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「で、その間にお友達は逃げちゃったって事?」
アデルの話が終わった途端、無表情でソニアはそう言った。
「……」
「……まぁ、大体は分かったわ、ありがとう」
少しも感謝の意をこめてないような声色と表情だった。
沈黙が続く。クラークは外を見ているソニアの顔を、ふと見つめた。
「……」
綺麗な女性だと、単純にそう思った。街中を歩いていても、何の違和感も持たないであろう女性。これが、あの便利屋だと言うのだ。
ふと、ソニアがこちらを向く。目が合ってしまった。
「……何でさっきから、私の方を見てるの?」
視線に気づいていたらしい。慌ててクラークは、
「あ、いや――情報屋とやらに聞けば、黒いフードの奴らの正体が本当にあばけるのかどうか、その……」
「私を信用してないわけね」
「そういうわけじゃ――」
「別に、どう思ってもらってもいいわよ。あんたは私の依頼者で、お金をくれるんだから、私にはそれで十分」
「……」
ため息をついて、ソニアは面倒くさそうに言う。
「前にも言ったように、あんたが依頼した事を完璧にこなせるかっていったら、それに保証はないわ。もちろん、全力は尽くすけれどね」
――と、突然ステラが立ちあがった。全員の視線が向く。
「外の空気をすってくるわ」
低い声でそう言うと、個室から出て行こうとする。
出て行く直前に、ソニアが微笑しながら「犯罪者と同じ空気は吸いたくないかしら?」と言った。が、ステラは振り返りもせず、そのまま個室を出て行く。その後ろ姿を見て、クラークは小さくため息をつくと、彼もまた個室から出て行った。
「……」
二人きりになった部屋で、ソニアは思わずため息をつく。ちらりとアデルを見ると、彼女はどこか遠い目をして、外の風景を見つめていた。
*
展望デッキへと出ると、冷たい風が頬をなでてきた。あたりを見回すが、他に客はいない。
デッキの手すりに手をかけ、ぼーっと外を眺めているステラを見て、クラークは再びため息をついた。彼女の横に近づき、話しかける。
「……お前、そんなにあいつが嫌か」
「……」
無言だった。クラークはそれを肯定とみなし、
「お前の正義感が強い事も、犯罪者を嫌ってる事も、俺は全部知ってる。知ってるつもりだ。……だけどな、これは仕事だ。もし、あいつと一緒にいたくないなら――あいつと同じ空気を吸いたくないなら、今すぐこの列車から降りて帰れ。迷惑だ」
その言葉に、手すりを握っていたステラの手に、ぎゅっと力が入る。
少しきつい言い方をしてしまったか、と心配をしたが、ステラの我儘に構っている暇はない。今は一刻も早く、犯人を見つけなければいけないのだから。
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……嫌な予感がするの」
「は?」
意味深なその言葉に、クラークはそんな声をあげた。
「あのソニアって女の事よ」
「……嫌な予感って――あいつがどうしたっていうんだ? 何かしたのか?」
「何か、嫌な感じがするのよ。あの女、絶対に私達を裏切るわ」
殺気のこもっている目で風景を見ながら、ステラはそう断言をした。
「……根拠は?」
「ない。――だけど、ねぇ、信じて。あの女と一緒にいちゃいけない」
ステラの漆黒の瞳が、クラークをとらえた。その目をそらす事は出来ない。
「……今、あいつを失ったら、俺達は手がかりをなくす」
「あの女の子が――アデルちゃんがいるじゃない」
間を開けず、ステラは反論をする。
「あれはあてにならない。記憶も曖昧だし、もしかしたら嘘をついているかもしれない」
彼女は嘘をついていない。それをほぼ確信していたのにも関わらず、口から勝手に言葉がこぼれだす。
「あんな小さい子が? そんなことをしてどうするの」
「あくまでも可能性の話だ。とにかく、今はソニアの言うとおりにアドロフに行って、情報屋に頼るしかないだろう。黒いフードの正体をつきとめたら、あいつとの関係を絶てばいい」
「……」
反論出来ないステラを見て、クラークはふっと頬を緩める。
「心配してくれてありがとな。お前の事は信用してるし、その勘もあてにしてる。でも、今はまだ情報が少なすぎる。……分かってくれ」
「……」
ステラは顔を俯かせながら、小さく頷いた。
「……ありがとな」
クラークがそう言うと、ステラは照れくさそうにそっぽを向いた。




