9
――時刻は、ちょうど夜の八時だった。
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
クリスマスの夜。
賑やかな城下町に、女の断末魔が響いた。
一瞬の静寂の後、ざわざわと周りの人達が騒ぎだした。
「……何、今の」
そうつぶやいた声は震えていた。その場の現状が理解できていなかったのか、あせっていたのかは分からないが、私の顔には苦笑が浮かんでいた。
「女の人の断末魔だよ。たぶん、あっちから聞こえてきたんだろうね」
たんたんとした言葉で、フィオナは言う。
彼女の白い指先が、すっとある場所を指差した。そこには、大きなホテル。
――確か、あそこは毎年偉い人達がパーティをやっている場所じゃ……!
「入口の警備員が血を流して倒れている所を誰かが発見しちゃったんじゃない? まぁ、推測でしかないけどさ」
「何それ……。何なのよ、それ――ねぇ、あんた、何言ってんの!?」
思わず大きな声で叫んでしまう。周りからの視線がすごく痛い。
私がどれだけ叫んでも、フィオナは無表情だった。冷たい声で、言葉を続ける。
「落ち着いてよ、アデル。そんなにあせる事ないって」
「落ち着けるわけないでしょ! あんた、さっきから意味分かんない事言ってるし――」
「説明してほしい?」
笑みを浮かべ、フィオナは言う。
その不気味な笑みに、私は思わず背筋を凍らせた。「説明しろ」と言うことができず、彼女から一歩遠のいた。
「ごめん、アデル。遊んでる途中だけどさ、私、他に行かなきゃいけない所あるから」
「は、はぁ?」
「今から起こる事件――それ、実行するのも、計画したのも、全部、私だから」
実行するのも、計画したのも、全部、私だから。
その言葉の意味を、その時はまだ理解することができなかった。ただ、自分の親友が、どこか遠くへ行ってしまうような、そんな危機感を覚えた。
フィオナが、いつものやわらかい笑みを浮かべる。
「大丈夫、また会える。だから、ばいばい」
その笑みにほっとしたのもつかの間、そう言うとどこかへ走り去って行こうとする。
「ま――待って!」
走り出したフィオナの腕を掴もうと、私は手を伸ばす――が、
どかん、という音が響き、私は思わず手を引っ込めてしまう。
音の正体を確かめようと、私は上を見上げた。その時の自分は、やけに冷静だったように思える。
そして――
燃えているビルの最上階。それが、私の目に映る。
「……」
何が、起こったのか。
私には、よく分からなかった。
でも、それでも、大変なことがおこっているということだけは、理解できた。
――その実行犯が、親友だということも。




