表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Criminal  作者: 花咲薫
8/12

7



 深夜零時。クラークは、アバカロフ公園のブランコに座っていた。

 城下町の隅にある小さな公園。街灯が限りなく少ないので、日が落ちると人の姿を見る事はまずない。周りには廃墟が広がっているし、こういったやり取りをするのには最適な場所だ。

 『犯罪者になんか頼みごとをしたくない』と言ってステラはついてこなかったので、今この公園にいるのはクラーク一人であった。

 一体どういう人物なのか――それに少し怯えながらも、クラークは静かに立ちあがる。


「……」


 何気なく公園を歩いていると、冷たい風が吹いてきた。

 ――そして、その風を感じたと同時に、背後に気配を感じる。クラークは足を止め、後ろへと振り返ろうとしたが、


「振り返らないで」


 冷たい、女性の声だった。

 ぴたりとクラークの体の動きが止まる。

 その声を聞いて、クラークは思わず声をあげそうになった。なぜなら、それはあきらかに女の声であり――という事はつまり、便利屋(ハンディマン)は女性だという事になる。

 性別不明であったのだから、女性だという可能性ももちろんあったのだが、『男』というイメージを持っていたクラークからしてみては、これは驚きの事実であった。


「……あんたが依頼者ね。依頼内容を確認する前に、ちょっと説明するわ。一応、こういう職業柄、何でも出来るように体術とかは身につけてるけど、さすがに無理っていう依頼はやめてね。世界征服だのなんだのっていうのはお断り。ついでに言っておくけど、死んだ人を生き返らせてみたいな感じのも無理。私は神様じゃないんだから」

「……」

「……ま、こんな所かしらね。――あぁ、あともう一つ。私だって人間なんだから、依頼を失敗する事はあるわ。まぁ、そういう時は報酬の半分を貰う事にしておく。言ってる意味分かる? 私が依頼に失敗しても半分は貰うわよって事。そうしないと私は生きていけないからね。ちなみに報酬の値段は私が決めるから。分かった?」


 クラークは小さく頷いた。


「それじゃ――まぁ、依頼内容を聞かせてもらおうかしら」

「……黒いフード。この間、王を殺害した黒いフードの奴らの事について、教えてほしい」

「それだけ?」

「……」

「――分かったわ。もうこっち向いてもいいわよ」


 そう言われた瞬間、クラークは体を後ろへと動かした。

 黒いパーカーに、短いズボン。黒タイツにブーツといった服に身をつつんでる、綺麗な女性であった。外見からは二十歳ぐらいだと見られる。パーカーのフードをかぶっているため、顔や髪型はよく見えない。


「……よろしく」


 クラークは小さな声でそう言うと、右手を差し出した。

 女性は不思議そうな表情をしていたが、渋々左手を差し出し、握手をしようとした瞬間――

 いきなり体を前に反り、後ろから飛んできた蹴りをかわす。懐から取り出したナイフを取り、素早く後ろへと向いて構える。それと同時に、回し蹴りをかました。

 黒い物体が地面をからからと滑って行った。女性は小さくため息をつく。ぱさりとフードがとれ、彼女の綺麗な金髪があらわとなった。


「あなた、誰?」


 一瞬の事で何が何だか分からなかったクラークは、その言葉にはっとし、慌てて女性に近づく。

 女性の目の前で険しい表情を浮かべて立っているのは、よく知ってる顔の人物――ステラであった。


「お前――何でここにいるんだ」


 ステラは顔をあげないまま、何も言わない。

 余計なことを――と、クラークは舌打ちをする。


「あなたの知り合いなの? その割には、拳銃を向けてきたり色々と身勝手な人なのね」

「……」

「……便利屋(ハンディマン)の顔は二度まで、って覚えておいてね。次はないわよ」


 ステラを睨み、女性はそう言うと公園から去って行こうとする。


「――あぁ、言い忘れたわ。明日の朝十時、駅の前で待ってるから。それと、そんなスーツ姿で着ても動きにくいだけだから、適当な服を着てきなさいね。それじゃあ、また明日」

「――ま、待ってくれ。……お前の、名前は?」

「……」


 面倒くさそうに女性は首を傾け、一言こう言った。


「ソニア」


 女性――ソニアはそれだけ言うと公園から出て行ってしまう。

 彼女の後姿を見ながら、「ソニア」とクラークはその名前をつぶやいた。たぶん、それはきっと偽名なのだろう。けれども、その名前はクラークの脳裏にしっかりと焼き付いていた。

 しばらくの沈黙の後、クラークはゆっくりと口を開く。


「……ステラ」


 いつもよりも低い声でクラークがつぶやいた。

 その声を聞いて、ステラの体が少し震える。


「お前が乗り気じゃないのは分かってる。だけどな、俺の邪魔をするのだけはやめろ。乗り気じゃないならこの仕事を降りろ、迷惑だ。……分かったな?」


 ステラが小さく頷いたのを見た後、クラークは白い息を吐き出しながらポケットに手を入れ歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ