ギルド依頼は唐突に
Xランクは主に勇者や彼らと互角に戦える者が持つ。勇者は召喚時に圧倒的な魔力量や様々な特殊属性を手に入れるので、帝達よりも強い者ということで作られたランクだ。そんな勇者達でさえ足下にすら及ばない力を持った者がかつて1人だけいた。彼の名はラグナロク、滅びへと向かっていた人界をその手で救い出し英雄王と呼ばれた男である。それに敬意を払い作られたのがZランク、いまだラグナロク1人しか手にしたことのない伝説のランクだ。
「そんな事より ここにレンさん来てないか?どこに行ったか知りたいんだが 」
「レンだったらプチドラゴンを1人で狩りに行ったよ。『・・・・くっ ロイ、俺は先に行く 後は任せたぞ』ってノリノリで出掛けて行ったけど・・・・・・多分ジライ谷にいると思う」
「・・・・さすがレンさん、相変わらず意味不にテンション高いな」
(君も人のこと言えないんだけどね・・・・・・。)
ロイに同類だと思われているとは知らず、呆れて思わず溜め息までついてしまうレグル。ここでリリアがおずおずと声を掛ける。
「あの~そういえば私まだ、ギルマスの名前聞いてないです」
「あっ・・・そういえばそうだったね。ごめん、僕はここレインフラワーのギルマスをやっているロイ・ファルコンです。よろしくね・・・・・・ニコッ」
「わっ私はリリア・クリムゾンです。よろしくお願いします」
ロイに爽やかな笑顔で挨拶されたリリアは慌てて頭を90°まで下げる。この世界では討伐クエストなどの戦闘系依頼は複数人で挑むのが常識だ。2人が挨拶しているそばでプチとはいえ1人でドラゴンを狩りに行くなんて心配だなぁと考えていた。ちなみにこの世界の“龍種”は大きく分けて龍→龍人→ドラゴン→竜→竜人の強さ順に分かれる。
「リリアさんの魔力だったらDランクぐらいからスタートかな?ランクが上がるように頑張ってね」
「・・・よし、じゃあレンさんが帰ってくるまで簡単な依頼でもやるかな」
「私も一緒に連れてってください !!」
「今度のフレイムエッグの新人はすごい元気だね~前来た新人はすごい無口だったし、一人一人が個性的だよね」
「えっ……こいつは新人じゃないぞたまたま一緒にいるだけ」
なんか勘違いされたようなので訂正した。するとロイは凄く驚いたようで大きな声を上げる。
「え・・・うそっじゃあな「大変です。ライメイ山にてボルト鹿達が大暴走しています。このままだと人里に降りてくる危険性も・・・・・・」」
「「「・・・・・・」」」
物凄く気まずい空気が場を覆う。
「うん……まぁ丁度SSランカーが一人いることだし宜しくね」
「ちょ・・・・・・やだよあいつら大変だし誰か他に適任者がいるだろ?」
「何の為の二つ名だよ・・・まさに今こそ“戦場の支配王者”の出番じゃないか」
「今更だけどその名前けっこ~恥ずかしいよな・・・・・・」
ハァ・・・と溜め息をつき立ち上がる。そしてさっき部屋に入って来たギルド員から話を聞く。
詳しい事情などを理解した後、ロイに依頼書を作っておくように言って転移しようとする。するとリリアが一緒に行くと言い出した。SSランクの奴が受ける依頼だからと言って断ろうとしたら、ロイがよけいな事を言って来た。
「一匹一匹はDクラスのモンスターなんだから連れて行ってあげたら?どうせたくさん人手が欲しくなるんだし・・・・・・」
チッ・・・と舌打ちをしてロイを睨む俺と対象的にリリアはとても嬉しそうにする。しょうがなくリリアを連れてライメイ山へ転移した。
今回の依頼は援軍が来るまで人里にボルト鹿が下りて来ないようにする仕事だ。
「取りあえず邪魔だけはするなよ?お前ははぐれのボルト鹿を狙って狩れ。ボルト鹿は一匹だとDランカーが一人で狩れるDクラス依頼のモンスターだが、二匹以上だと複数人のパーティーを組んで戦うDランクの依頼になる。けして二匹以上同時に相手をするなよ」
しかし切り立っていて木の少ない山道には身を隠せる場所も少なくあっさり見つかってしまった。ボルト鹿達はリーダーを先頭にして崖のような坂を駆け下って群れでこちらに突撃して来た。
更に ビガーーー!!! 急に光った。
「目が~目が~ !!! 」以前勇者に聞いたネタをやる。
ふざけていたら本当にギリギリのところまで突撃してきた。
空間魔法で敵の後ろに回り込む、そして・・・・・・
「放出!!嵐よ光よ、輝き荒れる稲妻となりて全てを焼き斬れ『フラッシュサンダー』」
上級魔法を自信満々に群れへと放つ・・・・・・ボルト鹿達が電撃を吸収してパワーアップした。
「あっ・・・・・・しまった~ つい いつもどおりの得意魔法を撃っちゃったよ」
ボルト鹿は雷魔法吸収と嵐属性系魔法無効化のスキルを持っているのを忘れていた。
俺のミスで体中から電気をバチバチと放っているボルト鹿に突然リリアが水属性の初級魔法を連発した。
ボルト鹿に当たるがダメージにはならない・・・・・・しかし俺はすぐに彼女が何をしたいのか気づいた。水素爆発!俺は群れの中心に火の初級魔法を発動させた。凄まじい爆発と共にその辺り一面が吹き飛んだ。
バラバラに吹き飛んだボルト鹿達を回収していたら、援軍が到着した。全員辺りを見回して絶句している。
「・・・・・・いったい何があったのですか?」
一緒に来たもの達が誰も動けない中、リーダー風の男だけは数秒で持ち直した。なかなか優秀な人物だ。取り敢えずさっきまでの出来事を説明する。
━━━ 5分後 ━━━
「そうですか........ 申し遅れました。私はアポロ・ボムルガ、チーム レガシアン所属のSランカーです」
なる程、Sランクならもっと激しい戦いも見たことがあるだろうし数秒で持ち直したのも納得だ。
「ご苦労様です。私はフレイムエッグのリーダーにしてSSランク、戦場の支配王者です」
「今最もSSSランクに近いと言われているSSランカーですか.........お会いできて光栄です」
アポロを含めた援軍全員が感激している。
「私の依頼はここで終了ですので帰ります。後は任せましたよ」
「分かりました」
俺はリリアを連れてギルドへ転移した。
ギルドに帰るとロイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とメイド長のマリアナさんが待っていた。マリアナさんの見えないオーラがとても恐い、随分とご立腹のようだ。そういえば確か今日は・・・・・・ふと理由を思い出した。
「今日はお昼から授業があったのですが、随分とお楽しみだったようですね♪」
顔は笑顔なのだが目が笑っていない。首を少し傾げ口元に手をやる姿は何というか、こう・・・・凄く様になっている。
「アッ.........アハハハハハ....」
「フフフフフフフフ.............」
乾いた声が出る。ヤバい、顔が引きつっている。
そ~っと後ろのドアに向かって後ずさる。
ドン!! 急に開いたドアによって、ドアの前にいた俺が吹っ飛ばされる。
「依頼終わったぞ~ってあれ?レグルじゃん、何やってんの?」
お前に弾き飛ばされたんだよ!!
しかし口には出さない。頭を抑えつつ振り返るとそこにはレンがいた。普段はイケメンで何でもそつなくこなせる天才だが、今は返り血のせいでとっても気持ち悪い。しかも臭い。全てをだいなしにしていた。
「お前にちょっと頼「勉強の時間が無くなるので帰りましょう」・・・・・・ハイ」
言葉を途中で遮られた。いつもだったらキレるとこだが・・・・・・無言の圧力に逆らえない。
他の人を皆置き去りにして城へと連れて行かれた。説教と勉強は日が変わるまで続けられた。
一章終了です。