(1)彼を叩いた初夜
私の婚約者はこの国の王子だ。
私は幼い頃から彼の婚約者として王妃教育を受けてきた。
王妃にふさわしい人間になるため、陰日向、昼夜問わずに努力をしてきた。
「ヘンリエッタ」
ベッドの上で向かい合う彼は、戴冠式の時よりも近い。結婚式の時、はじめて彼との距離が縮まった気がする。机一つも隔てない距離。手の届く距離。
「はい。リカルド様」
光を透かすほどの麗しい金髪が、エメラルドグリーンの瞳に陰を作っている。彼はしなやかな長い指でそっと払い、思い詰めたような瞳で私を見つめた。
「実は――僕はマゾヒストなんだ。だから、ベッドの上では君に王としての尊厳を破壊して欲しいんだよ」
「……はい?」
「もう一度、簡単な言葉で言うね。僕はマゾヒストだ。いじめて欲しい」
「……はい?」
「いじめてください女王様」
「えっ? もう始まっているんですか!?」
「あっ。これ、そういうプレイじゃなかったのかい? なるほど、やはり君には女王様の資質がある! 素晴らしい!」
「や、やめてください! そんなことをするつもりはありません!」
「いやいや。君は真正マゾのこの僕が見込んだ女王様だ。そんな悪役令嬢みたいな女王様向きのキツい顔でこの育ち方、抑圧されていないなんて嘘だろう」
一生懸命、熱烈に説得されている。
でも、親からもらった顔のことを言われたせいだろう。彼がとても憎らしく感じた。
右手を振り上げて、彼の頬に向けて下ろす。
ぱしいんと乾いた音が立った。
ああ、王の頬を叩いてしまった。きっと、これくらいは我慢しなくちゃいけないはずなのに――。
「素晴らしい! 次はケツにお願いします!」
彼はパンツを下げてお尻を向けた。引き締まった綺麗なお尻だった。




