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第09話「アノマリーな勇者と魔導師は釣りに興じる」

初の中ボス戦戦闘に勝利したアキラとシーナ。

しかし、何だかシーナの方は大変そうです。


―――― 9 ――――


「この馬鹿っ、誰が突っ込めとか言った!」


 シーナは怒っていた。アイテムを拾い集める間中怒っていた。拾い終わってからも怒っていた。

 やがて落ち着いたシーナは、座り込むとサークルを発生させた。


治癒ちゆ魔法陣サークルだ、ここに来るがいい」


 そう言いながらシーナは服を脱ぐ。


「な、何を――」

「全身に傷を負ってしまったからな。下着までは脱がないから気にするな」


 そうはいっても、と思い、アキラは目をそらしながら自分の甲冑を外した。


「ここに立って、サークルからの光が全身に当たる様にするんだ」


 そう言いながら、シーナは自分の体とアキラの体にロッドを当ててやさしく擦る様にした。アキラがくすぐったかったが我慢していると、二人の傷は、彼女の展開した治癒魔法でみるみる回復していった。


「便利なものだなぁ」

「だがこれでは、死んでしまったものは復活できない。死んだら再生の谷行きだ。普通の者ならな」

「どういう事だ?」

「お前は普通じゃないと言っている。最初は死ぬなら死んでしまえばいい、とも思っていた。だが今は事情が違う」

「事情?」

「アキラ、お前がここにいる理由を調べる必要がある。君はこの世界にあってはならない状態異常アノマリーなのだ」

状態異常アノマリー?」


 シーナは自分の服を再び着ながら言った。


「君の存在自体がおかしい、という事だ」


 憮然としながらシーナは荷物をまとめ、すたすたと歩き始めた。アキラは慌てて甲冑を装着すると、荷物を持ってその後に続いた。


§


 シーナが勤めている場所。


「うわあ。シーナの奴、対象に問題をバラしちゃってますが」


 シーナの同僚らしい一人が声を上げる。シーナの上司は唸りながらそれに応えた。


「現状ではシーナの行動を信じるしかない。状態異常アノマリー自体がなぜ生じたかを実際に調べる必要があるし、状態異常アノマリーである彼自身が事実に関連していないなら、聞き取り調査も必要なんだ」

 くるりと踵を返すと、カップの飲み物を飲んだ。

「それより、別チームの方の進捗はどうなんだ」

「はあ、現状の解析と追跡調査をしていますが、何せ未経験の事が多すぎて、難航しています」

「クライアントに交渉できたのは今日の日没までなんだ。夕刻までにはなんとしても原因を調査する必要がある」


§


 日差しは高く上がっていた。彼らは山腹の小川に来ていた。昼食は自分たちで調達しなければならない、とシーナから聞いて、アキラは川で魚を取ろうと試みていたが、なかなかうまく行かない。


「何をやっているんだ」


 日陰に引っ込んで何やら作っている魔導師ウィザードは、呆れ顔でアキラに聞いた。


「魚を捕まえられないかと思ってね」

「素手では無理だ」

「やっぱりそうか……」

「こうやるんだ」


 出来上がった妙な仕掛けを持ってきながら、シーナはローブの裾をまくると、腰に巻き付けた。白い足が露わになる。仕掛けは硬い枝の先に蔓状の植物の先を輪の様にしたもので、手元の蔓を引くと、輪が閉じるようになっている。枝の先には何やら動く物が付いている。


「先の方、何が付いてるんだ?」

「虫だ」


 なるほど、よく見るとうねうねと芋虫のようなものが動いている。


「うえっ……」

「何だ、苦手なのか」

「生きた虫はちょっと……苦手で」

「ヘタレだな」


 正体を明かして以降、シーナの態度がすごく横柄になって行っているのに、アキラは気が付いた。


「酷いな、昨晩は『勇者アキラ』とか呼んでくれていたのに」

「他の人がいる手前だ。お前も作れ、作り方はここに書いてある」


 巻物と材料を放り投げられたアキラは物珍しそうにしていたが、もぞもぞと作業を始めた。やがて、出来上がったが、問題はアキラは虫が触れない事だった。

 ふとシーナの方を見ると、枝の先を水中に付けて様子を見ている。枝が引っ張られた瞬間、蔓を引くと、水中を泳いでいたものが捉まってきた。


「凄いな、釣れたのか」

「これくらい、誰でもできる。お前も早くやってみろ」


 そう言いながら、ポーチから出した皮袋に水を入れて、そこに獲れたものを入れた。


「ゲッ。何それ」

「何って、川虫リバーワームだが」

「虫かよ……。でも、変だな」

「何が?」

「喋る言葉は英語が混じっていて、武器の技は日本語とか漢字がベースだ。この世界、どうなってるんだ?」

「何を言っているかよく分からんな。これがこの世界の言葉だ。そういえば、阿蘇がどうのとか言っていたが、お前はどこに住んでいたんだ」

「しがない出稼ぎライン工員だよ。と言っても分からないか。感電事故をやらかしちゃったらしくて、気が付いたらここに居た……って、感電事故も伝わらないかな……」

「質問に答えてないしな。どこかは分からないが、働いていて、そこで事故に遭ってこの世界に来た。ということか」

「うん、まあ、要約するとそういう事になるね」

「働いていた場所は?」

「都内某所」

「都内某所じゃ分からん」


 シーナの突っ込みに、不承不承という感じでアキラは詳細を伝えた。


「ふむ。聞いたことのない地名ではあるが分かった、調査してみる」

「調査って、もとの世界に戻れるのか?」

「それは分からん。しかし、言葉には言霊というものがある。言われた地名に反応するなにかがあるかもしれん」

「そんなものか……」


 もちろんシーナのデタラメだ。シーナはこっそりと通信用クリスタルを起動すると、職場に連絡を入れた。


「例のアノマリーの住所が判明した、そこから直ぐ近くだ。誰かをやって確認させてくれ」


 シーナはアキラの住所を伝えると通信を切り、釣りに悪戦苦闘しているアキラの手助けをしに向かった。


§


 シーナの伝えた一報によって、シーナの勤め先は大騒ぎになった。直ぐに連絡を入れて、作業員が感電事故に遭ったかどうかの確認が行われた。感電事故に遭った人物は特定され、収容先の病院も明らかになったが、それは更なる混乱の元となった。


「そんな馬鹿な――」

「参ったな、まさか収容先があの病院だなんて」

「本当にその人物で間違いないのか? あのアキラという奴が、まさか――」


 そうしていると、デバッグチームからの連絡が入る。


「どうやらバグが特定できたようです」

「よし、直ぐに向かう、シーナも一旦呼び戻せ」

「しかし、シーナは状態異常アノマリー本体と一緒ですが」

「便所にでも行くといえば聞くだろうさ、さっさと呼べ!」

「了解しました」


 通信クリスタルは振動を繰り返した。だが、シーナは怒鳴りつけながらアキラと釣りに興じていた。


「駄目です、シーナはクリスタルを置いて、状態異常アノマリーと一緒に行動しています」

「むう、仕方がない、緊急事態だ。シーナを強制リブートしろ。あいつの力が色々と必要だ」


§


 シーナの目から生気が消えた。さっきまでアキラを怒鳴りつけていた筈だが、いきなりだらん、と、身体を弛緩させた。


「ん? どうした?」


 返答はない。


「おい、シーナ」


 アキラがシーナの体に触れようとした。次の瞬間、シーナの頭上に「信号途絶」という文字が現れ、点滅した。


「な、な、なんだ?」


 次の瞬間、シーナの体はふっと掻き消えたて仕舞った。


「おい、ちょっと待てよ、どうなってるんだ? この世界って……」


 アキラは絶句した。先程の文字はあるものを想起させた。


「ここって、オンラインゲームなのかぁ?!」



アキラの迷い込んだ世界はゲーム?

シーナはどうなってしまったのか。


次回、物語は新しい段階へ!

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