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黒板に三角形が書かれ、横に三本の線が加えられていく。一番上が特別特待生、その下に特待生、一番下が一般学生。
「この学校は完全成績主義だ。お前たちには座学は基本的にほとんどやらせない。クラス編成も体力や技術の向上をメインに授業。そして、強ければ強いほど学校の待遇も良くなってい
る。まず、お前らの中で最も強いものが特別特待生。これは一人だけしかなれない。勿論、学校の待遇も違ってくる」
具体的には、学費の全額免除や生活費の支給。どちらも、一学生には手に余る相当な額らしい。寮室はホテルのスイートルームのような部屋が用意されているそうだ。特別特待生となれば、それだけ、学校としても国としても手放したくない存在なのだ。
お前たちにはこれになれるように励め。そのために強くなるのもひとつの手だ――とガダン先生が告げる。
「次に特待生。これは三人だ。こいつらには学費免除、特別特待生とまではいかないが生活費も支給される。寮の部屋も一人部屋だ。それ以外は一般学生。学費も払ってもらうし、生活費も支給されない。部屋は二人部屋だが、特別特待生や特待生より小さい。まずは、特別特待生とは言わずとも特待生を目指すのが妥当だろう。そして、クラス分けは上から順に決まっていく。ここは一番上のクラス。つまり、目標がとても明確で分かりやすいクラス、というわけだ」
特別特待生と特待生。その言葉を聞いた何人かの視線が動いた。探るような目が教室を駆け巡る。一般生が自分たちの目標、あるいは標的を探しているのだろう。
「キョロキョロするな!」
ダガンの声に、浮いていた視線が止まる。全員が前を向き、ガダンの方を向く。
「心配しなくても、今から名前を読み上げる。その順番が順位だ。名前を呼ばれた者は寮の鍵を渡す。まず、序列一位、セール・ハルト」
名前を呼ばれた生徒が席を立つ。立ったのは、一番最後に入ってきたあの生徒――血まみれの生徒である。彼が特別特待生。つまり、この学校の一年の中で最強だということだ。人は見た目で判断できないとはよく聞くが、あの異常性はどう判断すべきかわからない。
ガダンはセールの服を見ても何も言わなかった。まるでそれが何もおかしなことろがないように、当たり前のように平然としている。セールは持っていた剣を腰から下げた左右の林檎色の鞘に仕舞い、深紅の手で鍵を受け取った。
全てを赤く染めた彼が一位。俺もいずれあのように全てを紅く染まる時があるのだろうか。あるとすれば、それは遠くない時だろう。
「次、序列二位。スタン・R・サケイ」
立ったのは、前の席の生徒だった。胸の辺りまである薔薇色の髪がさらりと揺れる。後ろ姿だけなら女性にも男性にも見えるが、微かに見えたその横顔は少なくとも肌色をしていなかった。黒というか焦げ茶色に見えたが、長い髪が影になったせいだろうか。まぁ、制服がズボンだから男に間違いはないのだが。身長は百六十五ぐらいで少し小さめだ。両手に皮の手袋を嵌めて、右肩から提げた細長い赤褐色のカバーは彼の得物が入っているに違いない。恐らく中距離型の間合いの広い武器、槍や彼女と同じ棍棒だ。ならあの手袋は滑り止めか。自分の短い間合いをカバーするためか。
スタンは鍵を受け取ると、自分の席に戻るためにこちらに向き直った。その顔を見た数人が息をのんだ。俺もその例外ではない。
顔の三分の一が……ない。顔の中心から左の鼻筋を横切って、そのまま直線的に伸びている境目。三分の一が黒く黒く、変色している。爛れているわけではない。なのに、眉毛が、目が、まつ毛が、瞼が、ないのだ。
火傷? だが、あんな綺麗に境界が出来るはずがない。もしかしたら生まれつきか? 気になるが、波風の立たない生活のためだ。聞かない方がいいだろう。
「次、序列三位、六戸芽室」
鍵を取りに行ったのは例の彼女だった。三位という順位に不満があるのか、八つ当たりに鍵を引っ手繰る。それをガダンはセールとスタンを誰にでもわかるように睨んで席に着いた。
そして、次に呼ばれたのは、
「序列四位、土田・D・雄大」
俺だ。順位は、合格発表の際に予め聞かされていたので、大した驚きもない。ただ、この順位は些か面倒な立ち位置だ。下から狙われやすい。特待生でなければ、学費を払わなければいけなくなる。そうなれば俺はこの学校にいれなくなってしまう。