甘いヨル
真夜中にひとり 窓からこっそり家を出た
街灯もない暗い世界を歩きだす
生ぬるい風がロクに梳かしていない髪を撫でるのが心地よくて
このままどこまでだって行けるような気がしていたんだ
現実感の薄れた意識の片隅で それでも目的地は決まっていて
部屋に置いて来た息苦しさを思い出して息を止めてみた
辿り着いた明かりはとても輝いていて
あの時のアタシは確かに何かに勝った気がしていたのだろう
ゴミ箱の横で食べたアイスの甘さが全てを溶かしてみせた
点滅を始めた信号機を駆け足で渡った時 空が白み始めたのを知った
震える手の中でビニール袋がアタシを責め立てるように音を立てるから
そこから逃げるようにイヤホンで耳を塞いで 現実に気付かないフリをして歩いた
生ぬるい風はいつの間にかアタシの背中を追い越して朝を迎えに行く
口の中に残ったチョコレートの甘さがどこへも行けない心を甘く絡めとる
部屋に置いて来た心地いいぬるさを思い出して息を吸い込むしかないアタシを
鍵の開いた窓だけが許した