表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トウマゲキ  作者: 風紙文
11/17

10話

「この辺りらしいんだけど」

「……」

喫茶店から歩いて十数分程、戸隠と朝雛はとある路地裏を並んで歩いていた。

さほど高くない建物と建物の間に生まれたこの路地裏は、時間帯によっては普通に日が差し込むが、すぐ隣に大通りがあるため人があまり通らない路地となり。

「オレの先輩が昨日、ソフトチョーカーに襲われた通りなんだ」

ソフトチョーカーが、狩り場として使用するようになってしまった場所だった。

「……その人は、無事だったの?」

「うん、昨日病院に送られたけど今日走って会社まで来たから元気だよ」

「……」

それは変わった人だな、と思いつつも朝雛は周りに警戒していた。

もしかしたらここに、ソフトチョーカーが潜んでいるのかもしれない。

もしかしたらどこかで、自分達を狙っているかもしれない。改造モデルガンはすぐに取り出して使えるように構えてある。

その時、

「あ、あのぅ……」

「……!!」

後ろからの声に朝雛は振り向きながらモデルガンを抜いて声の主に突きつけた。

「ひひゃあ!? すすす、すみません!」

「この声……南沢さん?」

ワンテンポ遅れて振り向いた戸隠が見たのは、銃口を向けられて震えながら両手を上げた南沢がいた。

「……知り合い?」

「あの喫茶店の常連客だよ。そういえばキミに会ったのも南沢さんの情報を聞いてからだったっけ」

「そそそ、その……でで、出来ればソレを下ろしていただけると……」

「大丈夫、悪い人じゃないよ」

「……分かりました」

「はふぅ……ビックリしました」

朝雛がモデルガンを下ろすと、南沢は手を下げて一息付いた。

「時に南沢さん、どうしてこちらに?」

「ええっと、わたしのお店が、ここを通ると近道なんです。それで、戸隠さんをお見かけしたので、一応ご挨拶しておこうかと」

「そうだったんですか、ですけど気をつけて下さい。この路地裏、ソフトチョーカーが狩り場にしてるらしいんです」

「え、えぇ!? あああ、あの、ソフトチョーカーがですか!?」

「そうなんです。なのでこうして調査に来たんです」

「その、朝雛さんと一緒に、ですか?」

「……何故、アタシの名前を?」

「そそ、それは……」

名乗ってもいないのにどうしてか、と疑問をぶつける朝雛に南沢は返答に困っているように口ごもった。

ちなみに戸隠は、理由がなんとなく分かっていた。

そして、振り絞るように南沢が答える。

「じじ、実はですね……お二人が喫茶店で話していた時、入り口近くの席に居まして……わわ、悪いとは思っていましたけど、おお、お二人の会話を、聞いてしまいました。すみません……」

「……なるほど。そういうこと」

勝手に盗み聞きされ、怒ってもいいようなものだが、特に表情を顔に出すことはなかった。

「あの時は内容が内容なので声量は抑えてたんですけどね、南沢さん、耳が良いんですね」

「そそ、それほどでもないですけど……お、お二人が先ほど、話していたことも少しだけ聞こえてしまいました。戸隠さんの先輩の方が、通り魔の最中に襲われたとか」

「えぇ……そうなんです」

「ご無事で、何よりでしたね」

「はい」

その後、戸隠と南沢は何回か言葉を交わし、朝雛は隣で黙って見ていた。

「では、わたしはそろそろ仕事に戻りますね」

「はい、頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」

すっかり慣れたのか、出会った頃のように言葉を詰まらせることはもうなくなっていた。

「朝雛さんも、頑張ってくださいね」

「……はい」

「それでは、失礼します」

ぺこりと頭を下げ、南沢は路地裏を歩いて行ってしまった。

戸隠と朝雛はそれからもしばらく路地裏で捜索を続けたが。

「……いない」

「まさか南沢さん以降誰も通らないとは」

通り魔はおろか、通行人一人として見つける事が出来なかった。

戸隠は携帯電話で時間を確認。もうすぐ日が暮れる……通り魔が、活動しやすくなる時間帯がもうすぐだ。

「まだ大丈夫?」

「……もちろん」

そこそこの時間動きっぱなしで疲れていないかと思ったが、朝雛の表情に変化は一切なかった。元々、変化の薄い顔ではあるが。

その時、携帯電話が着信を告げた。ディスプレイに書かれた名前は、

「ミドリさんからだ」

「……?」

一瞬、誰だったかと考えると、先日戸隠に連れられて行った路地裏にいた占い師だと思い出した。

戸隠は着信を取った。

「はい。お疲れ様です……えぇ、はい。今は……え? はい。本当ですか?」

その後も何回かはい、はい、と言うと携帯を閉まった。

その内容を簡潔にまとめ、朝雛に伝えた。

「ソフトチョーカーの情報が入ったって」

「……え?」

「今から聞きに来ないかって言われたんだ。多分、キミのために調べてくれたんだろうね」

「……」

「それで、今キミと一緒にいるって言ったら、連れて来ても良いって言っていたんだけど、どうする?」

「……」

朝雛は地面を見て、空を見上げて、もう一度地面と空を見回して、戸隠を見て。

「……アタシは、残ります」

ここは『ソフトチョーカー』の狩り場とされる場所。昨日の今日ということもあるが、昨日の今日でまた誰かを襲うこともあるかもしれない。

ならば、ここを離れずに見張っていれば……有力な情報は戸隠に聞きに行かせて自分は見張っていれば……出会える可能性がある。

「そっか、じゃあオレはミドリさんの所に行ってくるよ。そして戻ってきて、情報を教えるね」

「……ありがとうございます」

「それじゃあ、気をつけてね」

何せここは、通り魔が現れる可能性のある路地裏だから。

「……はい」

戸隠は朝雛と別れ、一人ミドリさんが居る裏露店へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ