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「――これは、全て私の責任です」
頭を深く下げながら、クラークは言う。
殺伐とした広い部屋の、大きな椅子に座っている男性はため息をついた。
「……お前のした事がどんなことなのか、分かっているのか?」
自分がしてしまったミスが、どれだけ大きな事か。それは、クラーク自身が一番よく分かっていた。
「王が死んだ――それだけではなく、この会社の信頼もガタ落ちだ!」
王が死んだ事より、会社の信頼が落ちた事の方が重大だ、と言わんばかりの表情と言葉で、その男は言った。
世界は自分中心で回っていると、本気で信じていそうな男の名は、ルシファーと言う。クラークは、その名前が一番お前にぴったりだと、心底そう思った。彼は一応この会社の社長であり、大失態をおかしたクラークは、彼に呼び出された所であった。
「……処罰は、如何様でしょうか」
聞かなくても、そんなのは決まっていた。
「そんなもの、聞かなくても分かるだろう! お前は――」
男の声を遮るかのように、部屋の扉が勢いよく開く。
クラークは思わず後ろへ振り返った。
「そいつの処罰は、私に決めさせてもらいたいのですが」
スーツに身をまとっている金髪の男性が、荒い息で――走ってきたらしい――そう言った。
「――誰だ?」
「私の名はロイド。政府から送り込まれた者です」
『政府』という単語を耳にした途端、男の態度が一変する。
「わ、わざわざ政府のお方が……」
「猫かぶりをした態度を見せなくても結構ですよ。あなた方の失態は、もう取り返しのつかない事ですしね。いつも通りのあなたで、どうぞ?」
にっこりとほほ笑みを浮かべながら、ロイドは言う。ルシファーの表情が少し引きつった気がした。
ロイドを見て、クラークはため息をつきながら、呆れた顔で言う。
「……私への処罰をお聞かせ願えますか?」
「あの事件の犯人を逮捕する事です」
不敵な笑みを浮かべながら、ロイドはそう言った。
「え?」と思わずクラークは声をあげる。戸惑いの表情を浮かべる彼を見て、ロイドはにやにやとほほ笑んだ。
大きな音をたて、ルシファーが立ち上がる。
「お待ちください! その男に、あの事件を任せるというのですか?」
「えぇ、そうです。こいつをクビにしても、この会社の信頼が取り戻せるわけがありません――もちろん、政府からもね。というか、前の信頼を取り戻す事は不可能です。それぐらい、あなたにだって分かるでしょう?」
ロイドの言葉に、「ぐ……」とルシファーは小さくうめき声をあげた。
「た、確かに、それはそうかもしれません。けれど、大失態をおかしたそいつに、事件の究明を任せるなど――そんなことをして、どういうつもりですか! 犯人の目星はついています、そいつに任せなくとも――」
「この事件、目撃者からの情報によると『黒フードに身を包んでいた人達』が犯人だという事ですが、本当にそうなのでしょうか? 彼らがあのビルを襲撃し、そして爆破した……それは事実なのでしょう。けれど、彼らを操っている人物がいるとなれば、話は違ってきます。……もしかしたら、それがあなたの会社に勤めている人の犯行かもしれませんね」
「内部に、犯罪者がいると言いたいのですか」
クラークの言葉に、ロイドは言葉を返さず、話を続けた。
「この男をクビにするのは簡単です。ですが、そんな事をしてもこいつは何も感じないでしょう。何と言っても、大富豪のお坊ちゃんですからね」
「っ! それは、関係な――」
「黙れ。……言われてみれば、そうかもしれませんね。こんな会社を辞めても、お前は親の金で生きていける」
「っ……!」
クラークはルシファーを強く睨み、下唇をかみしめる。
「そうでしょう? けれど、それでは困る。この男には、『処罰』を与えなければいけない。……この男にとって、一分一秒、そして今すぐにも忘れたいもの――それは、王が死んだという事実と、自分が大失態をおこしたというその現実。ですが、それを忘れる事は私達が許しません。ですから、この仕事を与えるのです。……分かりますか? 分かりますよね? では、そういう事でこの話は終わりです。ほら、行きますよ」
ロイドは強引に話を終わらせると、クラークの腕を掴み、部屋を出た。