在りし日の情景
完結話
出来たばかりの玉座の間にて。
「それではこれより、精霊収集会議を行います」
優しそう男性が、にこやかに話し始める。
「その前に質問。いいか?」
怖そうな雰囲気の体の大きな男性が手を上げる。
「はい」
「精霊ってのは何だ?」
「我々のこれからの総称です」
「あ?」
「世界が崩壊してから既に百年。心機一転の為と思って下さい」
「……」
納得したのだろうか、男性は手を下げて黙り込む。
「まずは階級からです。皇帝、君主、大公爵、宰相、大将、司令官、中将、旅団長、少将。この九つに別れています」
……ほう。
「そして、皇帝、君主、大公爵は支配者として三柱。宰相から少将までは、その三柱に仕える六柱となっています」
…………ほう?
「つまり、三人のトップ。その下に六人。そうお考え下さい」
なるほど。
「ではまず皇帝の座に冠してなのですが」
そこまで言うと、笑顔の男性は俺の方を向く。嫌な予感しかしない。
「僕は、彼が相応しいと思うのですが
、どうでしょうか?」
☆☆☆☆☆☆
第二広場兼、書庫にて。
「力無き正義、正義無き力」
「パスカルの書ですか?」
アガリアレプトが本を見たまま、俺に問いかけてくる。
「うん。正しいけど、無情だなって」
「哲学ですからね。情など無い学問です」
最近部下の一言一言が冷たい件について。
「どっちも持てば、それ即ちジャスティス。正義こそジャスティスって感じでしょ」
サタヌキアがアホな事を言い出した。
「アガリアレプト君。サタヌキア君が壊れちゃったんだけど」
「彼はいつも壊れているんで大丈夫です。正常が異常なので」
「二人とも酷くないかな?」
☆☆☆☆☆☆
庭園にて。
「こらぁ!!!」
「いでぇ!」
「サルガタナス、フルレティを殴っちゃいけません」
小さい子供に言い聞かせるように言う。
「で、ですが!」
「馬鹿力ザル」
「ぁあ?」
フルレティが頭を抑えながら、サルガタナスに悪口を言う。
「フルレティも。サルガタナスにちょっかいかけないの」
「……あーい」
「すみませんでした……」
シュンとする二人。歳が近いので波長が合うかと思えば……
俺が頭を抱えた一瞬で、また喧嘩を始めている。
前途多難のようだ。
☆☆☆☆☆☆
第一広場にて。
「まだまだ負けんよ」
アスタロトが剣を肩にトントンと当てて言う。
「まだまだ……!」
ルキフグス……いや、ロフカレか。彼はまだ元気があるようだ。
アスタロトの剣で叩かれた腹をさする。この世界で魔物が生まれたのは何故だろうか。誰かが望んだからなのだろうか。まぁ、そんな物好きはいないか。
「ぅぐぁっ!」
ロフカレが吹き飛ばされ、俺の横に転がってくる。入れ替わるように駆け出す。狙うはアスタロトの足。今日は一本は取りたいものだ。
☆☆☆☆☆☆
「なぁナァ」
「……」
「なぁっテ」
「……なに」
「遊ぼうゼ!」
「……やだ」
そう言ってネビロスはソファの後ろに隠れる。
「いいじゃんカ! 遊ボ!」
ベルゼビュートはそれを追いかける。見てて完全に変質者だ。
「いぃいぃいぃやぁあぁああああ」
ネビロスが珍しく大声を出して走り回る。微笑ましいものだ。
「助けてルシー!」
ネビロスが俺に抱きついてくる。勢いの余り肺の空気が全て出ていく。
いや、それよりもだ。
「る、ルシ?」
ネビロスは俺の問いに顔を上げる。
「ルシファーだから、ルシ。いや?」
「い、いや、嫌とかじゃないけど」
「けどー?」
「……いや、嬉しいよ」
そう言ってネビロスの頭を撫でる。
「んふー」
「良いじゃねぇカ! ルシ! ナァ!」
ベルゼビュートも飛びついてくる。あまりの質量に、ソファが倒れてしまう。
「ベルゼビュート! おもい!」
「おォ? 名前呼んでくレタ!」
「おーもーいーのー!!」
一番重いのは、一番下の俺なんですがね。なんて事も言えないくらい、肺が押しつぶされている。
☆☆☆☆☆☆
日課のルキフグスとの練習試合。
「負けました……」
「ふぅ。ぎりぎりだった」
「ルシ様はやはりお強いですね」
「いやいや。ルキフグスも十二分に強かったよ」
「ありがとうございます」
その返しに少し違和感を覚える。
「……ルキフグスって呼ばれても、もう大丈夫なの?」
「違和感がないわけではありません。しかし、二人を認めて下さっているようで、私は嬉しいのです」
「判別するのが面倒くさくて、つい一緒くたにしちゃったら?」
「ブチ切れますね」
笑顔で言う。たぶん半殺しにされる。
「では、先に失礼します」
「うん」
剣を仕舞い、体を伸ばしつつ、部屋を出る。
廊下で、アストに出会う。
「お、終わったか?」
「うん。お昼だし、これから皆を呼びに行こうかと」
「じゃあ、一局付き合ってくれ」
じゃあ、とは……?
第二広場でレプトに出会い、昼食の準備を頼んだ。
結局急ぎ、十分ほどで局面は終盤に差しかかる。
「これはまずったかもしれんなぁ」
「お? 待ったはなしですよ?」
「最後の最後で負けられはせんからな」
「最後くらい手向けに欲しいものですな」
「なんだそのしゃべり方は。いや、こうすれば」
「じゃあこっちで」
8のDにルークを置く。後一手で決まりだ。
「…………さぁて、ルシ。そろそろ飯だと思うんだが?」
「おい待てよ! 後一手だろ!」
「さぁて何のことやら」
「もうちょっとだけさ! ね?」
「帰ってきたらな?」
そう言って食事場に向かうアスト。
……帰ってきたら無くなってたりしないよな?
アストは既に立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。まぁ、いい。帰ったらコテンパンにしてやる。
ニヤニヤ考えていると、扉が開く。
「あれ、ルシ? なんでここに?」
サタだった。
「アストとちょっとな」
「そっかそっか。あ、丁度よかった、これ手伝って欲しいな」
扉の前には十冊の本。並べるのだろう。それくらいなら。
「ちゃっちゃと片付けて飯にしよう」
「うん」
二人がかりで、時間もかかることなく終わる。
「じゃあご飯にしようか」
「そうだな。今日はもう疲れた」
皆の相手で午前が潰れてしまった。たぶん午後もだろうなぁ……
「お疲れ様。明日はたぶんもっと大変だよ」
「想像したくねぇなぁ」
「大丈夫。皆いるから。ね?」
そう言ってサタは先に部屋を出ようとする。その背中に向かって。
「……ありがとう」
「え?」
「いや、なんでもない」
「ツンデレみたいで気持ち悪いよ?」
「聞こえてたなら聞き返すなよ!」
サタが笑う。俺もつられて笑う。この時間が続くように、俺は願おう。
「じゃあフルを呼んでくるよ。ルシはネビをお願い」
「おー」
第一広場を抜け、玉座の間に入る。そしてネビの私室の前に歩いていく。
嬌声が響く部屋の前で。
「おいネビー。ご飯だぞー」
声が止み、ドタドタ音がする。そして、すぐにネビが部屋から出てくる。
「待ったー?」
ため息を吐き、ネビの頭を撫でる。
「ぅえー?」
「ほどほどにな」
「んふー。大丈夫ー」
やけにツヤツヤした顔のネビが、満足そうに言う。まぁ大丈夫ならいいか。
「今日なんだろねー」
「なんだろなー」
まぁ、幸せそうなので強くは言えない。色々話してくれるようにもなったし、ネビは皆が好きだし、皆もネビが大好きだ。
ネビが笑っているだけで、その場が明るく和む。
ネビの頭を撫でながら、笑いかける。ネビは一瞬首を捻り、そしてニコッと笑う。
年相応の笑顔も、こうやって見せてくれる。ネビが幸せならそれでいいか。たぶん皆もそう言うだろうし。
「じゃーさきいってるねー」
俺の曖昧な表情を見て、ネビは走り出し、玉座の間を出る。あんな少女に気を使われているようではいけないな。
「オオ。どこに行くんダ?」
玉座の間を出たところでベルゼに出会う。
「そろそろ飯だよ」
「そうカ!」
「ベルゼって好き嫌いあるの?」
「旨ければ何でも好きダ!」
そう言って笑うベルゼは、やはり子供らしかった。
俺も釣られて笑い、そっか。と言った瞬間に扉が開く。
「おぉ! ルシ!」
午前に、俺と何試合もしたとは思えないほど元気だ。
「あぁ、フルか。もうすぐ昼飯だぞ」
「今日は何だろうな!」
「何だろうね」
「肉だと良いなぁ」
嬉しそうに上を見上げ、微笑むフル。ずいぶんと丸くなったものだ。
「食べ終わったらまたやろうな!」
「もういいよ……」
「いやいやまだ行けるって!」
もう認めてくれたのだろうか。フルと話す内容に、日常会話が増えた気がする。
胸に秘めた本心は分かりはしないが、それでも。表面だけでも、こうやって接してくれるのは嬉しいものだ。
「早く行こうぜ!」
俺の返事を待たずにフルは走り出してしまう。子供を見ているような気分だ。
「元気だナァ」
「ベルゼも元気な方だと思うよ」
そう言った次の瞬間、また扉が開く。今度はさっきよりも強めに。
「どこに向かいました!?」
般若のような顔のサルガタナスが聞いてくる。
「え、食堂だと思うけど」
「分かりました! ありがとうございます!」
聞くや否や食堂に向かって走り出す。
「本当にフルレティが好きなんだなぁ」
独り言のつもりで。小さく吐き出したつもりだった。
地獄耳なのだろう。サルガタナスは走る方向をこちらに変え、急いで戻ってくる。
「違いますから! そういうのではないですから!」
「嫌いなの?」
「いやっえっ。いや、そういうわけでは……」
「ははぁ〜ん?」
「ち、ちがっ」
「まぁいつでも相談に乗るからね」
「……ありがとうございます」
頬を赤く染め、手をモジモジさせながら言う。しおらしいところもあるんだなぁ。
「どういう事ダ?」
「人には色んな悩みがあるって事だよ」
納得したような、してないような。そんな表情のベルゼと一緒に食堂に向かう。
既にサタは座っていた。昼飯が待ち遠しく、レプトの様子を見に行く。
サラダやスープは既に出来上がっていて、メインを何にするか悩んでいるようだった。
「さて、今日は何にしましょうか」
「レプトー。今日は何にすんの?」
厨房を覗き、中にいるレプトに話しかける。
「何が良いですか?」
「おいしいやつで頼むわ」
「困りましたね……」
「肉とか」
「……毎日お肉は体に悪いですよ?」
「大丈夫大丈夫」
「まぁ、私が毎日お肉にすることが無いんですがね」
ボソッとレプトが何かを呟く。聞こえそうで聞こえなかった。何を言っていたんだろうか。
食堂に戻り、皆と少し言葉を交わす内、肉の焼ける良い匂いがし始める。
「さて、出来ましたよ」
大きな肉の丸焼き。美味しそうだ。
皆で手分けし、料理を机に載せていく。そしてレプトも座り、皆がこちらを見る。
「では、合唱」
「「「「「「「「合唱」」」」」」」」
「「「「「「「「「頂きます!」」」」」」」」」




