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『会議室』と書かれた扉から、クラーク達が出てきた。
扉を閉めると同時に、三人はため息をつく。
「……あの子供の話、お前は信じるか?」
ロイドの問いに、クラークは答えない。代わりに、ステラが口を開いた。
「今は信じるしかないと、思います。……他に、情報はないわけですし」
「あの少女が言うには、その『友達』が黒フードの奴らを雇ったということになるな。……予想はしていたことだが、面倒くさいことになりそうだ」
ため息交じりに、クラークはつぶやいた。
一体、どこからたどって行けばいいのか――
そのクラークの思考を読みとったかのように、ロイドが口を開く。
「黒フードの奴らから、たどっていけ」
クラークの目の前に立ち、命令口調でそう言った。
呆れ顔を浮かべ、「どうやってたどっていけばいいんだよ。何の情報もないんだぞ」と反論を述べる。
「だから、さっきも言っただろ? 『便利屋』を使えって。もちろん、裏に通じてる奴をな」
「裏に通じてる便利屋って――まさか、便利屋を使えって言うんですか!?」
ステラが、ヒステリックな叫び声をあげた。廊下を歩いている人達の視線が、三人へと向く。
裏の世界で、一番と言われるほどの腕を待つ便利屋の事を、表側の人達は便利屋と呼んでいる。
性別も、身長も、容姿も謎。どんな仕事を扱っているのかも分からず、ただその名前だけは有名であった。数十年前から話題になっているが、一体その人物の年齢はいくつなのか。もちろん、それも分からない。
「それを使うのが、一番てっとり早いだろう。上の許しは出てる」
「そんな……! 便利屋が、便利屋を――犯罪者を使うっていうんですか!?」
うるさいな、という表情でロイドはため息をついていた。
クラークは唾をごくりと飲み込み、厳しい表情を浮かべていた。
「……そいつと、連絡をとる手段はあるのか」
「クラーク! まさか、本気で使おうなんて――」
「もちろんある。お前がそれを望むなら、今日の深夜零時に、アバカロフ公園に呼び出しておくが?」
「――クラーク!」
ステラの叫び声が、クラークの頭に突き刺さった。
使うか、使わないか――
長い沈黙の後、クラークはゆっくりと口を開いた。
「……使う。――使おう、そいつを。便利屋を、使う。それしか、選択肢はない」
まるで自分に言い聞かせるかのように、彼はそう言った。
その答えに、ロイドは微笑む。ステラは、信じられないと言った表情を浮かべていた。
「分かった、じゃあさっき言った時刻と場所に、呼んでおく。それと、会議室の中にいる子供はお前に任せた。子供だからと言って、容赦はするなよ? あいつが嘘をついている可能性もあるし、もしかしたら犯人かもしれない。……分かったな?」
クラークはゆっくりと頷く。
ロイドはその動作を見ると、小さな笑みを浮かべたまま、廊下を歩いて行く。
彼の後姿が見えなくなったとたん、ステラがクラークに噛みついてくる。
「あんた、便利屋を使うなんて、本気なの!? なんで、ああやって答えちゃったのよ!」
「……仕方ないだろ」
うんざりとした表情で、クラークは言う。ステラの態度に、半ば呆れている様子だった。
「仕方ないって……! あたし達は、『正義』のために働いているようなものよ!?」
『正義』という言葉を聞いて、クラークは思わず笑ってしまった。
「ステラ、お前は夢を見すぎた。そろそろ現実を見ろ」
「何よ、それ……! 私は本気で――」
「いい加減にしろ!」と叱咤し、クラークは冷たく言い放つ。
「……この会社に、『裏』とつながってる奴らが一人もいないとでも思ってるのか? そんなわけないだろう。俺も、出来る限りそっち側の力は使いたくないが、今回は仕方ない。……それとも、正義とやらを貫いてこの事件を迷宮入りさせるか?」
「っ……」
ステラは悔しそうな表情を浮かべながら口を閉じた。