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Criminal  作者: 花咲薫
11/12

10



「で、その間にお友達は逃げちゃったって事?」


 アデルの話が終わった途端、無表情でソニアはそう言った。


「……」

「……まぁ、大体は分かったわ、ありがとう」


 少しも感謝の意をこめてないような声色と表情だった。

 沈黙が続く。クラークは外を見ているソニアの顔を、ふと見つめた。


「……」


 綺麗な女性だと、単純にそう思った。街中を歩いていても、何の違和感も持たないであろう女性。これが、あの便利屋(ハンディマン)だと言うのだ。

 ふと、ソニアがこちらを向く。目が合ってしまった。


「……何でさっきから、私の方を見てるの?」


 視線に気づいていたらしい。慌ててクラークは、


「あ、いや――情報屋とやらに聞けば、黒いフードの奴らの正体が本当にあばけるのかどうか、その……」

「私を信用してないわけね」

「そういうわけじゃ――」

「別に、どう思ってもらってもいいわよ。あんたは私の依頼者で、お金をくれるんだから、私にはそれで十分」

「……」

 

 ため息をついて、ソニアは面倒くさそうに言う。


「前にも言ったように、あんたが依頼した事を完璧にこなせるかっていったら、それに保証はないわ。もちろん、全力は尽くすけれどね」


 ――と、突然ステラが立ちあがった。全員の視線が向く。


「外の空気をすってくるわ」


 低い声でそう言うと、個室から出て行こうとする。

 出て行く直前に、ソニアが微笑しながら「犯罪者と同じ空気は吸いたくないかしら?」と言った。が、ステラは振り返りもせず、そのまま個室を出て行く。その後ろ姿を見て、クラークは小さくため息をつくと、彼もまた個室から出て行った。


「……」


 二人きりになった部屋で、ソニアは思わずため息をつく。ちらりとアデルを見ると、彼女はどこか遠い目をして、外の風景を見つめていた。





 展望デッキへと出ると、冷たい風が頬をなでてきた。あたりを見回すが、他に客はいない。

 デッキの手すりに手をかけ、ぼーっと外を眺めているステラを見て、クラークは再びため息をついた。彼女の横に近づき、話しかける。


「……お前、そんなにあいつが嫌か」

「……」


 無言だった。クラークはそれを肯定とみなし、


「お前の正義感が強い事も、犯罪者を嫌ってる事も、俺は全部知ってる。知ってるつもりだ。……だけどな、これは仕事だ。もし、あいつと一緒にいたくないなら――あいつと同じ空気を吸いたくないなら、今すぐこの列車から降りて帰れ。迷惑だ」


 その言葉に、手すりを握っていたステラの手に、ぎゅっと力が入る。

 少しきつい言い方をしてしまったか、と心配をしたが、ステラの我儘に構っている暇はない。今は一刻も早く、犯人を見つけなければいけないのだから。

 しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。


「……嫌な予感がするの」

「は?」


 意味深なその言葉に、クラークはそんな声をあげた。


「あのソニアって女の事よ」

「……嫌な予感って――あいつがどうしたっていうんだ? 何かしたのか?」

「何か、嫌な感じがするのよ。あの女、絶対に私達を裏切るわ」


 殺気のこもっている目で風景を見ながら、ステラはそう断言をした。


「……根拠は?」

「ない。――だけど、ねぇ、信じて。あの女と一緒にいちゃいけない」


 ステラの漆黒の瞳が、クラークをとらえた。その目をそらす事は出来ない。


「……今、あいつを失ったら、俺達は手がかりをなくす」

「あの女の子が――アデルちゃんがいるじゃない」


 間を開けず、ステラは反論をする。


「あれはあてにならない。記憶も曖昧だし、もしかしたら嘘をついているかもしれない」


 彼女は嘘をついていない。それをほぼ確信していたのにも関わらず、口から勝手に言葉がこぼれだす。


「あんな小さい子が? そんなことをしてどうするの」

「あくまでも可能性の話だ。とにかく、今はソニアの言うとおりにアドロフに行って、情報屋に頼るしかないだろう。黒いフードの正体をつきとめたら、あいつとの関係を絶てばいい」

「……」


 反論出来ないステラを見て、クラークはふっと頬を緩める。


「心配してくれてありがとな。お前の事は信用してるし、その勘もあてにしてる。でも、今はまだ情報が少なすぎる。……分かってくれ」

「……」


 ステラは顔を俯かせながら、小さく頷いた。


「……ありがとな」


 クラークがそう言うと、ステラは照れくさそうにそっぽを向いた。

 

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