7話
隔週刊『Phantom killer』
これがこの町限定、ニ週間に一度発行される雑誌の名前だ。
名前は英語で『通り魔』という意味で、ありきたり過ぎる気もするが字面にしてかっこよかったからという理由でこの名前になったのだという。
今日、二週間ぶりにこの雑誌は発行され、コンビニに陳列されたことで多くの人の目に止まり、ある者は買い、またある者は立ち読んだ。割合として後者の方が多かった。
「えーっと、ランダムペインここ最近の痛み変化具合……へー、そうなってるのか」
戸隠が勤める会社内。サンプルとして送られてきた雑誌を眺めながら戸隠は呟いていた。
隣では、山門が鼻高々と座り、今か今かとある言葉を待ちこがれていた。
「で、今回のトップ記事は……」
来た。体ごと戸隠の方を見る。
「……クロスリッパーの再来か? 新たに見つかった交差傷を付ける通り魔…」
「そうなんだよ戸隠!」
耐えきれなくなった山門が戸隠の背をバシバシと叩いた。
「ちょ、力強いっすよ、痛いですって」
「ああ悪いわるい、でも見てくれたかこの記事!」
「えぇ、新しく見つかった交差傷の通り魔ですか」
「そうなんだ!」
自ら取材して記事になった事柄を意気揚々と語り出した。
「その人は一週間くらい前に通り魔に会ってな、交差に付けられた傷も見せてもらったんだ。ほらこの写真な」
雑誌には通り魔に会った人の、右足に付けられた交差の傷跡がアップになった写真が載っている。
「交差の傷と言ったら、クロスリッパーだろ?」
「確かにそうですね、今まで何やってたんでしょう」
「分かんねぇな。でもまたこの町を騒がしてくれるんだろうぜ、クロスリッパーがな」
「そう、みたいですね」
雑誌の残りを流し読み、戸隠は時間を確認。雑誌を机に置いて出掛ける準備を始めた。
「ん? 取材に行くのか?」
「はい。次は記事を載せたいですから」
結局今回の雑誌に戸隠の記事は載らなかった。
ただ、トップ記事確実のネタは持っている。それが使えるようになるか、もしくは使えずにお蔵入りになってしまうか、それはこれからの戸隠と朝雛の行動次第である。
外へ出ようとする戸隠の耳に、山門のこんな呟きが聞こえた気がした。
「さてと……こうして雑誌も発行されたことだし……久しぶりに、発散するとしようか……」
「……」
町のコンビニ、雑誌棚に置かれた『Phantom killer』を朝雛は立ち読んでいた。
これが、あの人の関係している雑誌か……と考えながら、トップ記事を眺める。
クロスリッパーの再来。この記事は多くの読者に衝撃を走らせたが、朝雛は特に感情を動かすことなく雑誌を棚に戻した。彼女が気にする通り魔はただ一人だけ、それ以外に興味は全く湧かない。
そのまま何も買わず、コンビニを出ようと入り口へ向かうと、反応する位置より少し前に自動ドアが開いて人が入ってきた。
ぶつからないように避けようと入ってきた人を見ると、
「あ……」
「ん? あ、こんにちは」
「……こんにちは」
挨拶してきた戸隠に対して朝雛も軽く頭を下げて挨拶をした。
「あれからどう?」
「……特に、何も」
占い師から情報を貰ったあの日からも敵討ちである通り魔を探し続けているが、一向に見つからず、それどころか他のまだ通り名のない通り魔を3人ほど倒してしまっている……ということは、とりあえず黙っておこうと思った。
実はそれが通り魔の逮捕率が上がっている理由の一端になっていることは、朝雛も知らない。
「そっか、まぁ焦っても仕方ないさ」
「……はい」
戸隠はコンビニの中へ入り、朝雛は外へ出て……そのまま戸隠を待った。
買い物を終えて出てきた戸隠はそこにいた朝雛を見つけた。
「え、もしかして待ってたの?」
「……はい」
戸隠といれば通り魔との遭遇率が増えるだろうと思っての考えだったが、予想ははずれてしまった。
「でもオレ、これから仕事とは関係無い所に行くんだけど」
「……どこへ?」
「その……あー、来てみる?」
「……だから、どこへ?」
「妹の、お見舞いなんだけど…」
コンビニから歩いて十分程、町唯一の病院に戸隠と朝雛はたどり着いた。
まさか本当について来るとは、戸隠は横に立つ朝雛を横目で見てから病院内へと足を進めた。
真っ直ぐにエレベーターへ向かい、入ると5階のボタンを押して扉を閉める。
2人を入れたエレベーターは途中止まることなく5階へと到着。
そこでふと、戸隠がコンビニで買った物に目が行き、袋の中からはみ出たある物を見つけた。
「……買ったんですか?」
「え? あぁコレか」
戸隠がコンビニで買った物の中には、隔週刊『Phantom killer』が入っていた。
朝雛は立ち読み、戸隠も会社でサンプルを読んだのだが。
「内容が内容だからかな、病院の売店には置いてないんだ。それでも読みたいって言うからこうして買って来たって訳」
エレベーターから降り、2人がたどり着いたのは個室部屋。入院患者の名前が書かれるプレートにはこう書かれていた。
『戸隠 和水』