言いながら空を見上げる。俺もつられて空を見上げる。
「ワシの事を嫌いになったか?」
おっかなびっくり、といった様子で、力ない笑みを浮かべているのが横顔で分かる。答えは決まっている。
「こんなに素直な人を嫌うはずがないよ」
ガウルは赤ん坊のように泣き出した。
ここまで書いて思ったんですが、なんで生き返れる世界なのに死んだままなんでしょうね。
不思議ですね。
これが無計画の代償ってやつですかね。
怖いですね。
次に解説をするのであまり考えないでください。




