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第16話「勇者はオフラインでもスキルを発動する」

ぐずる明を連れて一緒に眠る実験に赴くシーナ。

だが、その結果は予想をはるかに上回る結果に……。

混乱の16話!

―――― 16 ――――


 大男がくねくねとしながら恥ずかしがる様子は、見ていて気持ちが悪いな。

 シーナはそう思ったが、中身がアキラだと思えばこそ、ぐっとこらえた。


「私はおそらく寝る事は出来ないが、アキラに関してはよく分からない」

「頭と直結していない今は、ゲーム中でも眠れない可能性がある、ってこと?」

「まあ、それもある。逆に寝てしまうようなら、ゲーム中に何らかのバックドアが仕掛けられているという事になるな」

「えっと、これ――ログ、だったっけ、記録とってあるんだよね」

「当然だ、デバッグの為にやってもらっているんだから」

「えと、変な夢とかもし記録されちゃったら――」

「何か心当たりでもあるのか?」

「そ、そんなの分からない」


 まあ、夢を見られるというのは、頭の中をのぞかれるのに近いからなあ。

 シーナはそう思ったが、苦笑いするだけで止めておいた。


 宿屋の部屋は、寝ることが出来ないゲームシステムの割には、ベッドはちゃんとしたものが用意してあった。アキラはベッドの上に座って跳ねている。


「あんまり精神を興奮させるなよ、眠り難くなるから」

「――シーナさんお小言五月蠅(うるさ)い」

「なっ――、どうでもいいから、さっさと甲冑を外して横になれ」


 そう言いつつ、シーナもローブを脱ぐ。


 扇情的――なんだろうかなぁ。エロい服だとは思う。


 シーナは自分のアバターの服を見てそう思った。おっちゃんがこういうエロい服を着せた少女キャラクタを自分のアバターにしているとかは、ネットゲーム時代では少なからずあった話ではある。いわゆるネカマではない、自分を男性と公言しているプレイヤーでさえやっていた。

 ネクデルドリームは初の試みではあるから、それがどう変わるのか、そういう好奇心から、恭一はこのアバターをあえて選んだ敬意がある。変身願望がそこにどの程度含まれていたのか――については、本人も良く分かっていない。


 ただ、あの夢の中の自分は、このキャラクタに似ていた気がする。


「じゃあ、シーナさん、おやすみなさい」

「ああ、上手く眠れる事を祈っている」


 そう言いつつ、自分もベッドに横になる。本来の体は、ArsMagnaアルス・マグナの仕上げの為にまた連日半徹状態で、かなり疲れてはいる。もし疲れが出て寝てしまったら――。本来、ネクデルドリームはレム睡眠状態である。ノンレム睡眠中は普通にネクデル・ドリームに居る筈だし、深い睡眠=ノンレム睡眠になった場合、外部の本人がゲームから自動ログアウトされるだけだ。


 ほどなく、明の寝床から寝息が聞こえ始めて、シーナはそっと置き上がった。


「ほほう、NLDコネクタ経由でも眠れるのか」


 シーナは通信機を取り出すと、外部のスタッフに連絡を取った。


――はい、シーナさん?

(かなどめ)の様子は? ゲーム内でのアキラは眠ったが」

――それ、夢の中で寝ているような感じですよね。――バイタルはプレイ中とほぼ同じですね。超明晰夢を見ているレム睡眠状態です。

「夢のトレースは?」

――ログは出ています。……おかしいな。

「どうした?」

――夢の内容を追跡できません。夢の中で見ている夢という特異な状態だからでしょうかね。

「ふむ……私もこれから寝てみる。もし、ログアウトしたら起こしてくれ」


 シーナはそのままベッドで目を瞑った。

 ああ、いい感じのベッドだ。眠れる感じがする。

 周囲が暗転する――。


……シーナ。


 ああ、やっぱり眠れなかったのか。しかし誰だよ、呼び捨てにするとか。アキラか? いや、あいつも「さん」をつけるとか言っていたし。


……シーナ!


 五月蠅いな。


 恭一は目を開けてあたりを見る。

 開発室。だな。やっぱり失敗か。


「誰だよ、呼び捨てで起こしたのは」


 と、声を出して恭一は真っ青になった。

 自分の肉声ではない。

 自分から発せられたのは、シーナ――アバターの声だったのだ。

 慌てて自分の体を見て、二度真っ青になった。


「な、なんだこりゃあ」


 素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。それはそうだ。恭一の体――ではない。シーナのアバターだ。


「わーお!」


 振り返ると開発部の佐々木。

 やっぱり現実か。


「何騒いで――あら、シーナさん可愛い」

「――本田さん、落ち着いてるな」

「びっくりしてますよ。びっくりしすぎて心がマヒしてるかも」

「じゃ、(かなどめ)は?!」


 恭一……シーナは隣のNLDコネクタを見た。寝ていたのは(かなどめ)(あきら)本人だった。


「どういう事なの……」


 恭一は、明もガタイのでかい男になっていたら、少しは現状に説明が付くかと思っていただけに、彼女が現実の体なのを見てかなりガッカリした。


「取り敢えず、起こそう」


 そういうと、NLDコネクトの枕の横にあるコントローラでログアウトを指定する。これは、ネクデルドリーム中に外部から緊急で起こす必要がある際に使うものだ。

 もちろん、装置から引き剥がしても起こすことはできるが、「寝ぼけた」状態になって仕舞う。ログアウトさせると、遙かに短い間に行動できるようにできるのだ。


「あふあ、おはようございまーふ」


 だが、起きた明は少し寝ぼけていた。ゲーム中で寝た所為だろうか。そして、シーナの姿を見て普通にあいさつした。


「シーナさんおはようございます」


 しかし、周囲の人とシーナを交互に見て、事の異常さに気が付いた。


「シシシシシシシシ、シ、シーナさん、何ですかそれ」

「私が知る訳ないだろ」


 言いながら、シーナ=恭一の胸を触る明。

(作者註:以後、面倒なのでシーナで統一します)


「無いペタだ」


 シーナは明に蹴りを喰らわせた。明はよろめいた瞬間、地面に手を突こうとした。その手から風が舞い上がる。しりもちをつき掛けた明は、風に支えられて何とか立ち上がった。


「え」


 明はシーナを見て、自分の手を見て、それから周囲の人を見た。


「えー?!」


§


 2人とも――特にシーナが嫌がったため、明の入院した病院とは違う病院で、2人の診療が行われた。


 明は、神経の電流量に若干の異常が見られる以外では、異常は認められなかった。違法な施術をされたナノマシン治療が、何らかの影響を及ぼしている可能性は示唆されたが、確証は得られなかった。

 シーナに関しては、まずアバターであるという点で、内臓などがどうなっているか等、様々な細かい調査が行われた。結論から言えば、シーナは人間だった。染色体は女性。身体年齢に推定不能という値が出るなど、様々な異常はみられたが、脳が有り機能しており、消化器官や循環器、毛穴、性器など、すべての器官が、生きた人間として正常動作しているのが確認された。

 これは驚くべきことではあった。何しろ、デザインされたアバターには当然内臓などは考慮されていない。何かを食べてお腹が膨れる、等は、ポリゴンで記述された身体に設定されたモーションに過ぎないからだった。

 そして、精神科のテストに依れば、そのパーソナリティは「椎名恭一」本人の物であった。


「医者がさじを投げた」


 検査が終わった後、シーナは本田が用意してくれた少し緩く感じる服を着て、喫茶店でむくれていた。同じ喫茶店には本田と明が同席していて、ケーキが美味しいなどと話している。


「おいお前ら、こんな異常事態によくそんなはしゃいでいられるな」

「だって、異常だからって、命に別条がない事が分かったんですし」


 本田は平然と言い放つ。


「それよりシーナさん、その体でバイク、乗れます?」


 明は全然別の心配をしてきた。


「トイレは……まあ、慣れてもらうしかないですね。洋服は全部買換え。あ、私のお古、まだありますから今度持ってきますね。生理用品の使い方、あとで教えますから」


 本田は真顔で残酷なことを言う。


「でも、案外胸が有ってびっくり。てっきりぺったんこのAAAとかだと思ったら、Aだったし」

「あ、それはねえ、アバター作るとき、シーナさんに私が助言したんですよ」


 人生の岐路に立つ元男性に対して、女性陣は全く容赦がなかった。



言うに事欠いて、現実世界でシーナ(少女)になって仕舞った恭一おっさん

次回、事態はさらに混迷の度を深めます。


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