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第8話:テケテケのスクールゾーン

「カカカカカカッ!」


 夕暮れの通学路。

 逢魔がおうまがときを過ぎ、茜色の空が紫に染まり始める頃。


 乾いた音を立てて、それが走ってくる。

 硬い爪がアスファルトを削る音。


 上半身だけの少女。

 腰から下が断ち切られた制服姿。


 両手で地面を叩き、驚異的な速度で移動する怪異「テケテケ」。


「……速いっすね! これ、原付より速いですよ!」


 九条が走って逃げる。

 息が上がる。心臓が早鐘を打つ。


 時速60キロとも、100キロとも言われるテケテケの速度に、人間が勝てるわけがない。

 背後から迫る異様な足音(手音?)が、恐怖を煽る。


 カサカサというよりは、ガリガリと骨が削れるような音だ。

 振り返らなくてもわかる。彼女(?)は笑っている。獲物を追い詰める狩人の笑みだ。


(くそっ、なんで俺ばっかり! 口元さんはどこだ!?)


 九条は必死に足を動かすが、距離は縮まる一方だ。

 視界の端に、地面を這う黒い影が見えた。

 速い。あまりにも速すぎる。生物としての構造を無視した加速だ。


「カカカッ! 足、寄越セェ! オ前ノ足、良サソウダナァ!」


 テケテケが鎌を振り上げ、九条のアキレス腱を狙う。

 鋭い刃が、ふくらはぎの肉を切り裂こうとした――。


 その時。


 ドォン!!


 上空から何かが降ってきた。

 重厚な着地音が響き、アスファルトに亀裂が入る。


 裂だ。

 歩道橋の上から飛び降りてきたのだ。

 トレンチコートの裾が、着地の衝撃波でバサリと舞い上がる。


「……チッ、動きがちょこまかと。ゴキブリみたいね」


 裂が着地と同時に鋏を振るう。

 横薙ぎの一閃。


 テケテケは驚異的な反射神経でそれを躱した。

 地面を這うような低い姿勢で、攻撃を回避する。


「カカッ! 足、無イ! オ前、足、綺麗! ズルい!」


 テケテケが裂の美脚を見て目を輝かせた。

 羨望と嫉妬が入り混じった、濁った瞳だ。


 裂はスラリとした足を組んで見せる。

 黒のストッキングに包まれた脚線美を、わざとらしく見せつける。


「あら、わかる? 毎日マッサージしてるからね。むくみ対策は完璧よ」


「寄越セェェェ! ソノ足、ワタシノォォォ!」


 テケテケが激昂し、跳躍した。

 低い姿勢からの不規則な軌道。

 予測不能な動きで、裂の太ももに噛み付こうとする。


 しかし、裂は動じない。


「アンタね、確かに速いけど……」


 裂が右足を高く上げた。

 バレリーナのように美しく、そして鋭く。


 かかと落としの構え。


「視点が低すぎるのよ! 地面ばっか見てんじゃないわよ!」


 ドガァァン!!


 裂のハイヒールが、一直線に振り下ろされた。

 テケテケの脳天を直撃する。

 まるで杭を打つような一撃。


 地面にめり込むテケテケ。

 頭蓋骨が砕けるような音が響いたが、怪異なので死にはしない。


「目線が低いと、上からの攻撃に弱いでしょ? 視野が狭いのよ」


「カ……カ……」


 テケテケは目を回している。


「それにね、教えてあげる」


 裂がテケテケを見下ろす。

 その視線は冷徹だ。


「足がないってことは、ヒールで踏みつける楽しみも味わえないってことよ。可哀想に。女の楽しみの半分を損してるわね」


 完全なマウント(物理的にも精神的にも)。

 テケテケのコンプレックスを容赦なくえぐる精神攻撃だ。


 テケテケは涙目で地面を掘り始めた。


「ウワァァァン! イジワルゥゥゥ!」


 猛スピードで地中へと逃げていく。


「……容赦ないですね。相手、子供ですよ?」


 九条が戻ってくる。

 肩で息をしながら、呆れたように言う。


「当たり前でしょ。私の美脚に傷つけようとした罪は重いわよ。それに、子供だろうが年寄りだろうが、怪異は怪異よ」


 裂はヒールの汚れを気にしながら歩き出した。


「スタイル維持も楽じゃないのよ。毎日のスクワットの成果ね」


 その背中は、どんなプロのアスリートよりもストイックに見えた。

 ただ、そのストイックさが向いている方向が、少し常軌を逸しているだけだ。


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