プロローグ
暗闇の中、子供の頃の俺の前を両親が歩いている。俺は二人の間に入ろうとするがどれだけ頑張っても追いつかない。それどころか、二人との距離が徐々に離されていく。子供の頃の俺は泣きべそを掻きながら必死に走る。しかし、健闘むなしく二人は暗闇の中に消えていく。そして突然周りが業火に包まれ、二人の悲鳴が聞こえる。声すら出ない子供の頃の俺が最後に見たのは、業火の陰から覗く黄金色に輝く大きな瞳。目を覚ますのはいつもそこだった。あの黄金色の瞳、今でも忘れない忌々しい瞳。それと目を合わせた瞬間に夢から醒める。あの後どうなったか、覚えていない。
俺はベットから出て一階に降りる。一階には誰にもいない。一人には少々広すぎる台所でトーストを焼き始める。きれいに整頓された家で食事をするのも今日が最後だ。今日、俺はこの家を出ていく。恐らくこの家に、この村に、もう帰ってくることはないだろう。焼きあがったトーストにバターを塗る。これからは通う学校の寮に住むことになる。不安はない。あの目的を果たすまで、俺は死なない。トーストを食べ終えて二階に戻る。部屋で真新しい服に袖を通す。あの学園は俺にとってうってつけだった。あの目的のためなら、どんなものでも利用してやる。
着替えを終えた俺は荷物を担ぎ、ベルトに鞘を取り付けて家を出る。そして家の横にある墓地に立ち寄った。二つの寄り添うように佇む形だけの墓石。名前は彫られていない。俺は静かに合唱して、故郷を後にした。そして村に住む者は誰一人いなくなった。