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第08話「〆切前の魔導師をよそに勇者は初のボス戦に挑む」

森の探索を続けるアキラとシーナの前に、巨大な影が――。

戦闘クライマックス!

―――― 8 ――――


 暫く進み、朝の陽ざしが強くなってくるころには、彼らは森林をようやく抜けて、山腹の岩の多い地帯に出てきた。

 開けた場所では、敵とのエンカウント率も下がるらしく、暫くは険しい道が続いているだけだった。


「よし、ここら辺で少し休憩しましょうか」


 シーナが呼び掛けると、アキラは有り難い、という表情で、道端であちこちに転がっている、大きな平らな石の上に腰かけた。

 朝ごはんにありつけずにおなかが減ったアキラが、ミソラから貰った包みを開けると、一見してサンドイッチの様な食べ物が出てきた。この世界の常として、見た目と食べた味や材料が違う、というのは昨晩体験していたので、アキラは慎重にパンのようなものをめくってみた。だが材料は分からないが、明らかに不審そうに見えるものは入って居なかったので、そのまま口に運んだ。

 パンに見えるものは、風味からしてどうやら何か芋のようなものだったが、食感はパンそのものだった。中に入って居た果実は甘酸っぱく、一緒に入っている肉のようなものに絡みついて得も言われぬ風味を醸し出した。


 アキラが異世界のサンドイッチに夢中になって舌鼓を打っている間に、シーナは荷物から小さな結晶を取りだして、アキラに見えない様に何かを始めた。

 水晶は何か映像つきの通信機のようなものだった。シーナの上司の姿が表示されたが、非常に困ったような顔をしている。


「連絡が入っていたようですが、何ですか?」

――クライアントがカンカンに怒っている。一刻も早く納品しないとうちの社の存続に関わる事態だ。

「彼を消せ、と?」

――いや、私はそれは望まない。むしろ彼がどこからここに来たのかに非常に興味がある。極めて特殊な状態異常アノマリーが発生していて、それは納品の質を向上させる可能性があるかもしれない、と、クライアントには説明して日没まで時間を稼いだが、それ以上はいつまで引き延ばせるかは分からん。

「ふむ、彼は状態異常アノマリーですか、面白い表現ですね。分かりました。私も打てる手を模索します」


 結晶を仕舞うと通信は切れたようだった。そして、何食わぬ顔でシーナも食事を続けた。


 食事を食べて暫くして、シーナは再び立ち上がると、アキラを促した。


「静かに、そっと立ち上がって」


 食後の余韻に浸っていたアキラは、その口調に潜んだ氷の刃に気が付いた。


「何匹だ?」

「敵の数ですか? いいえ、これはちょっと今までの敵ではないですね。一体ですが、巨大です」

「ボス?」

「まあ、そういう類の物ですね。奴らとの戦いになると、周囲に敵の結界が発生します。倒すまで逃げられませんよ」

「まんまボス戦って感じだねえ」

「本来は二人で立ち向かえるような敵ではないのですが、私たちが全力で向かえば何とかなるでしょう」


 話していると、地面に不快な模様が広がる。

 模様の先にはまるで腐った肉と血で織り交ぜたような物体がせりあがり、あっという間にドーム状の天蓋となる。

 敵の姿はまだないが、明らかに敵からのプレッシャーがその場を埋め尽くしている。


「敵の姿が見えてからでは遅いです。先程から覚えた技のうち、風の技を使ってください」


 シーナはそう伝えると、自らも竜巻のような空気の壁を纏い、敵の方向に向かって風の刃をマシンガンのように放射し始めた。

 アキラは剣を横真一文字に構えて説明を読む。風の剣技は「風神斬」。剣を撫でるように高速で振り回すことで衝撃波と共に風の刃で敵を倒す。彼は今の姿勢のままから剣を振り始めたが、何せ重い。


「重いと思っているから重くなるんです。剣に身を任せて、風を切り刻む自分を想像してください」


 アキラはそういわれて、想像した。

 自分が軽やかに剣を振り、そこから嵐が起きるさまを。


「ふぃふぃふぃふぃんっ!」


 剣が目にもとまらぬ速さで弧を描く。体はそれに追従して軽やかに動く。すると、剣の先からは空間のねじれのようにも見える屈折を伴いながら、透明な刃が無数に飛び出る。

 地響きのような咆哮と共に、敵が地中から姿を現す。その姿は現れると同時に、二人の放った風の刃で切り刻まれ、緑の体液が辺り一面にまき散らされる。

 何と形容すればいいだろう、全高10mは優に超える巨大な節くれだった塊に、巨大な目玉がいくつも付いている。そこから伸びた丸太の様な太さの、まるで鋳鉄のような鈍い光を放つ鱗のような組織に覆われたいくつもの触手が、風の刃を弾いていた。そして、本体の下部にある薄い十文字の巨大な割れ目からは紫色の液が垂れ続けている。

 次の瞬間、十文字の割れ目がぐばあっ、と広がると、そこには無数の黒い牙、いや棘だろうかも知れない禍々しい突起が身体の奥に続く穴に並び、並んだそれの奥には煌めく光が見える。その突起は突然二人目がけて飛んできた。


「趣味悪いなあ」


 アキラは敵の攻撃を避けながら、そのデザインに難癖をつけた。


「まあ、ああいう生き物だ」


 若干むくれたような感じでシーナが返す。


「植物なのか?」

「正直、どちらともいえない。生態はよく分かっていない。だが、倒し方ならわかっている。開口部の奥のクリスタルを砕くんだ」


 そういうと、術の詠唱を開始する。今まで詠唱などしたことも無かった彼女のいきなりの行動に、アキラは躊躇したが、その間にも敵の強靭な触手が狙ってきている。


「いきなり何だよ、俺はどうすれば!」


 そう叫んだが、詠唱中の彼女は一心不乱であり、当然ながら途中で喋れるわけもない。


「えい、くそっ」


 そう言うと、アキラは風神斬を繰り返しつつ、迫りくる敵の触手に切りつけた。敵の目の多くは、未だシーナの方を向いていたが、一部はアキラを追い始めた。


「ここでの身体能力がどれくらいか分からないけど、やるだけやってやるか!」


 そう言い放つと、彼は襲い来る触手に飛び乗り、追撃を避けて別の触手に飛び移りながら、敵の胴体目がけて駆けあがって行った。彼が近づいて行くにつれ、敵の目玉は彼を注視し始めた。シーナをちらりと見ると、それでも敵の攻撃がいくつか届いていて、避けながら詠唱を続けているが、完全には避けきらないようで、傷を負っている。


「あいつ、怪我してるじゃないか」


 だが、彼女が怪我をしながらも耐えている理由は先程の台詞を思い出して分かった。「開口部の奥のクリスタル」。彼女は、敵の化け物が開口部を閉じない様に、わざと標的になって口を開けさせているのだ。戦略を読み切れなかったアキラは、ただ自分に注意を引こうと思って闇雲に突っ込んでしまった。失態だ。


「畜生っ! そうならそうと先に言えよ!」


 アキラは開口部の傍に降りると、思念を集中した。


「えええいっ!」


 彼は気功斬を放つ。シーナが言った「風が弱点」というのとは違っていたが、気功斬はリーチが違う。

 直接切りつけられた敵はひるむと、口を閉じかけた。


「おっと、口を閉じて貰っちゃ困るんだ」


 そのまま敵に突進して、閉じ掛けの開口部に剣を突っ込むと火炎を念じる。幸か不幸か、敵の開口部に火がついて燃えだした。

 その刹那、シーナの詠唱が止まる。いや、終わったのだ。アキラはシーナを見てアイコンタクトすると、横っ飛びに逃げてごろごろと転がる。


「風・斬・砲!」


 シーナが一声そう叫ぶと彼女の広げた両手の間から、敵に向かって巨大な歪みの渦が伸びる。そこに光の渦が発生して、どんどん大きくなると、敵目がけて飛んでいった。光の渦は敵の開口部を貫いて、その奥にあったクリスタルを粉々に砕いた。

 敵は倒れると泡を出しながら分解した。後には、冒険者から奪った物だろうか、無数の宝玉やクリスタル、巻物や剣などの物品が散らばっていた。


中ボス(?)を倒したアキラとシーナは休息の時を過ごします。

しかし、シーナの職場ではどんどん事態が悪化しているようで……。

次回をお楽しみに。


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