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「もうすぐ、今年が終わっちゃうねぇ」
白い息と共に、そんな言葉を吐き出した。
街を歩く人達を何気なく見る。カップルが多い。プレゼントをもらっている者もいたし、家族連れで楽しく歩いている者もいた。つまり、今日はそういう日なのだ。
「冬休みの宿題、終わってないんでしょ?」
隣を歩いている自分の友人――フィオナが、いつもと変わらぬ笑顔でそう言った。
「まぁね。来年入ってからやれば、十分間に合うでしょ」
フィオナは笑いながら頷く。
「……あ、そうだ。一緒に勉強会やろうよ、勉強会」
「来年?」
「そう」
「んー……」
苦笑いを浮かべながら、フィオナは首を横に振る。
「どうして?」と私は首を傾げた。
私の問いには答えず、彼女が妙に真剣な表情で口を開く。
「あのね、アデルは私にとって、一番の友達なんだ」
突然、私の名前を出して、彼女はそんな事を言った。
驚愕の表情を浮かべながらも、私は必死に言葉を口にする。
「は!? あんた、いきなり何言ってんの?」
私の叫び声が大きすぎたのか、歩いている人達の視線がこちらに向いた。
「あはは、アデルが恥ずかしがってる」
笑い声をあげながら、フィオナは私をからかう。
それがいつも通りの笑みで、そしていつも通りの彼女で――それが……それが、なぜか怖かった。
「……私、アデルの事だけは、最後まで信じてるから」
「え?」
「でもね、他の人はあんまり信じられない。コーデリアとか、ダリルとか、ディアナとか」
彼女が次々と口にだすその名前は、私達と仲の良い友の名前であった。
「でも、あいつらは私の事をよく知ってるでしょ?」
「あ、当たり前じゃない。友達なんだから……」
「そう。だけど、それは困る」
「何で」
「もし、私が行方不明とかになったら、あいつらはきっと警察とかに通報するでしょ? それ、困るんだよ」
「……フィオナ……あんた、さっきから何言ってるの……?」
自分の一番の親友が、笑顔を崩さず、ただ淡々と言葉を吐き出している機械のように見え、私は声を震わせながら必死に言葉を紡ぐ。
「大丈夫。アデルは、何も心配しなくていい」
あたりを歩いている人が、何かひそひそと私達の方を見て喋りだした。
やばい、と思った。
「ね、ねぇ――場所を変えない? 何か適当な店でも入って……」
「めんどくさいし、いいよ」
「でも……!」
フィオナがよくても、私が嫌だった。周りからの視線が、痛い。
「――やっぱり、アデルはそういう事を言うんだね」
「え?」
フィオナの顔から、表情が消えた。私の背筋が一瞬にして凍りつく。
「私の事を心配してるみたいだけどさ、結局は自分の事しか考えてないでしょ。だから、あの時も私にあんな事をしたんだ」
「ねぇ、さっきからあんたが何を言ってるのか、私にはさっぱり――」
「ほら、もうすぐ始まるよ。楽しいクリスマスパーティがさ」
そう言った彼女の顔は、元の笑顔へと戻っていた。とても、とても不気味な笑み。
時刻は、ちょうど夜の八時だった。
「きゃああああああああああ!!」
クリスマスの夜。
賑やかな城下町に、女の悲鳴が響いた。