1-8 狂人の日常
暁星学院研究域 自然魔法科学研究棟━通称「シマ研」。
3年生及び、研究員、教員などが魔法に関する研究を日々、行なっている場所だ。
その中の魔法工学科の3年生、秋野紅葉は、自身の研究室にて実験結果を自身のノートパソコンでまとめていた。
同じ部屋で、共同で研究をしている同学年の男━貝塚兼孝は、椅子の背もたれに寄り、何かを考えている様子だった。
デジタルの時計は16時48分。
兼孝と紅葉は、新入生の体力測定のTAから帰ってきた直後だった。
「貝塚ー」
紅葉は、そんな兼孝の様子に、ついに痺れを切らして声をかけてみた。
しかし、返事がない。もう一度、名前を呼んだが、やはり無言。
まさかと思い、兼孝の真横まで近づいてみた。
兼孝の顔をよく見ると、目を閉じていた。
つまり
THE 居眠り。
「寝とんのかい!」
「べほっ!」
紅葉は、兼孝の額を手のひらで叩いた。椅子のバランスを崩して、転倒。頭、床に激突。
「あいたたたた……何するのさぁ〜」
この男、徹夜明けで寝ていないのだ。
「まったく……徹夜で何してたのよ?」
「ああ、この論文、見てよ。この式が腑に落ちなくてさ、何十回と計算しても、どうにも数値が合わないんだ。論文中にも説明なく当たり前のように書いてあるからさぁ、ムキになってたら━」
「外が明るくなってた、と」
「そーう!」
紅葉は頭を抱えた。半年前から兼孝とコンビを組んでいるが、ずっとこの調子だ。
貝塚兼孝という男は、ここ半年で何枚も魔法に関する論文を出しており、学院の上層部からは「扱い方を間違えなければ天才」と称されている。
気の抜けそうな声に情けない格好、おまけに常人には理解に苦しむ言動の数々。
紅葉は、何かと暴走しがちな兼孝の「ブレーキ役」としてコンビを組まされている、いわば「貧乏くじ」を引かされた立場にいる。
同期からは「暴走機関車」「黙っていればカルノー」「貝塚不健康」など、不名誉なあだ名で呼ばれている。カルノーに謝れ。
散々な評判だが、天才ゆえにアドバイスを求められると、茶化したりふざける事はほとんどなく、真剣に向き合う面もあるため、憎めない。
兼孝は、ばっと立ち上がり、両手を上に伸ばし、ラジオ体操のようにバタバタさせ始めた。
「きょーうは、おわりいぃぃぃっ!コンプリィィィィイトっ!」
何がコンプリートかはわからないが、寮部屋に帰って寝るのだろう。
「何か言いそびれた気がするけどまあいいや〜。おーつーかーれー!バイバイ!」
兼孝は部屋を出て行った。
……マイペース過ぎる。
紅葉は、唖然とした後、気を取り直して、まとめの続きを行うのであった。




