不可逆因子と変態学者
十三話目
鍛冶の街ではいろんな声が聞こえてくる。
「火ィ足りねェぞォ!!」
「鉄持ってこいっつったろォ!?」
「まだまだ打ち足りねェ!」
「んなボロっちィの使わずウチで作ってけよ!」
「いらさいいらさい! 他とは出来がちげェよォ!」
「まァた折ったのかァァォオン!?」
「負けだァ! 持ってきな!」
熱い。熱いぜ。オルトゥ。
ガウルの工房は道の中間にあるのだそうだ。ちなみに宿屋も酒場も奥にある。宿屋や酒場まで行く道で客引きをするという商人魂である。真ん中の大通りの両脇の工房は有名だったり、腕が確かだったり。端に行けば行くほど、悪徳で品が悪いそうだ。一部を除いてだが。
ガウルの工房は、中間の大通りからほんの少しだけ離れた場所にあった。一人で切り盛りをしているので、少し値段が高くなり、大通りには店を構えられないんだと。世知辛い。
ガウルが、最果ての街から持ってきた素材を工房の中にしまうと、俺とルルが泊まる宿まで案内してくれた。
俺は剣を引っさげているので何度も客引きをされたが、ガウルが丁寧に断わってくれた。大通りの片側だけで、店数が50はありそうな長い道を登って行くと、大きな宿屋に辿り着いた。
ルルもお金が無いらしいのでガウルにお金を借りた。一部屋しか取らなかったのは低コスト化だ。必然だ。邪な気持ちなんてどこにもありやしない。
風呂付きの部屋を取ってくれた。部屋でガウルも含めて、今後の話をした。
ガウルは明日からしばらくは、朝から晩まで工房に行くらしい。
ルルは、夜から朝まではこの宿で。昼間は酒場でクエスト同行者を集って敵を狩りに行くらしい。
俺は明日、学者と話をし、それから今後を決めるつもりだと話した。
明日、ルルが上手くいかなければ、宿代はもう少しガウルに払ってもらうことになりそうだ。
お互いの予定も聞いたところで会議はお開き。ガウルは工房へ戻って行った。ルルと同じ部屋なので先にお風呂に入ってもらい、その後俺も風呂に入った。
女子と同じ部屋というだけで緊張していたが、いざ寝るとなると大きな問題があった。ベットはシングル。人は二人。与えられた選択肢は床か椅子かだ。ベットを選ぼうものなら晒し首に
「じゃあ、一緒に寝ましょうか」
「ぇへ? あぁ。え? お、おう」
首を晒さなくて良い代わりに、諦めてはいけない我慢大会が始まった。
ルルの話を聞いた。伝説では魔道士というのはヒューマンの一種なのだそうだ。ある学者が魔法という存在に気が付き、研究の末魔道士になったのだとか。
魔道士には位が存在し、ルルは普通の位の家庭で生まれ、ごく普通に育てられたのだそう。しかし、子供の頃にモンスターに殺された事がトラウマとなり、実践では何も出来なくなってしまった。でも勉強では、と頑張ったそうだ、と少し悲しそうに話した。
幼少期に殺される経験をするとか。引きこもりまっしぐらだろ。
でも今は楽しいです! と笑顔で言ってきた。可愛い子だ。いい匂いがする。普段は帽子に隠れているが、髪が長い。風呂上がりで下ろしている。綺麗な黒髪だ。サラサラしている。
思考が変な方向に向かった頃。
「もう遅いですしね。寝ましょうか」
「そ、そうだね」
顔を向かい合わせたまま、ルルは寝息を立て始めた。まだ終わりじゃないです! ここから俺が寝るまでが我慢大会です! 遠足理論です!
意識して違うことを考える。学者に会ったらどんな話をするか。どこまで話すか。何から話すか。まとまらずにゆっくりと思考が溶けてゆく。ルルの寝顔を見ながらその思考を手放す。
またあの声が聞こえる。優しく、強く、温かい声。
「知る時は近い。もうすぐ……」
何がもうすぐなのか。頭が働かない。声が遠くなってゆく。
「……まーす。……ざいまーす。おはようございまーす」
ルルが上からのぞき込みながら起こしてくれていた。
「おはよう、ルル」
「はい。おはようございます」
「ルルは早起きだね」
「そんなことないですよ。それより、朝食が下の食堂で貰えるらしいです。行きましょう」
着替えて食堂に降りる。今日の朝食は、ハムエッグだ。前も食べたな。いや美味しいけどね?
「それじゃ、私はクエストに行ってきます。学者さんのところへ向かうんでしたよね? お気をつけて」
ルルは優しい。前世は女神か天使だろう。まぁ生き返るからそういうの無いのかもだけど。
さて、向かうかね。
ガウルに教えて貰った道を進む。大通りから外れてゆく。喧騒が遠くに聞こえるようになってきた時、目的地を見つけた。
一言で表すなら洋館。青と白を基調とした、なかなか大きな屋敷だ。
ドアをノックする。返事はない。
ゆっくりとドアを開ける。
ドアから光が入り、奥で作業していた人がこちらを振り返る。
「やぁ初めまして。僕はノイマー。話はガウルから聞いてるよ。君がワトソン君だね?」
お生憎様人違いです。




