不幸の贈り物
これもショートショート大賞に落ちた作品の一つです。
「お兄ちゃん。荷物が届いているよ」
階下から聞こえてきた妹の声で、洋平は慌ててエロ本を閉じて押し入れに隠した。
階下に降りると中学生の妹が白い小箱を持って立っている。
「誰からだ?」
「分からないよ。『洋平様へ』て書いてあるだけで、差出人の名前がないもん」
妹から小箱を受け取ってみたが、確かに差出人の名前を示すものが何もなかった。
「業者のシールがないな」
「宅配便じゃないよ。玄関の前に置いてあったのよ。なんか気味悪くない?」
洋平は考え込んだ。
見たところプレゼントの様だが、自分の友人にこんな物を黙って玄関先に置いていく者に心当たりがなかった。
そもそも、誕生日でもないのにプレゼントなどもらえるとは思えない。
「いや、まてよ」
プレゼントをくれる人に一人だけ心当たりがあった。
「めぐみ」
洋平は妹の頭を撫でる。
「なに?」
妹は気味悪げに兄の手から逃れる。
「可愛い奴だな。俺へのプレゼントならそう言えばいいのに」
「はあ? なんであたしがお兄ちゃんにプレゼントすんのよ?」
「だから、日頃の感謝を込めて」
「なに寝言言ってんの? あたしが何でお兄ちゃんに感謝すんのよ?」
「ええっと……勉強を……」
「教えてもらった事ない」
「小遣いを……」
「もらった事ない」
「そうだったな。でも、俺が昔使ってた玩具や文房具を上げただろ?」
「あのさ。あたしは新品がほしかったのに、いつもお兄ちゃんのお古ばかりもらって不満なんですけど」
「不満だったのか?」
「不満よ」
「そうか。じゃあ、おまえにはこれをやろう」
洋平はさっきの小箱を差し出す。
「いらないわよ! こんなキモい物」
「しかし、良い物が入ってるかもしれないし」
「ひょっとして爆弾じゃないの? 誰かに恨まれた覚えとかはないの?」
「恨みか。ううん……」
洋平は考え込んだ。
「ないの?」
「いや、恨まれる覚えが有りすぎて、誰だか特定できない」
「有りすぎの方かい!!」
いい加減めんどうになった洋平は包装を解き始めた。
「待ってよ、お兄ちゃん。爆発したらどうするの?」
「大丈夫だよ。一緒に死んでくれる人がいるから寂しくない」
「なんだそれなら……いや、あたしを巻き込むな!!」
そうしている間に洋平は箱を開いた。
箱の中にあったのは腕時計。
「めぐみ、大丈夫だ。爆弾じゃなかったぞ」
妹は恐る恐る箱の中をのぞき込んだ。
「腕時計……これは、ガシコーのゲーショックだわ。しかも限定販売のモデル」
「誰がこんな良い物を」
洋平は早速腕時計を装着する。
「でも、これってデザインが悪くてさっぱり売れなかった奴よ」
「なんでもいいや。時計壊れたばかりだし」
「お兄ちゃん。それやっぱり嫌がらせだよ」
「なんで?」
「箱の中にこんなカードが入ってた」
洋平は妹の差し出したカードを受け取った。
それにはこう書いてある。
『これは不幸の贈り物です。あなたは今から七日以内に、この文面を変える事なく、これと同じ品物を二十八人の人に送らなければなりません。さもないと、あなたのところに不幸がやってくるでしょう』
「これっていわゆる不幸の手紙の贈り物バージョンて事かな?」
「お兄ちゃんどうすんの? ゲーショックを二十八個も買わなきゃならないわよ」
「無視すりゃいいよ。どうせ嘘だから」
「でも気味悪いよ」
「大丈夫だよ。誰もこんなの信じないって。まあ、信じてなくても恨みのある奴に嫌がらせで送る奴はいるだろうけど」
そして数日後。
洋平の部屋に大量の白い小箱が積み上げられていた。
「お兄ちゃん。いったい何人の人から恨みを買ったのよ」
「さあ? たぶん、この箱の数だけ」
そのころ、ガジコー本社では。
「部長。例の売れ残りのゲーショック、全部売れたそうですね。いったいどんな方法を使ったんです?」
部下に質問された営業部長は冷や汗を流しながら答えた。
「ちょ……ちょっと、試供品をばらまいただけだよ」
営業部長はポケットからカードを取り出して眺める。そこには洋平に送られたカード同じ文面があった。
「まさか、こんな方法で売れるとは思わなかった」
了