拝啓、あの時の私へ
或る日、眼が覚めると。
私は笑えなくなっていました。
もともと愛想がいい方だとは思っていませんでしたが、完全に笑えない人間がいる筈が無いと、そう信じきっていましたので、また私は十八年の人生の中で、笑えないといった病気や症状を耳にしたことがありませんでしたので。
頬を無様に引っ張っても、ニコリともしない表情に「あぁ、私は笑えなくなったんだな」と。
漠然と納得せざるを得ませんでした。
生来、オプチミストの気がありまして、きっと疲れてる(全く以て、前日まではごく普通の日常でしたが)から、寝て起きれば元通りだと。
そう、考えておりました。
しかし寝ども起きれども私の表情は、喜怒哀楽の要を欠いたままでした。
しかし私には日常がありまして、太陽が昇る以上、笑えなくなったからといって何もしない訳にはまいりませんから、他人と会う時には「やぁ」と、いつも以上に笑顔というものを意識して、生活をしておりました。
あれから暫く経ち、私は今、八方が鏡張りの部屋にいます。
時が経つにつれて、私の周りの人間は私を避けるようになっていきました。
ある日、街を歩いていると警察に職務質問をされました。そのまま訳も分からず病院まで連れて行かれ、医者の診察を受けさせられました。
「あなたの表情は、非常にちぐはぐなものになっている」
そう、医者は告げました。
長いことごまかし続けた私の表情は、遂には感情と疎通しなくなっていたのでした。
それからこの部屋に入れられたのですが、確かに、私は、普段の平静な感情の時ですら、とても下卑たような表情を浮かべていることを、そこで漸く知ったのでした。
部屋に入れられて1年が経っています。悲しいのか、悔しいのかわからない感情で今、この最後の手紙を書いている訳ですが、
今私は、最高の笑みを、浮かべています……
コピペミスとかではなく、これで終わりになります。