14話
朝雛が解像度モデルガンを発砲、撃ち出された弾丸は真っ直ぐソフトチョーカーへと向かうが。
「ムダですよぅ」
ソフトチョーカーは手に持ったマフラーを固めて盾にして銃弾を防いでしまった。
そうして前に気を向かせている間に、戸隠はソフトチョーカーの死角へと周り込み、
……さすがに、抜き身じゃマズいよな。
皮の鞘に納めたままのナイフで切りかかった。
「あらあらぁ、危ないですねぇ」
カキン、と軽い音を立ててナイフはソフトチョーカーの首に巻かれたマフラーに阻まれた。
「お返しですよぉ」
ソフトチョーカーは被っていた帽子を取り、戸隠へ向けて振るうと。硬められた帽子は簡単にナイフを持つ手を弾き飛ばした。
「うわっ!?」
「まだまだいきましょうかぁ」
そのまま追撃するため、硬い帽子を戸隠へ振りかぶる。
対する戸隠は、鈍器となった帽子の一撃を受け流して距離を取った。
このような攻防を、数分間続けていた。
お互いに無傷ではあるが、朝雛は数十発の弾丸を使い。戸隠にも疲れが見えてきて。ソフトチョーカーは変わらず顔に笑みを浮かべていた。
「まさか接近戦も利かないなんて」
「……それだけ、硬い」
ソフトチョーカーは、以前対峙したランダムペインと比べるととても動かない分、とても硬かった。そしてその硬さはそのまま凶器となり2人を襲ってくる。
「アレが、病の力……」
「力なんて言わないでくださいよぅ。欲しくて手にしたものじゃないんですからぁ」
へらへらと笑ったような表情で、ソフトチョーカーは帽子を柔らかくして被り直した。
「かといって、今から逃げる訳にもいかないし……」
戸隠は自分の選んだ道がとてつもない茨道だと再確認した。
何か改善策はないか、今の自分に出来ることは何か、どうすればこの状況を打破できるのか、その答えは。
「……実は」
「ん?」
「……方法、無い訳じゃない」
意外にも近くにあった。
朝雛は改造制服の胸ポケットからある物を取り出した。
それは小さな透明のビン。透明で見えたビンの中には人工的な緑色をした錠剤が入っている。
「それは?」
「……知り合いに貰った。特殊な薬」
「うん、薬なのは分かるけど」
「……ソフトチョーカーが、病にかかっているなら、コレが利く筈」
フタを開け、錠剤を一粒手の平に落とすとビンを戸隠へ向ける。
「……使う?」
「体に良さそうな悪そうな色してるけど、一応、一粒だけ」
開いた手の平に一粒落としてビンを閉まい。朝雛は錠剤を含んだ。
「……」
この薬を使う度、朝雛はこれを手にした時のことを思い出す。
知り合い……正確には姉の知り合いが、姉の葬式で自分が復讐に燃えていることを察したらしく。コレを渡された。
薬について長く細かい話をされたがよく覚えておらず、ただ二つだけ。
コレを服用すると、身体能力を少し上昇させ。
病というものを持つ相手に、有効打を与える事ができる。
なぜそんなことが出来るのか、病というものを持つ相手とは誰か、そもそもこの薬は大丈夫なのか?
その質問には一切答えてくれなかった。
「……」
今までこの薬を使った時は身体能力の向上にしか使わなかったが。ソフトチョーカーが病というものを持つ相手ならば、もう一つの効力が使われる。
どんな風になるかなんて全く分からないけれど、今使えるものは、全て使う。
「……」
朝雛は錠剤を飲み込んだ。
瞬間、頭が冴え渡り視野が広がる。体が軽く感じ、実際に素早く動けるようになっている。
改造モデルガンの銃口をソフトチョーカーへと向け、一発。
放たれた弾丸は真っ直ぐと標的に向かい、ソフトチョーカーは今まで同様マフラーの盾で受け止める。
カキン、と軽い音で硬められたマフラーに当たる。そこまで同じ。
今回はそこから異なっていた。
「あらぁ?」
硬く直立していたマフラーが急に曲がり、勢いを残していた弾丸がマフラーをくの字に曲げてソフトチョーカーの方にまで届きそうになる。しかしマフラーを突き抜けることはなく、弾丸は地面に落ちた。
「んー? 病を解いたつもりはないんですけどねぇ?」
硬めていたはずのマフラーがいつの間にか柔らかくなっており、自覚のないソフトチョーカーは首を傾げてマフラーを見つめている。
「……そういう、こと」
改めて、薬の効力を実感した。まさか服用した自分の持つ改造モデルガンが放った弾丸が、病の効果を消しさるとは。
そんな効果を持ったことに驚き、そんな薬を渡した姉の知り合いが何者なのか疑問を持ちつつ今まで以上にこの薬を使って大丈夫なのか若干の不安を抱き。
しかし今は、出来ることをするだけ。
「あぁ、戻りましたぁ」
どうやら効果を消せるのには制限時間があるらしく。ソフトチョーカーは再びマフラーを硬めて立たせていた。
だが、そんなのどうでも良い。
「……さぁ、ここから、反撃開始」
改造モデルガンの銃口をソフトチョーカーに突き付け、引き金を引いた。