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勇者からの恩返し  作者: ヒネデレ
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プロローグ パターンB 前

私に幸せをだったときは二つあります。

一つは両親が生きていた時です。

不器用ながらも必死に私のことを思いやるお父さんと、それを隣で温かく見守りながらいつも包み込むような柔らかな笑顔を浮かべているお母さん。

そんな二人に囲まれながらの生活は、無くなってら十年程の月日が過ぎたけれど今でも私の心の支えの一つとなっているぐらい大切な思い出です。

もう一つは、私の一つ年上のある少年と過ごした日々です。

私が彼と出会ったのは、両親を失って暫く経ったある日のこと。

その日は、交通事故で死んでしまった私の両親の葬式の日で、外は傘を差さずに歩くのには苦労するくらいのかなり強い雨が降っていました。

葬式のことは、前々からお母さんのお姉ぇさんである芙美子ふみこ叔母さんや親戚の人が話し合っていたのを聞いてはいました。

でも、その時の私はまだ両親の死を受け入れきれずにいました。

そのせいでそんな話は、頭では理解はできても感情がそれを気絶してしまい右の耳から左の耳へと抜けていってしまってました。

当日のときにさえ、半分くらい停止した思考の中で何処か他人事のように過ごしていたくらいです。

葬式は数時間もすれば一通り終わり、室内にある部屋の一つに葬式に来てくれていた親類縁者の人でその場に残ってくれる全員が入っていきました。

そこには、私のお父さんとお母さんの棺も置かれていました。

どうやら、今日はここで明るく騒ぎながら一夜を過ごして両親と最後の夜を過ごすらしいと私は近くにいたおじさんが教えてくれました。

ただ、まだ何も考えることができない私はそれを機械的に淡々とした様子で過ごすだけでした。

翌日。

私は両親の遺体が燃やされるのを夢のように眺めていました。

それから、係の人にまだ赤みがかった白骨を収めるようにお願いされて言われるがままに行いました。

その後は解散となり、私は身元引受人となってくれた芙美子叔母さんと一緒に家へと向かいました。

帰路に就く途中、公園が見えると私は芙美子叔母さんに

「しばらく一人でいたい」

と言うと、叔母さんは少しためらいを見せましたが、すぐにそれを許してくれました。

その時に、

「雨が降っているから、風邪をひかないようになるべく早く帰ってきてね」

そう悲しそうな顔で注意してくれたのを私は今でも忘れられないでいます。

叔母さんが公園から見えなくなるのを確認してから私は、なんとなく公園を彷徨うろつきました。

雨のせいで前が見づらい中、私はブランコを見つけて座りました。

昔、お母さんと一緒に来た時に今の様にブランコに座って、それをお母さんに押してもらったのも思い出したからだったと思います。

足を使って弾みをつけながら緩やかにブランコを動かしていきました。

お母さんが押してくれたときの速さで漕いでいたら何か思うとそんな気がしたから。

それでも、お母さんが押してくれた時の様な速度は出すことはできませんでした。

それで少し意地になった私は立ち上がって、屈伸の要領で勢いをつけることにします。

何回か繰り返すと徐々に勢いは増していって思っていた以上の速さで動かすことができました。

それからはまた座り直しながら、その流れに身を任せてボーっと前を見つめていました。

努力したかいもなく何も思うようなことは思い出せないなか、速度は段々と失われていき、最後には止まってしまいました。

再び動かそうと立ち上がろうとしましたが、ふとある疑問が浮かんできました。

私、なんでこんなことしているんだろう......

えーと確か......そうそう昔のことを思い出したからだ!!

でもなんでそんなことをしたんだっけ..............あっ!

そうだ、死んじゃった母さんのことを思い出そうとしてたんだった......お母さんもお父さんも死んじゃったんだ.......

俯いていたはずの私の頬から何かが伝い、落ちていくのを感じてそっと指をあてて見てみるを指はさっきと同じようにただ濡れているだけでした。

それを不思議に思って首を傾げるもすぐにそれが涙ということに気づきました。いえ、気づいてしまいました。

それからの私はまるでせきを切ったように瞳から涙が溢れ出し、雫となって顔から零れていきました。

雫はすぐさま空から降ってくる雨と混ざり合って地面へと落ちていきます。

そうなってしまえば、もうどれが涙でどれが雨か等、分かるはずもなくなってしまいます。

なら、いくら泣いたって誰にもばれるわけないよね?だったらもういっか......

自分に対してかそれとも両親や叔母さん他の誰かへの言い訳か、そんなことはどうでもよくて......ただ私が作り出した何かに責任を擦り付けて私はひたすら泣き続けました。

数分かもしくは数時間か、どれだけ泣いたかはわかりませんがそれでも、ようやく泣き止んだ私は俯いた視線の先に水たまりを見つけました。

あの中には私の涙も入っているのかな?

そんな理由で今の気持ちを紛らわすためにその水たまりを見ると、そこには真っ赤に泣き腫らした自分の姿が映っていました。

顔が真っ赤になった私は急いで目線をそらし自分の姿を見えないようにしながら、必死に隠そうと手で目を抑えました。

そんなことをしばらく続けていると、ふいに声が聞こえてきます。

私は再び水たまりを覗いて腫れが少し引いているのを確認すると上を向きその声の主を見ました。

そこには、私と同じぐらいの歳の男の子がいました。

私とは違い傘を差したようで、彼は濡れてはいなかったのですが、今は私の方へと傘を傾けてくれているので私が濡れなくなっている代わりに彼は濡れ始めていました。

「こんなところで、そんな格好でいてると風邪ひくぞ」

彼は再びそう声をかけてくれました。

しかし、悲しみの中にいた私にとってそんなことはどうでもよく

「......別にいい」

と素っ気なく返しました。

これで彼がいなくなってくれると思っての言葉でした。

しかし、彼はそれでも止めることはありませんでした。

「よくわないだろ、お前のお母さんやお父さんも心配するだろ?」

私は彼の口にした言葉で両親のことをおもいだしてしまいます。

今までの楽しかった出来事やそして、死んでしまったという残酷な事実を。

それでも、彼は答えないといなくなってはくれないと淡々と事実を告げることにしました。

「私のお父さんとお母さんは死んじゃったから」

「だから今日ね、お父さんとお母さんのお葬式をしてきたばかりなの」

すると彼の顔はみるみる青ざめていき、今の私でもそうとうなショックを受けたということはわかりました。

だから私は自分の様に悲しむ人を作ってしまったことへの後悔とそんな顔を見たくないという思いで彼へと笑いかけます。

「そんな顔しなくても大丈夫だよ、声をかけてくれてありがとう」

と。

すると、彼はすぐさま頭を下げて私に謝ってくるのです。

そんなことをされるとは思っていなかった私はものすごく慌ててしまいます。

こんな状態だったら確実に彼に呆れてしまっているだろうと思い、ゆっくりと気持ちを落ち着けて彼の謝罪した意味を考えます。

しかし、何も思い浮かぶことはなくただポカーンとした表情をつくってしまうだけでした。

その姿をいつのまにか頭を上げていた彼に見られてしまっていました。

もう恥ずかしくてどうにかなってしまうかと思いました。

しかし、彼はそんな私の心境な露知らず恐る恐るといった様子で尋ねてきました。

「怒っていないのか?」

その意味を考えるのですが、やはりなぜかはわからずならばと私は彼に聞くことにしました。

「どうして、怒る必要があるの?」

それから、彼といくらかの言い合いの末、彼は私の求めていた言葉を顔を真っ赤にしながらも話してくれました。

「それは、俺が......」

「俺が? 」

「もしかしたら、こいつとは友達になれるんじゃないかなって、今のお前の気持ちも考えずに自分よがりに思って話しかけちゃったから......」

私は彼の独白の内容にまた素っ頓狂な表情になってしまいます。

しかし、徐々にその言葉の意味が分かってくると笑いがこみ上げてきました。

だってそうでしょ、自分勝手な理由が含まれているのは相手から話しかけて来るのですからそれなりにあって当たり前ですし、さすがにそれが傷ついた今の状態だったら好きになってくれるかもとかそんな理由だったらさすがにわかりますが、友達になりたいで謝られても此方としても困惑してしまうだけじゃないですか。

しかも、それが冗談ではないのは見ていてわかってしまいますし、そしたらもうそんな理由で来たことに対して呆れを通り越して笑いがこみ上げてくるというものですよ。

私が笑ってしまったのがさぞかし不満だったようで彼は独り言のように呟やいていました。

「可笑しいって、じゃあお前は落ち込んでいたんじゃなかったのかよ」

それを聞いて、そういえば自分はさっきまで落ち込んでいたんだということを思い出します。

しかし、彼とのやり取りのおかげでどうやらそんな気持ちはどこに行ってしまっているようでした。

そのことを伝えると彼は大げさに驚いた後で、とても優しい笑みを浮かべました。

それが私には、いつもお母さんが浮かべていたあの柔らかい笑顔と重ねてしまいました。

だからでしょうか、あんな言葉を口にしたのは......

「それと、いいよ」

「いいよってなにが? 」

「何がって、君が言い出したんじゃないか友達になって欲しいって」

「え、いいのか?」

その言葉に、大袈裟に喜ぶ彼にまた自然と笑みを作りながら私はそういえばしていなかったと彼に挨拶をすることにしました。

「私は笹宮 千穂よ」

そしたら、彼もそれに倣ってぎこちないながらも挨拶をしてくれます。

「お、俺は四島 雪だ」

そして、私は彼、四島 雪くんと友達になったのでした。

長くなりそうなのでここで一度区切らせていただきます。

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