初戦闘の対価
九話目
スライムを見つめ、地面を蹴る。
足の裏の装備越しに、地面が軽く削れつつも押し返してくるのを感じる。だが! 素早さは2! 移動速度は赤子と同じ!
傍からはスローモーションで動いてるように見える。本人は真剣だが。
前の世界では持つことさえなかった、命を刈り取る武器を右手持ち、振り上げる。重さで後ろに倒れそうになるのを全力で阻止し、振り下ろす。これも全力で。
「うぉおお!!」
目指すはスライムの核、その一点のみ。
刃が刺さる、が。ムニュンという音とともに飲み込まれる。このまま慌ててしまったら前までと変わらない。イメージは包丁だ。魚を切る時のように、引きながら切る。
思っていたよりも力が強く、剣を飲み込んでいたスライムからゆっくりだが、剣が引き抜かれていく。刃の表面にはスライムの欠片と思しきものが付いているが、中和されて危険性はなくなった、プルプルした何かだ。
刃が全て抜ける。反動で後ろに倒れそうになるが、踏みとどまり。もう一度剣を向ける。
攻撃されたことに怒ったのか体をプルプル揺らしている。ルルも後ろでプルプルしている。可愛いなぁ。
ガウルが言うには、こうだ。
「スライムは地面を這うので、振り上げた剣を振り下ろす。少し力を込めてやればあっという間に倒せる。それくらいは弱い」
なるほど。それ以上に俺が弱いだけの話だ。なら斬撃ではなく刺突だ。全体重を込めて、上から剣を突き刺す。それくらいしかもう方法がない。
スライムがこちらに向かってゆっくり移動している間に思考をまとめきった。いけるはずだ。
剣を逆手に持ち替え、小指側に刃を持ってくる。俗に言う忍者持ちだ。真っ直ぐに腕を上げ、スライムの核に向かって全力で突き立てる。しかし、届かない。左手で上から抑える。少しずつ、少しずつ、剣が沈んでゆく。
全力で突き刺そうとする。頬を汗が流れる。食いしばった歯の隙間から声が漏れる。核に届いた! そう思ったと同時にスライムが剣を伝って上へ上へと登り始める。核も剣先から剣の側面へと移動していく。
前までとは違い、飲み込む速度が早い。振り払うことも、引き抜くことも出来ずに、飲まれていく。だが防具を新調したおかげで、体にスライムが到達してからは、飲み込む速度がゆっくりになる。
左手は飲み込まれていない。そして核は剣の側面。顔を飲み込んで窒息させようと、体を伸ばしている。そのおかげで、核を包んでいるスライムの体は薄い。
敵意をあらわにせず。感じ取られぬように。静かに。素早く。小刀を突き刺す。
パキャッという音と共に、赤色の核が二つに割れる。スライムの体の中を核が落ちてゆき、地面に落ちる。核が赤色の光を失った。それと同時に、水を沸騰させたような音をたてながらスライムが消えていった。
スライムの断末魔も、ファンファーレも討伐の文字も出ない、出ないが。この手には確かに敵を倒したという感覚がある。残っている。
力が抜け、地面に仰向けに倒れる。頭をぶつけた。痛い。生きている。殺されずに、殺した。殺せた。
「だ、大丈夫ですか!?」
ルルが駆け寄ってくる。力が出ないが精一杯の笑顔で迎える。
「た、倒したよ……」
「おめでとうございます!!」
ルルが続けて俺の初戦闘を称賛しようとした時、キィィンと、ゲームっぽさのある音が鳴る。
力の入らぬ体を起こすと、スライムの核が青く光ってる。光そのものが分散し粒になり、こちらへと飛んでくる。逃げる力もなく、ただ体に吸収されるのを見ていた。
粒が全て体に入りきると、心臓が一度だけドクンと鳴った。直感的に感じる。今入ってきたのは、ゲームでいうところの経験値だと思われる。
腰ポケットからカードを取り出し、見てみると。
Name:シロ
Lv:1
HP:5
ATK:3
DEF:3
AGI:2
LUK:1
の文字が青く光り始め、書き換えられてゆく。ATKとDEFの部分が。そして、光が収まり始める。
Name:シロ
Lv:2
HP:5
ATK:2
DEF:2
AGI:2
LUK:1
と書き換えられた。大半が-1ずつされた。
神は常に俺に絶望を与えなきゃ死ぬのか?




