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プロローグ2

※本章より、主人公アルヴェン視点で物語が始まります。

中庭の、喧騒から離れた場所にあるコンクリートのベンチを見つけた。


イヤホンを耳に差し込む。

騒がしい工場の世界は、遠くのざわめきへと変わった。

無視できる音のカーテン。


風が吹き始め、雨の最初の気配を運んできた。


動画アプリを開く。


小さな画面の中で、コーヒーの起源についてのドキュメンタリーが流れ始めた。


収穫の様子。

赤く熟した実を待つことを知っている、繊細な手。

ゆっくりと手作業で行われる乾燥と選別の工程。


苦い種が、文明を支える飲み物へと変わるまで。

水と火がどう操られていたか。


次に別の動画を見た。

今度は砂糖についてだった。


手で刈られるサトウキビ。

古い圧搾機で搾られ、長く煮詰められ、空気には甘く粘る香りが漂う。

液体が、一粒一粒、結晶へと変わっていく。


何世紀も前の発明や工程を見つめながら、胸の中は奇妙な敬意と鋭い痛みで満たされていった。


過去の人々。

彼らこそが築いた者たちだった。


もし、ああいう発明の発想が俺に委ねられていたら。

文明は今でも遅れたままだっただろう。

きっと、廃墟のままだ。


その考えは、胃に拳を叩き込まれたみたいに響いた。

俺はただの消費者だ。

彼らが築いた文明の、役立たずな産物。


スマホのデジタル時計を見た。

青い画面の光が点滅し、俺に知らせる。

昼休み終了。


また、重たい在庫の現実に戻る時間だ。


午後の残りは、引きずるように過ぎていった。


数を数え、仕分けをし、激しい雨がトタン屋根を叩く音を聞く。

サイクロンは、想像よりずっと近い場所まで来ている気がした。


午後五時、最後のベルが鳴った時、それはまるで刑期の終わりみたいだった。


レオに軽く手を振り、ぶっきらぼうに別れを告げる。

リュックを背負い、バス停へ向かった。


もうイヤホンは耳に入っていた。

音楽は、疲れと世界の騒音を防ぐ盾みたいだった。


大通りの、ぽつんとした停留所でバスを降りる。


まだ湿ったアスファルトが、嵐の早すぎる闇に抗う街灯の弱い光を受けて鈍く光っていた。


渡る前に、通りの様子を確認するため立ち止まる。


本来なら、夕方の交通で溢れているはずだった。

怒った川みたいに車が流れ、俺も何度かここで轢かれかけたことがある。


なのに今は、完全に無人だった。


車もない。

人もいない。


エンジン音の欠如は、騒音そのものより不気味だった。


俺は渡った。


リュックを背負い直したその時、スマホが鳴り、イヤホンの音楽を切った。


政府からの通知だった。


「緊急警報:暴風・豪雨。避難してください」


形式的で冷たい文面。

その無機質さが、空の陰鬱さと妙に対照的だった。


メッセージを読み、物憂げなため息をひとつ漏らし、そのまま歩き続けた。


細い通りへ入る。

交通の音――いや、その欠如が、後ろで次第に消えていく。


何とかする。


その約束が、頭の中で繰り返される。


でも、何をする?


人生を変えるのは、パレットを持ち上げるよりもずっと重い。


その人通りのない道の静けさは、ほとんど不自然なくらいだった。


最後の区間に差しかかった時、強い風に体がよろめいた。


嵐の中で吹き続ける風とは違う。

それは、まるで山の向こうから一気に吹き下ろしてきた突風だった。


木々は激しく揺れ、落ち葉の雨が俺の周りで渦を巻いた。


衝動的に、土手を駆け上がった。

近道と、もっと広い視界を求めて。


それはいつもの癖だった。


そこからなら、市街地の中心が少し見える。

低い建物の群れと、一本だけそびえる大きな高層ビル。


だが、今日の光景は違った。


地平線の向こう。

早足で四十五分ほど先に広がる都市の上に、巨大な灰色の塊があった。


サイクロン。


あまりに巨大で、あまりに強大で、遠くにあるはずなのに、その風圧がここまで凶暴に届いている。


俺が見ていたのは嵐じゃなかった。

殲滅そのものだった。


恐ろしくなって、イヤホンを外す。


現実の世界の音、風の咆哮が、全身を殴るように襲ってきた。


家へ走らないと。

みんなに知らせないと。


だが、次の瞬間、雨が来た。

もっと激しく。


空は自然を嘲笑うような速さで暗転していった。


一瞬で、灰色は夜に変わった。


くそ。

傘、ロッカーに忘れた。


俺は通りを走り始めた。

今度は風が正面から押し返してくる。


その時だった。


あの暴風の中で、別の風を感じた。


もっと軽くて、もっと暖かい風。


肌に寄り添うような、心地いい熱。


その柔らかな風が通り過ぎた時、音がした。


「アルヴェン」


誰かがすぐ隣に立って囁いたみたいだった。


俺は反射的に立ち止まり、勢いよく振り返る。


左右を見る。

遠くの雷鳴のリズムに合わせるように、心臓が激しく打っていた。


誰もいない。


激しい雨と冷たい風が再び強まり、俺を我に返らせる。


首筋に、妙で耐えがたい感覚が走る。


振り返る。

今しがた通ってきた風景へ。


木々も、土手も、闇に呑まれていた。


絶対的で、固体のような暗闇が、音もなくこちらへ迫ってくる。

アスファルトを食い尽くしながら。


怖くなって、俺は走り出した。


風と雨は液体の壁みたいだった。

それでも走る。


前を見る。

だが、そちらの風景も闇に変わり始めていた。


闇は、あらゆる方向から迫ってきていた。


落下感は、その闇に呑まれるより先にやってきた。


足元の地面が、突然、消えた。


俺は浮いていた。


虚無。


光もない。

音もない。

ただ、無限の闇の中に、自分の体だけが孤立している。


あの軽くて温かな風が、また戻ってくる。


そして、甘く儚い囁き。


「アルヴェン」


一瞬、何かに届きそうな気がした。

確信みたいなものに。


俺は手を伸ばす。

その確信を掴もうとして。


だが、指先が何かに触れる前に、俺は落ちた。


衝撃は鈍く、悪夢の中でベッドから落ちた時みたいだった。


最初にやってきたのは痛み。


俺は起き上がり、それを無視しながら、何が起きたのか理解しようとした。


闇は消えていた。


周囲を見回す。


そこは広い広間だった。

石壁にはタペストリーが飾られている。


そして、衝撃。


そこには、そこそこの人数の人々がいて、全員が俺を見ていた。


重い布地と高貴な色合いの服。

まるで時代劇か何かからそのまま出てきたような格好。


視界の中心、その奥。

立派な椅子に腰かけている一人の王と一人の王妃。

冠と装いが、その身分を疑いようもなく示していた。


目はすべてを捉えているのに、頭が処理を拒否していた。


その視線の重みが、一斉に俺にのしかかる。


それは、俺が自分自身を評価する時によく知っている種類の視線だった。

ただ、それが何十人分にも増幅されていた。


失望か。

怒りか。

どちらも混ざった、破壊的な何か。


左へ顔を向ける。


そこには六つの人影。

俺と同じように、好奇心と恐怖を目に浮かべながら周囲を見ている若者たち。


何が起きてるんだ?


ここはどこだ?

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