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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

どんな状況もひっくり返す素敵な石ころ

作者: 十八 十二
掲載日:2026/03/14

 彼女はもっとも可愛いと評判の少女だった。彼女には歳の離れた2人の姉がいた。2人もすこぶる美人であったが、可愛さで言えば彼女に軍配が上がった。

 ある日の夜。寝ていると、窓の外から強烈な光が差し込み、地面から突き上げるような揺れが起こった。

 三姉妹が飛び起きて外に出ると、天使のように光を纏った男が空に浮いていた。フードを目ぶかに被り、「貴方たちに一つずつこの玉をやろう、どんな状況もひっくり返す素敵な石だ」とまん丸の石ころを授けて消えた。

 その夜、2人の姉が石を奪いにきた。必死に抵抗するが、到底敵わない。彼女は奪われるくらいならと、がむしゃらに石を投げた。石が放物線を描く途中で爆発する。家丸ごと吹き飛んだ。

 姉妹はもちろん両親も跡形もなく吹き飛んだ。彼女は孤児院に預けられる事になった。その後、「家族の遺体も綺麗さっぱり吹き飛んでいたが、この石だけは残っていた。悪いが遺品はこれしかない」と2つの石が帰ってきた。

 それからは凄惨な人生だった。新参者は、イジメの対象にするには格好の獲物だったのだろう。しかし年を重ねるにつれ、姉たちのような美貌が目立ち、助けてくれる男友達が増えた。だが、それに伴いイジメは陰湿になる。告白を断れば、その男友達は助けてくれなくなった。

 それでも彼女は生きた。「いつでも殺せる」と2つの石を握りしめながら。

 そうして彼女は成人した。すぐに商人にみそめられ、家政婦として住み込みで働いた。しかし夜伽を迫られた。いつでも殺せる。そう念じ続けなが耐える夜が続いた。そして身籠ってしまった。もともと妻子持ちの商人だ。「腹が出ると掃除もできんだろ」と彼女はクビになった。

 いつも男の視線を感じ、身の危険を感じていたのに、妊婦になった途端、誰も声をかけてこなくなった。気楽だった。彼女はそこで初めてお腹の子に感謝した。そして故郷の村に帰る事にした。

 村は驚いたが拒絶はされなかった。むしろ妊婦と知るや、事情を察して受け入れてくれた。あの時に助けてやれなかったからと。

 彼女は子を産む前に結婚した。相手はただの農家の長男だった。彼は家業を継ぐ事に前向きで、毎日まじめに働いた。口数は少ないが冷たいわけじゃなかった。

 子供が生まれた。女の子だった。夫は人が変わったように可愛がった。親バカだった。

 だが、幸せは突如して奪われた。

 戦争が始まった。村は瞬く間に蹂躙され、さらに敵兵の拠点にされた。

 脱ぎ捨てられた甲冑と武器が散らばる中で、「いつでも殺せる」と念じ続ける夜が再開した。

 敵兵から見れば、つまらないおもちゃだったのだろう。見た目は1番いいのに反応がないからだ。

 そのせいだった。そのせいで娘が殺された。

 いつものように組み敷かれ、体を弄られていると、敵兵が彼女の顔に肉塊を投げて寄越した。無感情でそれを退けると、頭を割られた我が子だった。

 彼女が半狂乱になるのを、敵兵は手を叩いて笑った。

 気づいたら石を投げていた。何をひっくり返したいがと願う前に、石が爆破した。

 彼女が目を開けると、隣に死んだはずの姉2人が眠ってた。起き上がると、手の中に最後の石があった。

 過去に戻ったのか、しかしいつまで戻ったのか。

 彼女は起き上がり窓の外を見た。待てども石をくれた男は現れなかった。

 翌朝、試しに姉2人に石を見せ、「あげる」と言った。興味なさげに「要らない」と言われて、彼女は内心歓喜した。

 過去が変わったからだ。

 そして彼女はその村で育ち、姉たち同様、村の男と結婚した。今度はあの農家の長男との恋愛結婚だった。

 幸せだった。生まれた子供は男の子だったが、夫は変わらず子煩悩になった。

 ある夜、玄関が蹴り破られた。

 罵声と怒声。悲鳴と絶叫。

 嫌というほど聞いた、鉄がぶつかり合う足音。

 何が起こったかすぐに理解した。

 女は迷わず石を握って、外に飛び出した。

 過去に戻っても無駄。過去が変わっても無駄。

 目の前の敵兵を殺しても、きっと次の敵兵がくるだけ。

 誰を殺せばいい。

 この一発が最後だ。

 誰を殺せばいい。

 答えはすぐに出た。

 彼女の投げた石が、放物線を描いて、ふっと消えた。

 固まった彼女の腹に、小さな鉛玉が貫通した。

 崩れ落ちた彼女が石を探して、這いずった。だが、あの丸い石がどこにも見当たらなかった。

 彼女の視界を、緑色ぽい変な柄の靴が塞いだ。

 顔を上げると、フードを被ったが敵兵が鉄の筒を向けていた。

 フードの奥で男が薄笑いを浮かべて口を動かした。

「ご苦労」

 鉄の筒のカッと光った。

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