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氷銀の魔女  作者:
9/21

1-8 狂人の日常

 暁星学院研究域 自然魔法科学研究棟━通称「シマ研」。


 3年生及び、研究員、教員などが魔法に関する研究を日々、行なっている場所だ。


 その中の魔法工学科の3年生、秋野(あきの)紅葉(くれは)は、自身の研究室にて実験結果を自身のノートパソコンでまとめていた。


 同じ部屋で、共同で研究をしている同学年の男━貝塚(かいづか)兼孝(かねたか)は、椅子の背もたれに寄り、何かを考えている様子だった。


 デジタルの時計は16時48分。


 兼孝と紅葉は、新入生の体力測定のTAから帰ってきた直後だった。


「貝塚ー」


 紅葉は、そんな兼孝の様子に、ついに痺れを切らして声をかけてみた。


 しかし、返事がない。もう一度、名前を呼んだが、やはり無言。


 まさかと思い、兼孝の真横まで近づいてみた。


 兼孝の顔をよく見ると、目を閉じていた。


 つまり


 THE 居眠り。


「寝とんのかい!」


「べほっ!」


 紅葉は、兼孝の額を手のひらで叩いた。椅子のバランスを崩して、転倒。頭、床に激突。


「あいたたたた……何するのさぁ〜」


 この男、徹夜明けで寝ていないのだ。


「まったく……徹夜で何してたのよ?」


「ああ、この論文、見てよ。この式が腑に落ちなくてさ、何十回と計算しても、どうにも数値が合わないんだ。論文中にも説明なく当たり前のように書いてあるからさぁ、ムキになってたら━」


「外が明るくなってた、と」


「そーう!」


 紅葉は頭を抱えた。半年前から兼孝とコンビを組んでいるが、ずっとこの調子だ。


 貝塚兼孝という男は、ここ半年で何枚も魔法に関する論文を出しており、学院の上層部からは「扱い方を間違えなければ天才」と称されている。


 気の抜けそうな声に情けない格好、おまけに常人には理解に苦しむ言動の数々。


 紅葉は、何かと暴走しがちな兼孝の「ブレーキ役」としてコンビを組まされている、いわば「貧乏くじ」を引かされた立場にいる。


 同期からは「暴走機関車」「黙っていればカルノー」「貝塚不健康」など、不名誉なあだ名で呼ばれている。カルノーに謝れ。


 散々な評判だが、天才ゆえにアドバイスを求められると、茶化したりふざける事はほとんどなく、真剣に向き合う面もあるため、憎めない。


 兼孝は、ばっと立ち上がり、両手を上に伸ばし、ラジオ体操のようにバタバタさせ始めた。


「きょーうは、おわりいぃぃぃっ!コンプリィィィィイトっ!」


 何がコンプリートかはわからないが、寮部屋に帰って寝るのだろう。


「何か言いそびれた気がするけどまあいいや〜。おーつーかーれー!バイバイ!」

 

 兼孝は部屋を出て行った。


 ……マイペース過ぎる。


 紅葉は、唖然とした後、気を取り直して、まとめの続きを行うのであった。

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