表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷銀の魔女  作者:
6/25

1-5 均衡が破られる瞬間

 学食での夕食の後、寮部屋に戻り、夜食を先に用意しておき、一服として流行りの漫画を熟読する。静かな夜に緑茶を片手に読書を嗜むのも悪くない。


 アナログ時計の短針は10に近付きつつある。漫画の先の展開が少し気になるところだが、翌朝までお預け。


 もはや毎晩足を運んでいるトレーニングジム。行くたびに銀髪の少女が規格外のトレーニングを文字通り涼しい顔でこなしている。


 特に話しかける理由もないので気にしていなかったが、よくよく思い返すと「やばくね?」という語彙力皆無の感想が頭に浮かぶ。


 いつも通り和真はジムに入り、今日は脚力を鍛えるためにフリースペースでスクワットから始める。


 同じ空間にいつもの銀髪少女がいた。黒の長袖のインナーにズボンジャージ。その少女は右腕だけで腕立て伏せをしていた。しかもスリムな腰部に重そうな鉄球を乗せてさらに負荷を掛けている。……腕が折れそう。


 和真はいつも通り知らんぷりを決め込む。


 するとジムの入り口からから小さな影が現れた。


━━猫


 キジトラの成猫だ。木製のドアが軽いためか、純粋に身体で押して入って来たのだろう。


 猫は腕立て伏せをしているユリィに向かっていき、ユリィの顔の前で、前足を身体の前に揃え臀部をマット床につけて座った。「エジプト座り」と言うらしい。

 

 流石のユリィもトレーニングを中断せざるを得なかった。


 ユリィは首輪に首輪に視線を落とした。ネームプレートには


小野小町35世


 と、マーカーで手書きで記載されていた。


……これはこの猫の名前なのか━━和真にはそうとしか思えなかった。名前だとしたら実に珍妙で、突飛で、滑稽だ。名付け親の顔が見てみたい。


 猫の名前にしては余りにも逸脱が過ぎる文字列に違和感を抱いたのか、ユリィはつい首を傾げた。


「35世」


 名前のインパクトの大きさに、つい口から溢れてしまった。


 和真は一連の流れをただ眺めていた。ユリィの溢した言葉を回収した。


「35世…なんだ…」


 失笑。


「……知らない。首輪にそう書いてあった…」


 ユリィはありのままの情報を淡々と、手短に伝え、猫の頭を優しく撫でた。彼女の表情は少しだけ柔らかくなったような気がした。



 これが、和真とユリィの初めての会話だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ