第04話「社畜魔導師は集中治療室の勇者を導くか」
魔導師シーナと共に、一夜の宿を供されることになったアキラ。異世界での夜が始まります。
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「電源は落としました!」
「傷病者、心肺停止状態です!AEDでの蘇生措置を行いましたが、反応有りません!」
「とにかく、搬送しながら蘇生を続けよう、一刻を争う!」
担架に乗せられたアキラは、救急車に収容された。救急車はサイレンを鳴らしながら急いで発進した。
「集中治療室、受け入れ先見つかりました、患者の状態を詳しく知りたいそうです!」
「急いで現状を送ってくれ! 患者はチアノーゼ状態で心肺停止。簡易検査では神経反応に問題検出。高電圧で神経系の一部が破損しているようで、全身まひと自発呼吸の停止を確認している」
「3分以内の収容を求められています、交通状況はクリア。2分で到達可能です」
「先方に2分30秒で到着と伝えろ。こちらでも出来る限りの蘇生措置を続ける。人工呼吸器と簡易人工心臓を用意、とにかく酸欠による脳死だけは避けろ!」
救急車は鬼神のような速度で走り、1分57秒で病院に到達。アキラは担架でナノマシンを使う集中治療室(ICUーME)に搬送されていった。アキラの身体が運ばれた病院では、先端医療の特別集中治療室だけが空いていた。たまたま傷病データを集める目的もあり、アキラは即座に最先端の蘇生施設に搬入され、その脳はモニターの為に院内ネットワークに接続された。
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「魔導師、無事対象に接触しました」
「客への納品が遅れている。向こうからはかんかんに怒って矢の催促が来ているんだ。一刻も早く対象を排除しなければならない」
「とにかく、魔導師によるヒアリングを行いましょう。明らかにイレギュラーな事態ですから、原因究明をせずに性急に手を打っても、結果が予測できません。それでは客も満足しないでしょう」
「ううむ……今は任せるしかないか……」
「そうですね……」
明らかに上司と思われる男は腕組みをしながら状況を検分していた。
「しかし、あの勇者を名乗る男、『いったいどこから』現れたんだ?」
部下と思われる男は頭を振って応える。
「分かりません。あの男自体が一つの状態異常となっています。周囲の人々も、まるで彼が元からそこに居て、話しをしていたかのように振る舞っているようです。今は魔導師シーナに任せるしかないです」
「うむ、そうだな。現役時代から魔導師として知れたシーナなら、きっとやってくれるだろう」
「今はさしずめ、大魔導師という所ですかね」
上司の男は軽く笑ったが、目は厳しいまま、シーナの姿を映している装置を凝視した。
§
アキラが招待された夕餉の席に出てきた料理は、どれも見たことも聞いたことも無いようなものばかりだった。焼き魚と思った料理は外骨格で、6本の足がついていた。ホットサラダだと思った緑の分厚い葉はステーキの味だった。赤いスープは濃厚なミルクの様な味だったし、パンと思って齧りついた塊は汁気がたっぷりの果物の様だった。
「お口に……召しませんか?」
目を白黒させながら料理を食べているアキラに、エルフの少女はおろおろとした口調で尋ねた。彼女の両親と思しき夫婦も、心配そうな目で見ている。
「勇者殿は、この地方の出身ではないとお見受けしました。恐らく初めて食べた料理も少なくないのではないですかな」
シーナの思わぬ助け舟だ。アキラは感謝すると同時に、どうしてそんな風に気が回るのかと不審にも思った。
「そうでしたか……これは失礼しました。火蜥蜴虫の串焼きに、ミートリーフのステーキ、紅猫牛の乳、それにブレッド梨ですわ。質素な食事で、お口に合わなければ申し訳ありません」
アキラは慌ててそれを否定した。
「いえいえ、とてもおいしい料理ばかりです。魔導師シーナの言われた通り、はじめてなものばかりで戸惑ってしまいました」
確かに、料理はエキゾチックではあったが、とても美味しかった。魚に見えたのが虫、というのはちょっと聞いてぎょっとしたが、アキラの出身地ではテッポウ虫と呼ばれる木の中に巣食う芋虫を焼いて薬にする、という習慣もあり、アキラ自身も食べたことが有ったので、あまり抵抗感はなかった。だいたい、食べた味は実家で食べたなんとかという白身魚のそれとしか思えなかった。
「それで、勇者殿はどうしてここへ」
シーナに言われてギクッとした。目的なんて分かる訳がない。だが、この人物にはきっとそれなりの理由が有ってここにきていたのも事実だろう。
「魔神の山に行かれるんですよね」
エルフの娘が尋ねてきた。ラッキー。でも未だにこの娘の名前が分からないんだよな。
「そう、魔神の山の話を伝え聞いてここに来た」
「なるほど。ところでまだ貴女のお名前を聞いていませんでしたな」
今度はシーナがまるで俺の心を読んだように彼女の名前を尋ねた。都合がいいなぁ。
「私ですか。魔導師様に名乗るほどのものではありません」
そんな勿体ぶりは要らないから、早く話せよ。俺も聞きたいんだから。
「いえいえ、夕餉を頂いていて、お名前を聞かない訳にも行きますまい」
「……はい、私の名はミソラ。父はレガル、母はウラルです」
「美しい名前ですね。ご両親の愛を感じますな」
確かに、綺麗な名前だ。でも、ここは日本じゃないんだから、名前の規則も違うんだろうな、実際両親の名前はどう見ても日本人じゃない。
そう考えていると、ミソラが父と呼んだレガルが声を発した。声優張りの魅力的な声だ。いや……それどころではない。悪役などダンディな声で魅了する、声優の若宮則之の声そっくりだ。そういえばミソラの声もどことなく聞き覚えがある。
「今日のお宿はお決まりですかな。もし宜しければ、部屋を用意させましょう」
アキラは声に魅了されていたので、話題を振られて大いに焦った。しかし、ここで取り乱しては勇者として情けない。だから、焦りを声に出さない様に注意深く話した。
「お気遣い感謝いたします。宿はこれから探そうと思っておりました」
「それは都合がよい。是非当家にお泊り下さい」
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
レガルはくるりと方向を変えてシーナを見た。
「魔導師さまは如何為されますか?」
「私も宿はありませんが、なに、雨露がしのげるところさえあれば結構ですし」
「めっそうもない、魔導師さま、しかも女性の魔導師さまを野宿させたなどと言われては当家の恥で御座います」
「成程、御厚意に甘えさせていただくのが宜しそうですな」
「それでは、さっそく用意させて頂きます」
そういうとレガルはウラルの方を向く、彼女は頷いて2階に上って行った。
食事を済まして食休みをしていると、ミソラが手桶に布を入れて持ってきた。
「湯浴みをなさいませんか。お疲れでしょう」
シーナは首を振る。
「私共、魔術師はローブの力で常に清潔に保たれております故。勇者殿は如何ですかな?」
アキラは一瞬戸惑った。自分の身体じゃないこの体を検分するいいチャンスではある。
「で、では」
そういって受け取ると、ウラルの案内で地下に降りた。そこには壁面からわき続ける湯の滝が有り、そこから湯を分けて浸かる湯船と、身体を流すためなのか、壁際に据え付けられた溝を流れる湯が有った。ウラルはいきなり髪を上げて櫛で頭の後ろにまとめると、アキラの甲冑に手を掛け、何かを探している。
「い、いきなり何を……」
「甲冑を着たままではお湯をお使いになりませんので。この甲冑の脱衣鋲はどこにあります? 確か首か腰の辺りにあると思うのですが……」
言われて首を探ったがそれらしいものはない、腰の後ろ側、固い装甲の中ほどに、妙に突き出たものがある、思い切って押してみると「カチリ」という音とともに、甲冑が外れて前後に落ちた。
「身に付けられているものもお脱ぎください。お背中を流して差し上げます」
当たり前の事のように言ってくるミソラに、アキラ自身が慌てた。というか、自分の体ではないので見られてもいいのかな、とも思ったが、やはりそれでは何か違う。いやいや、こんなごつい身体をミソラのような少女に触らせるのも。
アキラは混乱してぐるぐるしていた。
「どうなさいました?」
「……申し訳ない、ちょっと一人にして下さいませんか?」
アキラは何とかそれだけ台詞を絞り出した。ミソラはちょっと残念そうな顔をしたが、言葉に従った。
「もし何かありましたら、遠慮なくお呼びくださいね。タオルはここに置いておきます」
「あ、ああ、わかった。ありがとう」
一人きりになってほっとしたら腰の力が抜けた。アキラは取り敢えず脱いで、んーなんかすごい身体だ。と、自分の(?)身体をしげしげと見た。いろいろ弄ってみたくはなったが、今はそれどころではない、と思い直して止めて、さっさと服を脱ぐと、ざっと湯を被り、それからすぐに湯船に入った。
風呂には何か精油でも入れてあるのか、とても和らぐ香りに癒された。
次回、逞しいアキラの入浴シーン!
(誰得)
……とは別に、物語の核心がチラリ。




