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「今日はお前達にドラゴンとの殺し合いをしてもらう」
そう言って俺達は何かを聞く暇もなく、教室から追い出された。そして言われるがまま、機関車に乗せられて行き着いたのは、学園がある街からそれほど遠くない草木の生えていない山の麓だった。機関車から降りた俺たちは駅を出る。駅名には、エーデルと書かれていた。女性のような名前とは裏腹に、エーデルは暴力的な男性のように荒んでいた。
機関車に乗っている中で俺たちはガダンから、エーデルについての説明を受けた。
この町は十数年前まで鉱山の麓にある炭鉱の町として栄えていた。だが鉱山の埋蔵量が減少してきたことで、人々が町を離れていった。そこに追い打ちをかけたのが、ドラゴンの存在である。人が手を付けなくなったところからドラゴンが侵略を始めたのだ。人がいなくなったところにドラゴンが住みついただけなので、侵略という言葉は間違っていると思ったが、そういう風に説明されたのだ。俺が意見を口に出さないほうがいいだろう。
「侵略じゃなくて、人が居なくなったから住み着いただけでしょう。そこに住んでいた人は随分と都合の良い考え方をしてますね」
と言ったのは六戸であり、決して俺ではない。その発言にガダンは顔をしかめたが、無視した。何も言わない方が良いと思ったのだろう。ガダンは説明を続ける。
「町の方からドラゴンの被害が酷くなってきているので討伐して欲しい、ということだ。本来ならお前たちより上の学年が担当するべきことなんだが、今回はお前たちがドラゴンとどれだけ戦えるか確かめるために代わってもらった」
俺たちの実力か。ある程度は把握しているのだろうが、それはやはり対人においての実力。対ドラゴンにおいての実力とは違うのだろう。この中でドラゴンと戦ったことのあるのは、セールぐらいしか知らない。他にも経験者がいるかもしれないが、それも今回分かるだろう。
「お前たちが今から討伐しに行くのは小型のドラゴン、ダックスだ。小型だから大体は一メートルだが、大きいものでは体長が二メートルを超えることもある。もしかしたら、そういうやつが現れるかもしれないから気を付けろ」
ダックス、それは俺でも聞いたことのある、世間で最も有名なドラゴンの種の一つだ。大型とは違い、骨格は鳥に近い。身が少なく、多くが骨と皮膚で構成されている。灰色の鱗で背面を覆っているが、前面は肌が露出している。翼には鉤爪が付いていて、鋭く尖った嘴が武器である。
一体を相手取るなら、一般人――例えば農民の大人数人が農具でかかれば倒せないこともない。しかし、厄介なのは、ドラゴンでは珍しく群れの習性があることである。ダックスは必ず一体では行動をせず、どんな時でも群れで行動する。そのために、一対多が基本のドラゴンと人の戦いにおいて、珍しく多対多で戦わなければならないのだ。そういった意味では、戦闘中の仲間へのサポートなどの面を見る上ではうってつけの相手である。そのことを知っていて、ガダンはわざわざ代わってもらってまで俺たちを連れ出したのだろう。
列車から降りた俺たちは真っ直ぐに鉱山に向かう。町中を通ったが、住人とはすれ違わなかった。家に避難しておくよう言われているのだろうか。まぁ、俺にはそんなこと気にしている余裕はない。
「ここから先が、ダックスの生息地になっている。分かっていると思うがダックスに一人で挑むのは危険だ。だから、お前たちには今から二人一組になって、戦ってもらう。と言っても戦うのは一人だけだ。もう一人は背後からの奇襲に備えてのサポート役だ。一人が一体を殺す度に立場を交代するんだ。分かったな」
山道を歩きながら、俺たちは今回の戦いのルールを教えられた。二人一組か……これは相手が誰になるかによって、戦い方を工夫しないといけないかもしれない。こちらに合わせてくれる相手ならいいが、六戸やセールなんかと当たってみろ。今のあいつらと連携をとって行動できるとは到底思えない。
「ペアは序列の一位と八位、二位と七位というふうに実力が出来るだけ平均的になるように振り分ける」
ということは、俺は必然的に序列五位のやつと組むことになるのか。確か、序列五位はメテオ・ティーズ。攻撃的な髪型をしたヌンチャク使いだ。あまり俺が好きじゃないタイプの人間だ。だが、人間を見た目で判断してはいけない。もしかしたら、とてつもなくいい奴なのかもしれない。まぁそんなはずはないだろうが。
「チッス、よろしく」
ティーズが髪をいじりながら挨拶をしてきた。俺も会釈を返す。一体何の用なんだろうか。
「正直言って今回のダックス狩り、俺一人で十分だから。あんたは見てるだけで良いっすよ。あんたは俺より序列がたけーけど、そんなもん俺は信じてないんで~。今回のダックス狩りで俺があんたより強いとこを見せつけてやるよ!」
と、自分の主張だけをしていったティーズは足早に俺の側を離れて、前を歩いていった。言いたいことだけ言って去っていったな、あいつ。
やはり、俺の好きじゃないタイプの人間だった。自信家で自己中心的。良いだろう。俺より強いところを見せてくれるらしいから、存分に披露してもらおうじゃないか。
「ここらあたりがダックスの生息地だ。いつ現れるか分からないから、警戒を怠るなよ」
俺たちはガダンの指示に従い、周りに注意を向けながら、その先に進む。どこでダックスが目を光らせているか分からない。そんな状況だった。
不意に、カラスの鳴き声に濁点を付けたような声が俺たちの耳に届いた。しかも、遠くからではない。その声に応じるように、似た声が周囲に響き渡る。
そして、俺たちを取り囲むようにそいつらは現れた。
嘴から涎をまき散らし、血走った目がこちらを見つめている。ダックスだ。
「全員、戦闘態勢に入れ!」