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氷銀の魔女  作者:
58/60

6-5 大きなもの

 和真達は絶句した。


 ロッカーの中のハンガーにかけられていたはずのユリィの制服が、見るも無惨な姿に変わり果てていた。


「こ、これは……!」


 和真は心を痛めた。遊園地でのユリィの笑顔が脳裏に浮かんだ。そして、握る拳が無意識に強くなっていた。


 こんなことをする人物━ユリィを妬み、化け物扱いをした、あの令嬢。


「あいつ!絶対に許さない……っ!」


「落ち着いて和真、小渕さんがやったという証拠はないよ!」


 ゆかりも真っ先に紗子を疑ったようだが、冷静に考えてみると確かに証拠は不十分だろう。


 兼孝は制服の一部を手に取った。


「これは酷いね、こんな事をした人の品性を疑うね━和真クン、北条さん、こういうのは写真に残して、証拠としてまとめよう」


 和真とゆかりは兼孝の意見に、何も言わずに首を縦に振った。和真は震える手で、変わり果てた制服をスマートフォンのカメラで撮影した。


「にしても、切り方があまりにも雑だね。切り口が直線的じゃなくて蛇行気味だから、紙用のハサミで無理矢理切ったのかな。だとしたら、たかだか数分で1人だとここまで酷くできないんじゃないかな」


「つまり━」


「最低でも2人は必要ってことか……」


「この件はボクも調査してみるよ、今はユリィさんの所へ行こう」





 医務室。


 和真達は医務室に入室し、暁星学院に駐在する医師━クリストフ・ルノワールに搬送された経緯など事情を説明した。


「なるほど、君達の話をまとめると、フロスト嬢は《心的外傷後ストレス障害》だと思われる」


「PTSDってやつだね。事故とか事件とかがトラウマになってフラッシュバックするやつ」


 クリストフの診断に対し、兼孝が付け加えた。


「PTSD……」


 和真は衝撃のあまり、病名を復唱することしかできなかった。


 今もベッドで眠るユリィを見る。


 ユリィが起こしたであろう現象。空間の揺れと虹色の光━


 紗子や他生徒の「化け物」という心無い言葉━


 和真には、遊園地で無邪気にはしゃいでいた少女が人の範疇を超える存在だとは、到底思えなかった。


「いったい、ユリィに何が……」


 ボロボロになったユリィの制服を抱えながらゆかりは問いかける。


「それは分からない。だが、よほど過酷な人生を歩んできたのは想像に難くない」


 クリストフは神妙な面持ちで言った。


━ユリィを、この人を支えたい。


 和真は拳を握りしめた。


 その時、ユリィの目が開いた。


「……みんな、おはよう…」


 ユリィが目を覚まし、和真とゆかりはベッドに駆け寄った。2人同時に、もう大丈夫か?と聞かれ、ユリィは戸惑いながらも「大丈夫」と答えた。


「えっと、あの、ユリィ、その……制服なんだけど……」


 ゆかりの表情が暗い。


 ユリィは、変わり果てた自身の制服を目の当たりにした後、しばらく無表情で何も話さなかった。


「……大丈夫、あと4着あるから…」


 ユリィは淡々とそう言った。


 しかし、和真は素直に安心できなかった。


「ねぇ、ユリィさん、答えたくなければ答えなくてもいいんだけどさ━」


 兼孝は和真の背後から問いかける。


「キミが起こしたあの現象って、何か心当たりはあるの?あれを意図して起こしたものだとは到底思えないんだ」


 数秒間の沈黙━


「……知らない」


「もうひとついいかい?もしかして前にもあのお嬢様に因縁つけられたんじゃないかな?」


「そうです。その時は和真が追い払いました」


 代わりにゆかりが答えた。その場面の目撃者だったからだ。


「……知らない」


 ユリィは遅れて答えた。


 相変わらず無表情だが、ユリィの視線が若干下がっていた。





 和真、ゆかり、兼孝は医務室を後にした。次の授業までに時間が空いているため、ユリィはもう少し医務室で休むことにした。


「和真クン、ちょっと顔貸してもらえない?」


 兼孝がいつものテンションで訊ねた。ちゃらんぽらんなはずなのに、目は笑っていなかった。


「え?わかりました」


「じゃあ私は先に行ってるね」


 和真が了承すると、ゆかりは離れていった。


「和真クンさ、正直に答えてね。率直に聞くよ━」


 和真は息を呑み、身構えた。


「ユリィさんのこと、好きでしょ?」


 時が止まった気がした。


━え?なんでわかったの!?


━なんで今それを…っ!


 図星を突かれ、和真の心臓が急にうるさくなった。


「…やっぱりね、見てたら分かるに決まってんじゃん」


 まだ何も言っていないのに兼孝は和真のリアクションだけで断定した。


「からかうつもりはないよ、ただ心配なだけ」


━どういうこと?


「多分だけどユリィさんは、キミが思ってる以上に大きなものを抱えてると思う。キミはそれでもユリィさんの隣にいられるのかな、って」


 兼孝はさらに続ける。


「場合によっては、彼女の過去や人生そのものを背負う覚悟がいるかもね」


「人生を背負う覚悟……」


「その先は茨の道かもねぇ、なんてね。ちょっとそう思っただけ。気にしないでね、じゃあねええ!」


 兼孝は言いたい事だけを言って立ち去った。

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