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氷銀の魔女  作者:
8/28

1-7 体力測定②━規格外は数値すら不要━

 握力計破壊事件の一悶着はあったものの、その後の測定は思いの外スムーズに進んだ。


 上体起こし、反復横跳び、立ち幅跳び、50メートル走など、ユリィはやはり常識の範囲内を超えた記録を叩き出した。


 和真は、ユリィの記録は、女子平均どころか、男子平均基準でも上位0.27%に入っているのでは、と軽く見積った。


 中でも、「魔法適性検査」。専用のマシンを装着し、魔法適性をデジタルモニターにて数値で表す。


 なんでも、「1秒あたりの魔力流の移動具合」を測っているのだとか。詳しい理屈は割愛するが。


 新入生の相場平均値は100らしい。和真は87、竜二は97だった。後から聞いたが、ゆかりは118らしい。


 注目すべきはやはり、ユリィ・フロストだった。


 彼女の測定結果は、なんと


━unmeasurable━


 つまり、「測定不能」。


 ゼロとか、具体的な数値とか、エラーとかではなく、測定不能。


 意味がわからなかった。


 教員は何度も測定を試みたが、結果は不変。


 結果、教職員の話し合いでは、ユリィの魔法適性は、「測定範囲を超える程の規格外」という結論に達した。





 午後。


 1時間30分の休憩時間の間に昼飯を食べる。午後からは10kmマラソンが待ち受けている。


 和真は体操服のまま持参の弁当と水筒を食堂に持ち込み、着席する。

 

 お昼時なので、食堂が混むことがわかっているためか、教員たちは11時半にキリよく休憩時間にしてくれた。


 同じテーブルに着席したのは、祐一、竜二、そしてゆかりと、ゆかりの女友達3人だった。


 彼らは全員、食堂の料理をトレーに乗せてきた。

ご飯、味噌汁、揚げ物のおかずの者もいれば、ラーメン、うどん、カレーライスなどの単品を注文した者もいた。


 一方和真は持参の弁当。おにぎり3個、ポテトサラダ、一口サイズのサラダチキンにスライスチーズを包んで胡椒をかけたもの、そして卵焼きだ。


 和真達は、自身や他者の体力測定の結果などで他愛もない会話をしていた。


 途中和真の弁当にも言及され、一応手作りだと和真が答えたところ、「すげー」などの賞賛の声が上がった。和真としては、おかずの見た目は不細工極まりないと思っていた。その上、たまに面倒になって冷凍食品やレトルト食品で済ます時もある。それで賞賛されるのは、少し背中が痒くなる。


 食事が完了した後は、混雑解消のために食堂を後にする。13時までの間は、それぞれの時間を過ごす。


 和真は先にグラウンドに向かった。砂場で胡座をかいて座り、目を閉じることで身体中に溜まっていた乳酸を少しでも取り除く。




 13時10分、ついにマラソンが始まった。


 学院敷地外をぐるっと一周する時間を測定する、単純なマラソンコース。


 チェックポイントには、教員やTA━Teaching Assistantの略で、教員の補助を行う上級生━が配置されており、全員が固定カメラの管理をしている。


 そのため、本来のコースから逸脱し、より短いルートを走ろうとする行為、いわゆるショートカットなどの不正行為は不可能。


 教員のヨーイドンの合図で、120人は一斉に走り出した。


 和真はあくまで自分のペースを保つ。前の走者を抜かそうとか、後ろに追い付かれないように、などは一切意識しない。


 途中の曲がり角でTAの上級生の女子が「頑張ってねー」と走者に声を掛ける。


 さらに5個目のチェックポイントでは、ボロボロの白衣を着用し、メガネをかけたボサボサ頭の上級生がおり、呑気で気の抜けるような声で「はぁ〜い、呼吸はひっひっふーだよ〜ん」などと、意味不明な掛け声をしていた。


 集中して走っていたためか、気づいたら和真の周りには誰も走っていなかった。


 学院のグラウンドに戻り、ゴールの白線に辿り着いた。


 流石に疲れた。砂場にも関わらず、和真は寝っ転がってしまった。


 息を整えていると、教員が順位を示すカードを渡してきた。和真は、「ありがとうございます」と、息切れしながら受け取った。


 そのカードには「2位」と表記されていた。


 よくよく周囲を見渡すと、銀髪の少女が1人。


 相変わらず長袖長ズボンで、何ごともなかったかのように突っ立っている。


 和真はようやく、ユリィ・フロストに対する違和感を言語化できるようになった。


(なんだ、この子は?まるで……)


━━頑張っている顔じゃない。何かに追い詰められているのでは。


 そう思っていた時、ゆかりが6分遅れて3位でゴールしてきた。やっぱり肩で息をするくらいには息切れをしていた。


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