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第07話「そして勇者はチュートリアルをこなす」

いよいよ冒険に出たアキラとシーナ。

戦闘開始です。

―――― 7 ――――


 エンカウント。

 魔物との遭遇は、そういうのがふさわしい感じがした。

 山のふもとの森林に辿り着くと、早速に敵が現れて襲いかかってきたのだ。

 シーナはすぐさま杖をくるりと振ると、輝くサークルを地面に描き、何やら唱えて術を発動させた。


防衛陣ガードサークルです。これで敵はこの中には入ってきません」


 敵は防衛陣ガードサークルの外から攻撃の手を伸ばしてくるが、陣の近くまで来ると、バシッ、っと何かに弾き飛ばされた。アキラは感心してその様子を眺めた。


「大したものですね」

「ですが、私たちも攻撃が出来ませんから、攻撃をしたい時は外に出る必要が有ります。私は陣の中から出ることが出来ません。アキラ、あなたが戦ってください」

「え、ええっ?」


 実際のところ、シーナにはある種の打算が有った。本当は、魔導師ウィザードは、防衛陣ガードサークルの中からでも、攻撃を可能とする魔法がいくつも有った。使わなかったのは、一つはアキラの実際の戦闘技量を見てみたいという事と、もう一つはアキラが自滅するならそれでも良い、と思ったからであった。

 アキラにしてみれば、多少の戸惑いはあったものの、そうか、異世界というものはゲームとは違うんだな。という認識だった。


「よ、よし、やってみます」


 彼は防衛陣ガードサークルの境界線を押してみた、少しの抵抗と共に、彼の体は外に出た。しかし、一度出てしまうともうサークルの内側には戻れなくなっていた。


「え? こ、これ、戦闘が終わるまで外なんですか?」

「必要が有ったら私がサークルを一部解除しますから、急いで入ってください」


 アキラはどうなんだろうなという風に首を振ったが、目の前に迫っているモンスターに集中した。最初の敵は大型の爬虫類に見えた。ただし、後脚だけで立っている。


「ラプタール。太古の生物の生き残りが変容したものです」

「何だかヴェロキラプトルみたいな名前だねえ」

「それは恐竜でしょう、これは魔道生物です」


 口に出してしまってシーナははっとしたが、アキラはそんなものか、という顔をして納得していた。


「『気功斬』は剣により集中すると、『気』を絞り込んで、より鋭く切り込むことが出来ます」


 シーナの説明を聞いて、アキラは息をのむと、敵の攻撃をかわしながら、不器用なりに剣に集中し、何とか気功斬を放った。

 すると細くて鋭い一閃が飛び出し、飛びかかってきつつあった敵を切り裂いた。倒した敵は目の前でボロボロと崩れる。敵のいた場所には小さな光る石が残った。


「はあ、はあ。倒したぁ。何か落ちましたね」

「ジェムです。そのままアイテムとして使ったり、集めて一度町まで帰れば、売ってお金に帰る事も出来ます」


 アキラの「気功斬」は、最初はコントロールも何もない状態だったが、使っていくうちに「気」を絞り込み、より鋭く、無駄なく切り裂くことができるようになってきた。やってくるモンスターは山に典型的な、虫系の物と爬虫類、それにジェリーの類であった。


 アキラ達がより深い森に進んでいくと、そいつは頭上に居た。


「アキラ、そこで立ち止まって」


 ジェリーの存在に気が付かないアキラを、シーナが制止する。


「?」

「頭上を見てください。この臭いに気が付きませんか?」


 アキラは見上げると、顔をしかめた。


「うっ、……何だこの臭い」


 ジェリーは、よくあるゲームの「スライム」ではなかった。不定形で、高い樹の枝や幹などに張り付いている。未消化の獲物を含んでいたり、周囲の様々なものを取り込んでいて、正直言って汚いしくさい。なんというか、肉や野菜の残飯が腐ったにおいに、治療をさぼっている歯槽膿漏の臭いと、ある種の薬品の刺激臭が混じっている。とでも言えばいいだろうか。とにかく、吐き気を催すレベルのくささだった。

 ジェリーの中には神経節のようなものと、それに付随する複数の目、筋肉や神経、代謝系とも思える無数の筋が走っている。そして、厄介なことにこいつは、気功斬が素通りしてしまう。かといって、剣で切りつけようとすると刃にまとわりついてしまって、どうにも倒せない。


魔導師ウィザードシーナ、このネバネバの弱点は分かりませんか?」


 悪戦苦闘しながら、アキラは振り返ってシーナに助けを求める。じっと見ていたシーナは仕方ないな、という感じに口を開いた。


「ジェリーは神経節を断てば全体が崩壊しますが、そこまで刃が届かない場合が有りますね。あとは高熱と極低温に弱いです」

「熱、熱……。ファイヤーソード!なんちゃって」


 アキラは冗談のつもりで適当に言ったのだが、空中に「火炎剣」の文字が現れると、まとわりついていたジェリーは一瞬で溶け落ちた。シーナは、「ほう」と一言感心の言葉を呟いた。


「な、なんだこれ」


 当のアキラはと言えば、冗談のつもりで言った言葉で何やら発動してしまったことに、大変ビビってしまっていた。シーナは、これも教えなければいけないのか、と、頭をやれやれと振りながら答えた。


「そういう技が発動したんですよ、思念感応です。気功斬についてもそうですね。あなた自身の資質アビリティもありますが、剣についている属性パラメータでしょう。剣を両手で持って、真っ直ぐに立てて、身体に引き寄せてみてください」


 シーナに言われるままにアキラは剣をまっすぐ持って引き寄せた。すると、剣の上に何か文字のようなものが浮かぶ。だが、目を凝らしても読むことは出来ない。


「武器に浮かぶ文字は魔法系のスキルが無いと読めません。そのまま剣に触ってください」


 アキラが剣に触ると、手元に巻物のようなものが現れ、くるくると開いた。


「こ、これ」

「魔力の封じられたアイテムに必ずついている契約の書です。能力の目録のようなものですね。ほら、そこに気功斬と火炎剣の名前もありますよ」


 見ると、いくつかの単語が羅列され、そのわきには煌めくジュエルが並んでいる。


「この宝石は?」

「その能力の修練度を示します。10個集まると上位の技になります」

「ふうん」


 アキラは感心しながらそのジュエルに触った。すると、見た目と違って、そこはただの少しざらついた紙の感覚しかなかった。


「見た目だけなのか」


 アキラは手と巻物を不思議そうに交互に見た。シーナはしょうがないなという顔をしながら説明した。


「そうでないと巻物は巻けません。何というか、魔術所の巻物は、そういう絵を空間に映し出す能力があるのです」


 浮かんでいた巻物は掴むと手に収まった。巻物をひっくり返したり、不思議そうに扱っていたアキラは、ポン、と手を打った。


「ははぁ、子供向けの飛び出す絵本の魔法版みたいなものか」


 シーナは少しずっこけた。


「ま、まあ、そういう考えでも間違いではないかと――」


 妙な方法で納得したアキラは、巻物をポシェットに収めた。シーナはそのまま忘れない様にと一言付け足した。


「この先武器を買い替えても、その巻物が有れば、新しい武器に今迄のスキルを移し替えることが出来ます」

「へえええええ」


 こんな具合で、いろんなことを少しずつ経験しては、その都度アキラがシーナに質問したり、教示を受けたりを繰り返しながら、彼らは山腹の森林の、獣道然とした道を進んでいった。


戦闘を続ける2人はついに……。

そして、シーナに危機が!

次回も楽しんで頂けたら幸いです。

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