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トウマゲキ  作者: 風紙文
5/17

4話

『……お断り、します』





「……という感じで、断られました」

「ほー、お前でも断られることあるんだな」

ランダムペインとの遭遇の翌日。戸隠は取材を断られたことを報告していた。

今戸隠がいるのは、勤めている会社の一室。自らの席に座り先輩に昨日の出来事を簡潔に―――ランダムペインと遭遇したことや自らのナイフ捌きは隠して―――語っていた。

「せっかく特ダネの匂いがしてたんですけどね」

「まぁ今回は諦めとけよ。そして今回の一面は俺が飾るのさ」

「何か特ダネ見つけたんですか、山門先輩」

山門(やまかど)と呼ばれた男性は、その通り戸隠の会社の上司、記者の先輩である。

茶色の短髪に白のワイシャツで包んだ筋肉質の身体だけを見れば体育会系の姿だが、特にしっかりとした脚が特ダネ探しで町を歩き回って出来上がったと聞けば、その身体はまさに先輩としての威厳を感じさせる。

二つ年上の山門は入社した戸隠の指導役に任命されて以来、席が隣同士なこともありこうしてよく話をしていた。

「まぁな、編集長にもOK貰って後は記事になってからのお楽しみだ」

「そういえば、今度の締め切り明後日でしたよね?」

「だな」

「はー……もう今回は諦めた方が良さそうですね」

「そうしとけそうしとけ。俺は今回のネタを見つけるために町中ずっと駆けずり回って、沢山の人とすれ違って……カップルっぽい男女共沢山すれ違って……あぁ、押さえるのに苦労したんだぜ」

話し始めた頃には山門の両手は震えていて、ぐっと握ることでようやく収まった。

「お疲れ様です。二つの意味で」

「おー……よぅし、一段落したことだし、少しだけやるかな」

「詳しい場所教えて下さい。取材してネタにしますから」

戸隠含め社内のごく一部の人間にのみ知られているが、山門は通り魔である。

その件数は62人とランダムペインに匹敵し、『リアル・ジ・ボマー』という通り名まで持っている。

有名な通り魔であるが、雑誌に載ったことは無かった。

その理由は山門が会社の人間であることと。

「やめてくれ。どんな風に記事になっても黒歴史にしかならん」

「そうですか」

その通り魔行為が、記事に不向きな事であるからだ。

山門が狙うのは、男女のカップル。それも仲が良さそうな2人組を対象としている。

路地裏を通るそのようなカップルの後ろから近付き……一際大きな音を立てるクラッカーを真後ろで鳴らして『リア充爆発しろ!』と叫んで逃げるという、嫉妬の詰まったイタズラみたいな行為であった。

その為死人は0、怪我人の数も皆無で、当の本人は知らないが被害にあったカップルの中にはクラッカーの音に驚いて女性が男性に抱き付き良い雰囲気になったというケースもあり、警察も逮捕しようかどうしようか処遇に困っている珍しい通り魔なのである。

「仕方ないんで、また取材行ってきます」

「おぅ、頑張れよ」





路地裏を歩けば通り魔が行われている可能性が高いこの町で、戸隠達の取材は町を歩いている人からの情報だけが唯一の情報源とされ。先ほど戸隠が言ったような、通り魔を自ら見つけて記事にすることは禁止とされている。

何故なら、それならば自作自演が行えてしまえるからだ。過去にそのようなことがあってから今のような形になったと言われているが、戸隠はよく知らなかった。

「うーん……コレと言った良い情報は無いな」

狙っていた通り魔が捕まり、通り魔を退治していた少女への取材を断られた戸隠の今の目標は、今最も旬な通り魔『ソフトチョーカー』の情報だ。

被害者の数が増えてきており、目撃情報や知り合いが被害にあったなどの情報を持つ人が多いだろうと踏んでの狙いだったが。

「けどこれ全部まとめるのはダメだろうしな」

逆に数が多すぎて、記事としてまとめるには時間が無かった。

「ここから、ソフトチョーカーの何かを見つけられれば記事になるんだけどな」

雑誌に載るような通り魔はその多くが謎に包まれていることが多い。なのでその謎が一つでも解明されれば、それだけで充分記事としての力がある。

通り魔の性別はもちろん、通り魔行為の対象となる性別や年齢層が分かればトップ記事レベルなのだが、『ソフトチョーカー』はすでにそれは分かっていた。

「はぁー……さすがに旬を狙い過ぎたかな」

戸隠はメモ帳を閉じ、そういえば喉が渇いたなと思い、近くの自販機へと向かった。

色々な飲み物がある中、持ち運びを重視してペットボトルのスポーツドリンクを見た時、昨日の出来事を思い出した。

ペットボトルを得物とする通り魔『ランダムペイン』との遭遇、それを退けた改造モデルガンを持つ改造制服の少女。通り魔に対して通り魔を行う少女、これだけでもう記事として成り立つ情報だが、まだ言葉が足りない。

後一〜二回その現場の情報、もしくは少女本人の言葉があれば……

「……やっぱり、もう少し追ってみるか」

通り魔に対する通り魔。その行いの意味は常人の考えの範疇を明らかに超えている。

実は過去にもそのようなことがあり、その人物がそのようなことをしていた理由は……悪を挫く正義としての行いだと言う、正義信者によるものだった。

これ以外にも理由としての可能性が戸隠には幾つか思い付き、少女の理由はこの中のどれかではないかと予想している。

そしてどれであっても、確実に記事になるだろうと思った。

「よし、諦めずに探してみるかな」

決意を新たにした戸隠は、少女が居そうな場所、路地裏を中心に探索を開始した。





―――そして、2時間が経過した。

「……居ない」

結果として、少女を見つけることは出来なかった。

「主要な場所は全部大体回ったはずだよな」

路地裏の多いこの町でも、通り魔が行われる回数に多少のバラつきがある。決して通りが長ければ良いわけではなく、若干の広さや人通りの少なさ、一部の通り魔はその場所故の仕掛けを施す者も存在している。

その中で戸隠は今までに件数の多い場所から、なるべく人通りの少ない場所、昨日『ランダムペイン』と遭遇した場所にも行っていたが、どこにも少女の姿は無かった。

「まさかまだ学校行ってるとか? けど昨日はこの時間帯に見てるしな……そもそも、あんな改造した制服で、学校行けないような気がする」

呟いていて、戸隠は自分の状態に気付いた。

「そういや、飲み物買い忘れてた」

2時間前、飲み物を買おうとして忘れ、それからほぼ屋外を歩き通し、喉はカラカラだった。

辺りの自販機を探すが、見当たらない。ならどこかのコンビニか喫茶店にでも入ろうと考えていると、戸隠は気付いた。

「ここからなら、萱野さんの所が近いか」

戸隠の思った通り、少し歩くと茅野が勤める喫茶店を見つけた。

中へ入った瞬間、店員にいらっしゃいませ、と言われるより前に横からの視線を感じた。

振り向いて見ると、それは二人掛けテーブルに座っていた南沢のもので。戸隠が見た瞬間に慌てて顔を下げ持っていた編み物を動かし始めた。

戸隠は南沢に見えているか、多分見えているだろうと思って会釈をしてカウンターへと向かった。

「いらっしゃいま……あら、戸隠」

カウンターの奥には萱野がおり、前にいた1人の客と何かを話していたようだった。

「……戸隠?」

萱野の言葉に、その客が反応して振り向き戸隠と視線が合う。

「あ!」

「あらなに、知り合いなの?」

その客とは、まさに戸隠の探していた改造制服の少女その人だった。


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