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あまりにも直球な一言が血だらけの少年に飛ぶ。
クラスの雰囲気は憤怒と困惑に包まれていた。血まみれの少年も反応に困ってるようで、何も言えずにいる。
彼女は鼻を押さえ、臭いと手を横に振っている。血なまぐさいのは嘘ではないが、そんなこと、初対面の相手に面と向かって言うことじゃないし、あんな格好で現れた人に、出て行けなどと言える精神を持ち合わせている人間はそうそういない。
血だらけの少年は戸惑いながら口を開いた。
「けど、授業も始まりますし」
「あなたのその臭いで、クラスが授業に集中できません。世の中は少数より多数が優先されることを学ぶいい機会です。教室から出ていってください。むしろ、今すぐ出て行け。帰ってくんな」
彼女の怒涛の口撃に、少年は返す言葉が見つからなかった。少年も何かを言い返そうとしているが、金魚のように口をぱくぱくさせることしかできない。
「なんですか、口をぱくぱくさせて気持ち悪い。言いたいこともいないんですか」
彼女の表情がますます険しくなる。動かない少年に苛立ちを感じてる。彼女は苛々した顔を解き、呆れたようにため息を吐く。
「自分で行動ができない、自分の意見も言えない。仲間を頼って、いかにも作戦で足を引っ張る役立たず。あなたみたいな人がいると、邪魔なんです。私たちは一匹でも多くドラゴンを狩らなくてはいけないんです。そのためには足でまといはいりません」
その言葉に少年が反応する。役立たず。邪魔。足でまとい。どの言葉が、間にさわったのかはわからない――もしかしたら全部かもしれない――が、少年は笑顔で包む空気を変えたのを感じ取ったのは確かだ。その変化を感じ取ったのはクラスメイトも気づいているはずだ。関わるべきではない、全員がそう感じている。それでも飛び込む者が一人。
「笑っていないで早く出ていってください」
彼女は机を叩いて、ドアを指差す。睨みつける視線と無言の威圧。だが、少年は笑顔のまま彼女の腕をつかんだ。
「駄目だよ、人から好きなものを取っちゃいけないって習わなかったのかな?」
少年は彼女の腕をつかんだまま、立ち上がる。少年の好きなもの。今の会話のなかに、そんなものが含まれていたとは到底思えない。少年は笑顔を絶やさないまま、彼女の目を見つめ返している。
なんだが、一触即発起きそうな気がする。だが、いい意味でそんな空気をぶち壊すように教室のドアが開いた。
入ってきたのは、講堂であの挨拶をしたガタイのいい大男。講堂の時は礼服をまとっていたが、訓練用の迷彩色のつなぎを着込んでいる。
「お前たち、何を騒いでいるんだ。早く席に着け」
教室に入ってきた大男の登場に、少年は彼女の手を離し、彼女は少年を睨みつけて、「授業が終われば校舎裏に来てください」と果し状を告げてから席に戻っていった。
俺達の担任は怪訝そうに二人を見比べてから、教壇に立った。
「今日からお前らの担任になることになった、オーグ・ガダンだ。お前たちにクラスの編成について説明しておく」