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俺は仕方なくその手を握り返す。ごつごつした手を握ると少し汗ばんでいる。顔には出さないが顔といい、手といい気持ち悪い。これからもこんな奴と関わらなければならないとなると、気が滅入る。人間関係に悩まされそうだ。
気持ち良いぐらいに響いた金属音に、八となって前に視線を戻す。太田などそっちのけだ。
警棒が空を切る。黒スーツたちはまだ彼女をとらえられていない。彼女は必至な彼らを嘲笑うかのように。いや、明らかに嘲笑っている。口角を吊り上げて、蔑んだ目を黒スーツたちと、二人の主人に向けられていた。二人の主人は倒すどころか、一撃すら与えられないことに、見るからに苛立っている。
それにしても、彼女の棒術は目を瞠るものがある。大の男二人をいなし、絶対間合いを取らせない。彼女は攻撃できそうな時でも攻撃しようとせず、相手との格差を見せつける。
「それにしてもあれ、いつ終わるんだろうなぁ? 入学式まで後十分しかないぜ」
太田の声が聞こえたのか、彼女の動きが変わった。彼女は今までいなし続けていた黒スーツたちを攻撃の態勢に入る。黒スーツたちもその変化に気付いたのか、一旦間合いから離れる。正しい判断だ。と思った瞬間、彼女はその考えを覆した。
彼女は自ら左の黒スーツとの距離を跳んで詰め、頭から棒を振り下ろす。面食らった黒スーツは慌てて警棒を頭に構える。彼女は振り切る前に棒を手元に戻す。
地面にしゃがむように着地した彼女は、警棒が来る前に足払いで黒スーツを転ばせる。太田は後ろで、なんだよスパッツ穿いてんのかよ、と一人愚痴ている。立ち上がろうとする彼女の背後にもう一人の黒スーツが迫る。彼女は振り返ることなく、棒を背後に刺すように下げる。それは黒スーツの腹を的確に捉えた。黒スーツは警棒を持っていない手で腹を押さえ、それでもなお彼女に警棒を振り下ろそうとする。転ばされた黒スーツも体勢をしかし、背後の黒スーツの一動作は遅れたことにより、勝敗は決する。
気付けば、二人の黒スーツは地面に倒れていた。意識はない。横顔に迫る棒に気付かず、真面に食らった黒スーツたちは地面を転がり、負けた。
「おいおい、いくらなんだって大の男二人をああも吹っ飛ばせる力って……」
太田が驚きの声を呟く。だが、俺たちにはもっと力が必要だ。それ以上の相手と俺たちは今後戦うことになるのだから。
彼女は棒をいくつにも折り畳み、背中から制服の中に入れた。恐らく背中に収納器具をつけているのだろう。彼女は髪を振り、手櫛で乱れを直す。彼女は周囲の視線を一身に集めながら、歩き出す。その先は講堂。俺も戻ろう。俺は太田を連れて講堂に戻る。