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第22話:「プログラマ、活躍する」

短期のはずがずっと続いている連載です。


突然襲われた佐々木の運命は?

現実世界に出てきてしまったミソラとシーナたちの邂逅は?

ややこしく絡み合う物語と人――。

事件はターニングポイントに向かいます。


 頭にひどい鈍痛を感じながら目が覚める。


「あっ(つう)、いってえな……」


 頭がぐらぐらして、感覚が定まらない。

 何がどうしたかを必死で思い出そうとした。


「そうだ、頭になんか当たって――殴られたんかな?」


 辺りを見回し、頭がばかになっていないか初歩的なところから記憶をおさらいする。


「俺の名前は佐々木、佐々木(たけし)。歳は28。飛び級して19で大学卒。プログラマ歴は7年とちょっと。ARS MAGNA(アルス・マグナ)のサーバ側チーフ・プログラマでイケメン彼女なし――、よし、だいたい覚えてる」


 最後のほうはどうなんだという自分突っ込みはぐっと飲みこんだ。

 次に、ずきずきと痛む頭に触る。こぶができている。触った手に血は付いていない。


「血は出てないな――血? そういえば、血だまりがあって――」


 頭がはっきりしてきて状況を把握し始めると、自分が倒れた時と状況が違っているのに気が付いた。


「ここ、どこだ?」


 血だまりを見た部屋は確かつるつるの床だったが、起きたのはカーペットフロアの部屋だった。部屋に散乱していたはずの資料もなく、事務机が並ぶ部屋だった。


「最初に素通りした事務所の中……かな? 俺どうやってここに入ったんだ?」


 佐々木がひとりごちていると、ドアが開く音がした。


「ああ、良かった。気が付いたのね」


 入ってきたのはパンツスタイルにジャケットで、髪を頭の後ろにお団子にまとめた、中途半端にラフな格好の女性。初対面の相手に佐々木は警戒と緊張を隠せないでいた。


「あなたが倒れているのを見つけた時はぞっとしたわ。死人なんて触ったことないし」

「生きててお生憎様。あんた、誰?」

「ここのサーバチームのサブリーダーの横江です。そういうあなたは?」

「ここの鯖を使わせてもらっている、フィーチャードリーム――」

「ああ、ちょっと前に電話を頂いた――佐々木、さん?」

「あ、最初に電話に出た方?」

「そう。サーバルームが荒らされてて大変だったの」


 そういいながら彼女は部屋の隅のディスペンサーに行って、冷水をとって戻ってくると佐々木に渡した。

 佐々木は受け取った水を一気に飲み干し、頭を振って、それから話を続けた。


「あの後、他の人が電話に出たんですが」

「ああ、上野君かな。今警察に行ってるわ。一番近い交番に行くとかなんとか」

「――サーバルームが荒らされてて、って言われましたよね。……床の血は?」

「血? ……あああああ、あれは血じゃないわよ。バイオサーバ向けの栄養液」

「バイオサーバ? ここバイオチップ使ってましたっけ?」


 バイオチップとは、たんぱく質を主体に、生物をまねて作りだしたコンピュータチップのことである。高集積の巨大容量サーバ向けの技術の中で、発熱量が小さいこと、そして何より消費電力が小さいことから、近年、サーバへの採用が進んでいた。


「集積度と発熱量で、最近のホスティング(サーバ貸し出し)会社の大容量サーバはたいていバイオチップだと思うんだけど?」

「ごめん、ホスティング方面は疎くて……」

「確か、お宅のAIサーバをうちでホスティングしてたんでしたっけ?」

「そうそう。AIは米国のディープシンク社の最新バージョンをインストールした筈です」

「ええ、先ほど記録をチェックしました。アクセス権限が効かないエリアができて困っている、ということでしたかしら?」

「そうなんです。バイオチップのサーバだから、なんてことはありますか?」

「材質が生化学に基づいているからバイオなんて言ってるけど、結局は電子回路の部品よ。権限設定とかの部分が違うわけじゃないわ」

「そりゃそうですよね……」


 頭を抱える二人だった。


§


 交番の奥の部屋にいた少女を見て、シーナと明は顎が外れそうになった。

 少女は唖然としている二人を怪訝そうな顔で見ていたが、シーナをまじまじと見て、パあっ、っと表情が明るくなった。


「魔導師様!」


 シーナは頭を抱えた。


「なんでこんな所にミソラがいるんだ……」

「私もわかりません。街がおかしくなってみんな眠ってしまって、私ひとりでいたんですけど――」


 警官はあきれ顔で二人を見た。


「なんだ、やっぱり知り合いか。身元引受人になるなら、書類を用意するが、どうするね?」


 シーナは絶句していたが、明がすぐに対応した。


「わかりました、よろしくお願いします」


 ミソラは怪訝な顔をしてシーナに尋ねた。


「あの、魔導師様、こちらの方は?」

「ああ、この子はア――」


 シーナは「アキラ」と、途中まで言いかけてやめた。

 ミソラはアキラの本当の姿を知らない、いや、シーナの本当の姿だって知らない。

 たまたま今の格好だったからよかったが、二人とも本来の姿だったら、ミソラは警戒してしまってまともに話もしなかっただろう。


「アー、私の弟子だ。兎に角行き先がないのだろう。私が身元を引き受けるから来なさい」


 適当に誤魔化した。


「魔導師様が身元引受なんて、恐れ多い――。でも、頼れる方もほかに居ませんし。お願いします」


 あっさりとした反応に、シーナは感心した。

 そもそもが、この子はAIエンジンとアバター制御プログラムと音声データとグラフィックだけで出来た、とても生き物とは呼べない代物の筈だ。しかし、眼前にいるそれはどう見ても普通の少女である。

 現場では無いとはいえ、シーナも開発に携わった関係から、彼女を作り出しているプログラムの概要は大体知っていた。そのプログラムだけでは到底、現実空間で考え、動き、話すものなどを作り出せるはずもない。

 どうやって思考して、どうやって動いているんだろう。

 シーナの知的好奇心は膨れ上がったが、ぐっとこらえた。

 自分自身だって、どうして異形の少女(こんな格好)なのかもわからないんだから、お互い様だと思い出したのだ。


「じゃ、身元引受はそちらの派手な髪のお姉さんでいいんだね」

「はい、私が身元を引き受けます」


 そういって、ペンをとると書類に必要事項を書き始めた。

 多分、年齢や性別の欄については、警官とひと揉めすることになりそうではある。


§


 サーバルームで頭を抱えていた二人だったが、ふと横江が顔を上げた。


「あ、もしかしたら」

「何かあるんですか?」

「うちの使っているOSは知っているわよね」

「一般的なOS……Linuxでしたっけ?」

「惜しい。うちのはちょっと特殊なのよ」

「というと――」

「何、うちのホスティングサーバ使っていて、説明も細かく見ていないの?」

「カスタムLinuxってことは書いてあるみたいでしたけど」

「そうそう、独自拡張(カスタム)なの。確かメンテナンス用の機能とかが拡張されてあったはず……」


 そういいながら、横江はコンソールで資料を漁っていく。


「あったわ。えーと、クライアントの契約レベルに応じてさらに細かい特権割り付けを可能にしてるわね」

「それって、カスタムどころじゃなくて大改造なんじゃないですか?」

「さあ? 私もよく知らないけど、確かカスタマイズした会社はネクデ……何とかコーポレーションって」

「ネクデル・コーポレーション?」

「そうそう、それ!」


 佐々木は再び頭を抱えた。


「それ、うちがお宅のサーバを使って作ってる疑似体験ゲームの基礎技術、『ネクデルドリーム』を開発した会社ですよ」

「あら、変なところでつながってるわね」

「何かそこらへんに原因がありそうです。帰ったらうちの若本にでも聞いてみようかな」

「誰それ」

「クライアントアプリ側のメインプログラマです」


 ごたごたとした話をしていた佐々木のもとに電話が入った。


「おっと、うちの主任からだ。はーい、シーナさんどうしました?」

「お前今どこにいる? 会社に電話したけど吉田さんも困ってたぞ」

「あ、メモ残してませんでしたっけ。サーバにアクセスできないから、サーバ会社に調べに行くって」

「どこかで情報が入れ違ってるな――で、何かわかったか?」

「OSがネクデルコーポレーションのカスタム品でした。あそこが何か仕掛けてますね」

「その『何か』は割ととんでもないぞ」

「は?」

「こっちにミソラがいる。今保護して会社に戻るところだ」

「ミソラ、ミソラ……えぬっ、NPCのミソラですか?!」

「今は人間だ。私の件といい、変なことが起こりすぎてる。兎に角お前も一度社に戻れ」

「了解っす」


 佐々木は電話を切ると、横江に向かって肩をすくめて見せた。


「何が起きてるの?」

「社外秘っすよ。NDA(守秘契約)交わしたら教えてあげます」


(続く)




諸多の事情ですごく長い間休載してしまいました。

物語は後半戦。

ぼちぼちと書いていきますので、お付き合いいただければと思います。

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