彼女の名はムイナ
『小賢しい!!人間風情がこの私に勝負を挑むだと!?』
どうやら死神を怒らせてしまったようだ。我に返った生徒たちが散り散りに逃げ、先生は広場の隅で様子を見守っている。実力差がわかっているので戦いには参加しないが、残っている生徒を置き去りにして逃げないところを見ると優秀な先生らしい。
自分で身の安全を確保出来ない者達は全員去ったので、レグルは再び死神を挑発し始めた。・・・・・・まぁせっかく逃げる時間は待ってやったんだし、戦闘に巻き込まれて死んだ奴は自己責任って事で諦めてもらおう。
「ハッ・・・二回も言わないとわからないのか?馬鹿か?馬鹿なのか?えっ?言ってみろよ。バカで~すって!!アハハハハ・・・」
『貴様、絶対に許さん!!』
レグルは死神の振り下ろした鎌を素早くよけて中級魔法を数発打ち込んだ。
「ストーム、サンダー、ファイアラ」
それを見て死神が失笑する。
『無駄だ!!そんな攻撃は絶対防御の加護で私に効かな・・・ガッ!?』
攻撃が当たり、死神の気配が変わった。この戦闘は仕事には関係ないので絶対防御が使えなかったのを思い出し、本気になった死神は上級魔法呪文を唱え始めた。
『夢見よ。風よ、影よ、幻を映し愚者に断罪の刃を!!イリュージョンアタック!』
「放出!!火よ、火よ、嵐よ、灼熱の嵐になって敵を包み込め!!フレイムテンペスト!」
同時にレグルも最上級魔法呪文を唱えた。技と技がぶつかり土煙を上げ、お互いの中間地点で凄まじい爆発が起こす。土煙により、お互いの姿を見失った。術の階級が違うのに威力で引き分けた事に驚くが、直ぐに次の攻撃の為レグルは場所を移す。足音を消して素早く土煙の中を歩いていたが、背後に黒い影がよぎる。
「具現!!ライトソード!」
レグルは慌てて光と錬の上級魔法を短縮詠唱した。
死神の振り下ろした鎌を止めたものの、ライトソードは一瞬で破壊されてしまった。
その後、激しいぶつかり合いを繰り返し加熱する戦い。そんな戦いの反面、レグルは長引く戦闘に飽き始め、面倒くささを感じていた。そんなレグルの様子を勘違いした死神があざ笑うように言う。
『目くらましなんてしても貴様のいる位置は気配でバレバレだぞ。ん?謝るか?私は心が広いから今ならまだ許してやらんこともないぞ』
「じゃあ、ごめんなさい」
『「「えー!!!」」』
レグルは即答した。
あまりのあっけない幕引きに固唾を呑んで見守っていた者たちと死神が驚きの声を上げる。
すると召還陣が急に黒く輝き出し全く同じ格好の死神がもう一人現れた。
『死神617、仕事以外で人との戦闘行為は禁止されている。挑発なんかに乗るなんて以ての外だ』
『申し訳ありません!!』
617と呼ばれた死神は先程までの偉そうな態度から一変、レグルよりふた周りも大きな図体を縮めて後から来た死神に頭を下げる。
『死神長様からの指示により死神617に罰を与える。力の一部を封印した上でその男の使い魔としてこの世界で暮らすこと、その間は死神の資格を剥奪するとのことだ』
死神617は死神長様からの指示だと聞き渋々受諾すると、大人しく後から来た死神に封印の術をかけられ、一部の力を封印された後マントと鎌をはずして渡す。
マントを脱いだその姿は、肩より長い銀色の髪に華奢な手足の・・・・・・女!?
『時来たれば呪いは解ける』
そう言い残すとマントと鎌を回収した死神は帰っていった。無関係を装って、ただ眺めていたレグルのもとに元死神の少女はやってきた。身長はレグルの肩より少し高い程度で死神だった時に比べればはるかに小柄になっていた。
「話は聞いてたな、不本意ながら今から貴様と使い魔の契約を結ぶ」
少女の声は死神の頃の低く不気味なものとは違いハキハキとしていた。
「断る!やだ、めんどい!!なんで俺がお前の面倒なんかみなきゃいけないんだよ」
「断るだと?そもそも貴様が攻撃してこなければこんなことにはならなかったんだよ!貴様には責任がある」
「知らん!悪戯至上主義のこの俺は面白くないことはしない」
「そんなことはどうでも良い。死神長様の指示なのだ、どうしても貴様の使い魔にならなくては・・・」
「俺には関係ない!!面白いことなら全力を尽くすが、その他は全て手を抜くのが俺だ!諦めろ」
「できるか!死神長様の指示なのだ・・・」
こんなやりとりが続き、どのくらいの時間が過ぎただろう。
なかなか引下がらない少女に根負けしたレグルが面倒になって使い魔の契約が結ばれることになった。
「我、汝に力を与え賜おう、その力を持って汝、世界に何を求め何を成す?」
少女が呪文を唱えると二人の足元に紋章が現れて光りだした。
「俺は最高の快楽を求める」
「我、死神の契約に基づき共に戦い汝の使い魔とならん!!」
レグルと少女の左手には契約の証として同じ形の印が刻まれた。
「俺はレグル。あんたの名は?」
自己紹介すると困った顔をされた。
「私たち死神は名前を持たない。例外は他者に付けてもらった時のみだ。死神617とでも呼んでくれ」
「なら俺が名前をつけてやる。617からとってムイナというのはどうだ?」
すると女は気に入らなかったのか顔を俯けてしまった。
「ムイナ・・・私の名前。フフ・・・ありがとう」
違った。ムイナはとても喜んでいた。
先生がやって来て言った。
「みんなが逃げてしまって授業にならんから今日はこれでおしまいだ」
「じゃぁ帰るかな・・・」
「待ってください」
レグルが帰ろうとするとまだ残っていた生徒のうちの一人、落ちこぼれ君が友達を引き連れて声をかけてきた。
「・・・なんの用だ?」
「凄いです。死神を使い魔にしてしまうなんて!!」
「おまえの使い魔だって精霊 龍じゃないか」
「ええ。なので彼にふさわしい魔法使いになりたいんです。お願いです。師匠になってください。僕の名前はアルフ・レガシーです」
「私たちからもお願いします」
そう言って落ちこぼれ君が頭を下げると友達二人も一緒に頭を下げた。
レグルは正直面倒くさいがこの場から逃げなかった度胸とやる気をくんで育てれば今後とても面白くなりそうだと思った。
「しょうがないな。三人まとめて鍛えてやるよ」
「えっ?私たちも一緒に教えてくれるんですか?ありがとうございます」
「俺、マイクです。よろしくお願いします」
「私、ミーア・クロイシェフです。よろしくお願いします」
こうして自己紹介がすむと、後日フレイムエッグのメンバーと合流して鍛えることにして三人と別れた。