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ドラゴン・ファイト  作者:
第一章
4/11

3

 講堂にぞろぞろと生徒たちが戻っていく。俺はその中からあの教師たちを見つけ出した。彼女が戦っていた時に見つめていた二人の教師だ。二人も何事もなかったかのように講堂に足を向けている。結局、あの二人は一体何がしたかったのだろうか。止めるわけでもなく、注意するわけでもない。

「おい、なにやってるんだよ? 置いてくぞ」

 太田に肩を叩かれ、自分の足が止まっていたことに気付く。俺は一言謝ってから何事もなかったように歩き出す。聞ける機会があれば聞けばいい。講堂には最初よりも多くの生徒が席についていた。開会式まで後五分。外から戻ってきている生徒も合わされば大体の生徒が揃うだろう。

 俺は太田と別れ、自分の席に戻る。俺の右側の席には男子生徒。左には……。

「私の顔をそんなに見つめて気持ち悪いんでやめていただけますか?」

 俺の左に座った――ついさっきまで黒スーツの二人と争っていた――彼女は、横目で睨むように見つめてきながら言ってくる。

 初対面の相手にでもこうなのか。一体どういう育て方をしたらこんな性格になるのだ。内心、親の顔を見てみたいと思いながら、前に向き直る。話し掛けて、わざわざ嫌な思いをしなくてもいいだろう。

 学園のチャイムが鳴り、講堂のドアが閉められる。そして、全体的に太い男性が聖檀の前に立った。詰襟の礼服がパンパンになっている。礼服のサイズが小さいわけではないようだ。


袖の先から出ている角張った拳からして、体つきは筋肉隆々で服の上からでもそれがわかる。服がそれに沿って筋肉に張り付いている。丸太のような太さをした腕や足。強もての顔には、火傷や引掻き傷が色濃く残っている。幾多の戦場を切り抜けてきたような顔だ。聖檀に立った男性はマイクを手に取った。そして大きく息を吸う。

「新入生全員、起立!!」

 講堂を揺るがすほどの声に、本能的にかその場の新入生が一斉に立ち上がる。その顔は一部を除いて一様にキョトンと、何が起こったかわかっていない顔をしている。男性は周りを見回してから、マイクに言葉を紡ぎ始める。

「新入生の諸君、まずは入学おめでとう。これから日々精進し、国に貢献できる人間になってほしい。と、形式めいた話はここまでだ。ここからは戦闘教員としての言葉だ。戦闘学部の新入生たちよ。死なない覚悟はあるか!? いいか、決して死ぬな!! 死ぬときは一体でも多くの敵を殲滅しろ。どうしても勝てない時は道連れになってでも殺せ!! 無駄死にはするな!! 自分が役に立たないと分かったやつは即刻ここから出て行け! こちらが役に立たないと感じた奴も否応なしに追い出す! 足でまといはいらない!! やる気のない奴は今からここを去れ!! これで挨拶を終える。新入生、着席!!」

 そして、新入生が統率のとれた動きで着席する。怒声のような声を張り上げた野太い声の迫力に肌がピリピリする。周りが生徒たちの声にざわつき始め、お互いの顔を見合わせる。

 予想外の挨拶である。まさか、入学式にこんなことを言われるとは。

 だが、それだけの覚悟が必要ということなのだ。生半可な覚悟ではすぐに死んでしまう、つまり犬死だ。足でまといは死ぬどころか仲間すら道連れにする可能性がある。仲間とは言ってはみたが、それはおかしいかもしれない。危機を感じれば簡単に見捨てることの出来る相手を仲間と呼ぶべきなのか。俺にとって、それは利用すべき道具でしかないのだから。

 それからは、どことも変わらない伝統的で退屈な進行でクラスごとに退席し、指定された教室に移動する。


 俺が教室に入ったとき、生徒は俺を除いて六人いた。その中には、あの毒舌の彼女と太田の姿も見られた。あの二人と同じクラスなのか。それだけで少し、いやかなり気が滅入る。窓際の席の彼女はこちらを一瞥した後、溜息を吐いて外に目を向けた。廊下側で先頭の席を陣取った太田は、嬉しそうにこちらに手を振っている。ほかの生徒は見た目は至って普通だが、中身は分からないのが不安である。今後の友好関係に支障が出ないことをただただ望むばかりだ。毒舌二人を相手にするのは流石にキツい。

 俺は等間隔で二列に並んだ廊下側の一番後ろの席を取る。周りを見渡せて、動きが観察できる。人間観察には最適の場所だろう。男子五人、女子二人の計七人が最後の一人を待っていた。壁に掛かった時計の秒針が刻む音が聞こえる。

 それにしても……遅い。遅すぎる。俺が来てから既に十五分は経っている。入学式が終わってから二十分。どう考えても講堂からは出ているだろう。講堂からここ――校舎の一番端の教室――の道も一直線なので迷いようがない。もしかして入学式に出ていなかったのか、それともあの一喝が原因か。あれで去るものがいるとは正直思えない。今の現状を考えればこの学園に入学することが分からないほど子供ではないだろう。となれば、とてつもない方向音痴か、今朝の様なことがまた起こっているのか。

 そんな矢先、教室のドアが開いた。

 入ってきたのは、最後の生徒のはずである。確信が持てないのは、その生徒の身なりが原因だ。

 全身に飛び散った赤い血が真新しい制服を染め上げ、顔にも血が付いてる。制服は破れていたり目立った外傷がないので返り血だと分かるが、これは流石に引く。窓際の彼女以外の生徒が注目し、唖然。最後の生徒は、両手に一本ずつ剣を持ったまま赤く染まった顔を笑顔にしながら席に着いた。

 誰も何も言えない。というよりも何をいえばいいかわからないのだろう。それが普通の反応である。だが、彼女は違った。窓際の彼女はすっと立ち上がり、眉間にしわを寄せた顔で血塗れの生徒の前に立った。

「あなた、血なまぐさいんで出ていってもらえませんか?」

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