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Criminal  作者: 花咲薫
2/12

1

「もうすぐ、今年が終わっちゃうねぇ」


 白い息と共に、そんな言葉を吐き出した。

 街を歩く人達を何気なく見る。カップルが多い。プレゼントをもらっている者もいたし、家族連れで楽しく歩いている者もいた。つまり、今日はそういう日なのだ。


「冬休みの宿題、終わってないんでしょ?」


 隣を歩いている自分の友人――フィオナが、いつもと変わらぬ笑顔でそう言った。


「まぁね。来年入ってからやれば、十分間に合うでしょ」


 フィオナは笑いながら頷く。


「……あ、そうだ。一緒に勉強会やろうよ、勉強会」

「来年?」

「そう」

「んー……」


 苦笑いを浮かべながら、フィオナは首を横に振る。

「どうして?」と私は首を傾げた。

 私の問いには答えず、彼女が妙に真剣な表情で口を開く。


「あのね、アデルは私にとって、一番の友達なんだ」


 突然、私の名前を出して、彼女はそんな事を言った。

 驚愕の表情を浮かべながらも、私は必死に言葉を口にする。


「は!? あんた、いきなり何言ってんの?」


 私の叫び声が大きすぎたのか、歩いている人達の視線がこちらに向いた。


「あはは、アデルが恥ずかしがってる」


 笑い声をあげながら、フィオナは私をからかう。

 それがいつも通りの笑みで、そしていつも通りの彼女で――それが……それが、なぜか怖かった。


「……私、アデルの事だけは、最後まで信じてるから」

「え?」

「でもね、他の人はあんまり信じられない。コーデリアとか、ダリルとか、ディアナとか」


 彼女が次々と口にだすその名前は、私達と仲の良い友の名前であった。


「でも、あいつらは私の事をよく知ってるでしょ?」

「あ、当たり前じゃない。友達なんだから……」

「そう。だけど、それは困る」

「何で」

「もし、私が行方不明とかになったら、あいつらはきっと警察とかに通報するでしょ? それ、困るんだよ」

「……フィオナ……あんた、さっきから何言ってるの……?」


 自分の一番の親友が、笑顔を崩さず、ただ淡々と言葉を吐き出している機械のように見え、私は声を震わせながら必死に言葉を紡ぐ。


「大丈夫。アデルは、何も心配しなくていい」


 あたりを歩いている人が、何かひそひそと私達の方を見て喋りだした。

 やばい、と思った。


「ね、ねぇ――場所を変えない? 何か適当な店でも入って……」

「めんどくさいし、いいよ」

「でも……!」


 フィオナがよくても、私が嫌だった。周りからの視線が、痛い。


「――やっぱり、アデルはそういう事を言うんだね」

「え?」


 フィオナの顔から、表情が消えた。私の背筋が一瞬にして凍りつく。


「私の事を心配してるみたいだけどさ、結局は自分の事しか考えてないでしょ。だから、あの時も私にあんな事をしたんだ」

「ねぇ、さっきからあんたが何を言ってるのか、私にはさっぱり――」

「ほら、もうすぐ始まるよ。楽しいクリスマスパーティがさ」


 そう言った彼女の顔は、元の笑顔へと戻っていた。とても、とても不気味な笑み。

 時刻は、ちょうど夜の八時だった。



「きゃああああああああああ!!」



 クリスマスの夜。

 賑やかな城下町に、女の悲鳴が響いた。

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